★第六章★ 真実

★第六章★ 真実(1)

「追えッ! 逃すな、生け捕りにしろッ!」

 背中にプラーネの声を浴びながら――シホはスロットルグリップを強く握りなおす。

 悲しみに暮れている暇も、後悔に浸っている暇も無かった。

 今は逃げなくては――逃げ切らなくてはならない。ここで捕まっては――今度こそ本当に全てが、みんなの犠牲が無駄になってしまう。

 後方から数十人の魔女たちが一斉に迫ってきている。

 魔女の法器に飛び乗り、最大出力でシホは丘を疾り抜ける。

 シホから遅れる事、数十メートル。追手の魔女たちも次々と法器へと乗り込み、けたたましい音と共に地を離れる。そして一斉に――低空飛行を続けるシホを包囲する網を作るかのように――左右、そして上空、シホの背へと展開し、編隊を組む。

 高度を上げては取り囲まれ、四方からの射撃で撃墜されるのが関の山だ。

 シホは高度を保ち、木々が茂る深い森へと突入していく。

 遮蔽物の多い森の中で――撒くしかない。

 シホは全速力で木々の隙間を縫い、背後と上空から飛来する魔法弾を避け続ける。

 標的を逃した魔力が幹を砕き、腐葉土を巻き散らす。

 空から注ぐ牽制射撃との連携により、シホの背と追跡部隊の距離が次第に詰まってきている。シホを射程圏に捉えたか、シホを追従する魔女の前に魔法陣が展開する。射出口から放出された魔力が収束していき――

 シホが振り返る。目の合った追手が笑みを浮かべたとほぼ同時、唐突な爆発音と共に巨木が倒れ、両者を遮る。

 ――!

 突如眼前に現れた遮蔽物に追手の魔女は高速でそのまま突っ込み、法器の爆発音と共にシホの視界から消える。それを皮切りに、逃走の最中に設置しておいた爆発魔法が次々と起爆し、森を響かせ、後続の追手を駆逐する。

 ひとまず後方からの追手は片付いたようだ。シホは正面に向き直る。

 ――と。既に回り込んでいた三人の魔女が隊列を組み、シホを迎え撃つ。

 時間差をつけて各々から発射される魔法をシホは、僅かな重心移動で掻い潜り――

 更にグリップを捻る。エンジンノズルが青白い炎を吐き法器が加速する。

 そして制動領域を展開。同時に身体を傾け法器を高速で横回転させ――突き進む。

 爆炎の車輪と化したシホが魔女たちを巻き込み、弾き、焼き飛ばす。

 一八〇〇度の回転運動の後、直線運動へと復帰したシホは更に森を駆ける。

 しばし進むと――次第に木々の数が減り、空間が広がりを見せ始める。

 ――森の終わりが近づいている。

 そう思ったシホの目前を閃光が通り過ぎる。

 視線を右に移すと、ハンドガン型の法器を構え並走する魔女の姿が入った。

 シホに狙いを定めつつ、次第に接近してきている。 

 まずい。横からの攻撃に対して有効な手立てを持たない自分には不利な位置取りだ。

 シホは距離を取ろうと左へと身体を傾けるが――

 前方の巨木の影から新たな追手が姿を現し、シホの左に並走する。

 ――挟まれた……!

 シホは速度を上げるが、二人の魔女を振り切れず――段々と距離は狭まっていく。

 左右の魔女が小型法器を構え、射出口に光が集う。

 そして――同時にシホ目がけて二つの閃光が発射される。

 もはや逃げ場はない――

「くっ……そぉっ――!!」

 閃光が胸を貫き――二人の魔女が同時に地にもつれて消える。

 右手を軸に宙を舞い、一回転したシホの身体が法器へと戻る。

 咄嗟にミーティアの動きを真似てみたが、どうにかうまくいったようだ。

 ――森が終わる。

 それと同時に、上空が光に包まれた。

「……!!」

 もはや狙いなどない、多数の魔女による一帯への魔法射撃。

 雨のように隙間なく降り注ぐ熱線が、髪を、頬を、肩を掠め――足を貫く。

「う……あっ……!!」

 体勢を崩し、地を転げ――先に広がる崖下へとシホは落下していった。

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