★第四章★ 決意(7)

 う……ぐっ――

 自分が橋から落ち、河川敷の駐車場まで吹き飛ばされたことにミーティアが気づくまで、しばしの時間が必要だった。アスファルトに叩き付けられた衝撃で、身体が思うように動かない。

 気力を絞り、どうにか身体を起こそうとした矢先。鼻先に法器が突きつけられた。

「動かないで。動いたら……撃つ」

「くっ……。最初の水しぶきに紛れて上空に逃れていたってワケか――やられたぜ……」

 ミーティアに川へと叩き落されたあの時、水中でシホは一つ目の爆発魔法を設置。すかさず橋の向こう側、ミーティアの背後にも二つ目の爆弾を設置し――再び元の位置へ。

 そして一つ目の爆発と共に、水柱に隠れ上空へ浮上。二つ目の爆発に気を取られていたミーティアの隙をついて攻撃したのだ。

 言いながらミーティアは……視線を動かす。右手のすぐ先に分離したほうの法器の影が目に入る。被さるように立つシホに視線を戻し、その目を見つめたまま一気に右手を伸ばすが――すかさずシホの左足がミーティアの右腕を捉え、押さえつけた。

 痺れた身体に響く痛みにミーティアが顔を歪める。

「はっ……撃たないじゃないか? それとも――撃てないのか? 命令に縛られるだけの、自分の意志を棄てた生き方しかできなくなったか?」

 あざ笑うようなミーティアの態度にシホが苛立ちを見せ、突きつけた法器でミーティアの顔を払うように殴打する。

「黙って。わたしの勝ち。力のあるわたしが理想を叶えた――もう、これは必要ないね」

 シホは通信魔術書を地面に叩き付けた。ミーティアの横で水晶盤が砕け散る。

「最後にお礼を言うよ、ミーティア。おかげでわたしは間違いに気づけて、こうやって立派な魔女に近づけた」

「…………」

 しばらくミーティアはシホの顔を見つめていたが……諦めたように目を閉じた。

 ――と。

 ずぶり、とシホの足元が揺らぐ。

 ――!?

 シホが視線を落とすと――既に一帯は黒い泉と化していた。

 しまった、と思ったときにはもう遅かった。

 泉から生えるように半身を現したのは黒き獣人――メテオラだ。

 ミーティアを抱え込み、みるみる地中へと沈んでいく。

「シホ――お前ハ……今に後悔することになル。そう……必ズ――!!」

 そう言い残しながら、メテオラはミーティアと共に消えた。

 逃した――今までクーヴァが出現しなかったことで油断していた……!

「くっ……」

 シホが唇を噛みしめていると、遠くからレイナの声が響いた。

 ――おかあさん……!!

 橋の上を見上げると、カナエとレイナ、そしてシホが初めてみる女性の人影が目に入った。

「願いが叶ったみたいだね」

 いつの間にか、隣にいたグレイが呟く。

 法器に光が集い――ソフトボールほどはある巨大なヘクセリウムがシホの手に収まった。

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