★第六章★ 真実(7)

 止むことのない地響きのような音と、絶え間なく続く揺れを感じる。

 暗い洞窟の奥で、シホは冷たい石のように鎮座していた。

 目の前に置かれた法器がカタカタと震えている。形状は似ているが、シホのものより二回りほど大きな――ステラの法器。

 ――ミーティアが闘っている。

 自分の願いのために――わたしのために。

 なんでだろう――もう無駄なのに。

 わたしはもう――何もかもどうでもいいのに。

 願いなんて――何もないのに。

 生きてなんて――いたくないのに。

 それなのに――手が冷たい。

 無意識にポケットの中を探っていた。

 ――馬鹿みたいだ。

 手に当たる毛糸の柔らかな感触――その中にカサカサとした感触が混じった。

 ――?

 引っ張り出すと、くしゃくしゃになった便箋だった。

 これは確か、おばあちゃんから渡されたレイナちゃんの――

 封筒を開くと、四つ折りになった一枚の紙が入っていた。

 …………

 しほおねえちゃん へ


 おねえちゃんのおかげで おかあさんが かえってきたよ ありがとう

 おかあさんは あたしのこと わすれてなかったよ すごくうれしかった

 だけど あたしのせいで おともだちと けんかしちゃったんだよね ごめんなさい

 それとね あたし ほんとうは しってたんだよ

 しほおねえちゃんが おねえちゃんのおかあさんを さがしにきたってこと

 だから こんどは あたしが おほしさまに おねがいするね

 おねえちゃんが おねえちゃんのおかあさんと あえますように

 おねえちゃんが おともだちと なかなおりできますように

 きっと だいじょうぶだよ

 だって しほおねえちゃんは ねがいをかなえる ほしのまじょだもん 

 だから これからも がんばって おねがいをかなえてね


 れいな より

 …………

 一生懸命に、書き綴られた感謝の言葉、謝罪の言葉、そして――願いの、希望の言葉。

 それは――間違いなく彼女の魂の声に他ならなかった。

 ぽたぽたと――手紙が鳴き声をあげた。

 それは言葉となり――

 そして声となり――

 ついにはみんなの顔となって――

 ――――。

 ――お前はあたしにとって大切な存在、大事な友達だ。そしてあたしの願いは大切なものを守る事。

 ミーティア、……ありがとう。

 ――どんな些細なことでも……本人にとっては大きくて困難な……でも、だからこそ大切な願いですわ!

 ベネット、素敵な先輩だったよ。

 ――大切なのは間違いに気が付いて、そしてやり直す事。その勇気を持つこと。

 おばあちゃん、いろんな事を教えてくれたね。

 ――シホの出来る事をやっていけば、それでいいさ。

 ヴィエラ、いつも優しくて頼りにしてたよ。

 ――がんばって おねがいをかなえてね

 レイナちゃん、本当に強くていい子だった。

 ――何があっても、後悔のない生き方を選んで。

 お母さん、大切な事、思い出したよ。

 ――――。

 わたしは間違えた――許されないほどに、間違い続けた。

 でも、それに気がついた――みんなが気づかせてくれた。

 それを正す勇気を捨てたら――みんなの願いを裏切り、無駄にすることになる。

 わたしは――星の魔女。

 願いを無駄になんて――しちゃいけない。

 わたしを想ってくれた、ミーティアの願い。そして――大切な友達を失いたくない、わたしの願い。

 この最後の願いを手放してしまったら、わたしは本当に後悔する。

 …………

 シホはステラの最後の言葉を、もう一度強く思い出す。


 ――そして、これだけは忘れないで。

 ――何があっても、後悔のない生き方を選んで。

 ――何があっても、私はあなたの味方。

 ――愛しているわ、シホ。……永遠に。


「――お母さん。わたしに勇気を――願いを叶える力をちょうだい――!」

 シホは白金の法器を握り、グリップを捻る。三基のエンジンノズルが闇を払い、雄叫びをあげた。

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