★第五章★ 願いの先は(9)

「ヴィエラがそれに気づかせてくれたの。本当に、感謝してる。だから……わたしはまたヴィエラと一緒にやっていきたい。星の魔女を辞めるなんて、言わないで」

 シホが甘言を吐き、手を取っている。

「シホ……シホ、ありがとう……ありがとうな……」

 依頼人ヴィエラが涙を流し、そして――ヘクセリウムを生み出していく。

 もう、十分だ。今までの働きの不足を補うほどの収穫とみていいだろう。

 左手の法器に手を伸ばし、メインユニットから延びるグリップを掴む。ユニットごと法器が二つに分解され――コンパクトな右手の法器に刃を宿す。

「がっ――!? ……!?」

 搾りかすとなった女の胸に光を突き立てる。しばらく痙攣する様子を楽しんでから引き抜くと――膝から崩れ落ちて血反吐を吐いた。

「な……なん……で? いった……い、ど……」

 つい先程まで希望に満たされていた瞳を震わせ、こちらを見上げている。

 その眼差しが暗く絶望に満たされ――

 いや――闇に飲まれる寸前、ヴィエラが右手を振り上げる。法器を幾重にも魔法陣が包み、自分を圧壊せんと迫りくる。

 まだこれほどの魔力があったとは――

 しかしこうでなくては――つまらない。

 硬化した法器が側頭部を無残に散らす――直前、刃を返す。

 振り上げた勢いのままに、身体から右腕パーツが分離し、法器と共に放物を描いていく。

 どさり、という音が鳴るまで行方を見届け、振り返ると女が居ない。

 少し先に緑の絨毯を赤く染めながら這いずる姿が見えた。

 もう少し――楽しめそうだ。


「くっ――!」

 ベネットが狙いを定め、トリガーを引き続ける。

 光り輝く弾丸が次々と放たれ、深碧の悪魔に殺到するが――

「さっきあなたはヴィエラを無能と呼んだことを随分と怒っていたみたいだけど……価値がないという意味ではないのよ? 最後はあれだけのヘクセリウムになったのだし、それに……玩具としてはまあまあだったわ」

 プラーネは右手を振り、捻り、払い、無駄のない動きで的確に、数多の銃弾を薙ぎ、刻み、落とし続ける。

「――さて、あなたは……どうなのかしらね」

 そして一歩、また一歩と、プラーネはベネットとの間合いを詰める。

「シホ! 『失われし魔術書』を持って早く逃げるんですの! わたくしが時間を稼いでいる間に……!」

「でっ、でもっ! このままじゃベネットがっ!」

「こんなやつに『失われし魔術書』が渡れば本当に宇宙の終わりですの! シホはそれを星女王さまに届けるんですの!」

「シホ? ……自分がどうすべきなのか――わかっていますね?」

 シホの迷いを見透かしたかのように、悪魔の誘惑の言葉が降りかかる。

「わたくしの事は心配いらないですわ! わたくしが後を見失って……報告をしたせいでヴィエラは――だから必ず敵をとって、後で駆けつけますわ!」

 ベネットは少しずつ後退しながら、なおもトリガー絞り続ける。

 もはやまともに狙いを定める余裕などもない。

「違うの! それはっ……! それはわたしの責――」

「未熟な後輩の失敗をフォローするのは先輩の務めですの! だから……だから早く――早く行けッ!」

 ベネットが振り向き、シホに向かって叫ぶ。

「――!」

 突き動かされたようにシホが記録水晶を掴み、丘を走る。

 それを見届け、ベネットは標的に向き直るが――

 居ない――!?

 ベネットの背筋を冷たいものが流れる。

「しまっ――」

 上空から迫る影に気づいた直後。

 降ろされた刃が肩から胸を薙ぎ――右脇腹に抜けていた。

「ベネット……!!」

 坂を駆け降りながら法器に飛び乗ったシホが最後に見たのは――

 まるで壊れた人形のように不自然な角度で上半身が後ろへと折れ曲がり――そのまま倒れていくベネットの姿だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る