★第四章★ 決意(5)

 夕日に染まった芝生の上で、グレイがレイナちゃんと戯れている。

 ん? レイナちゃんがグレイと戯れているのかな? レイナちゃんが先端にふわふわしたものがついた棒を動かしているけど、なんでグレイはあんなに追っかけてるんだろう? なんかの魔法にかかってるのかな?

 そんな光景を眺めながらシホはそう思い、ココアを一口飲んだ。

「それにしても久しぶりねえ、シホちゃん。お友達の事で悩んでた時から、ひと月近くも姿を見せないから、心配してたのよ」

「心配かけてごめんね、おばあちゃん。ちょっと……色々あったから」

 言葉の通り心配そうな顔を向けるカナエに、シホは申し訳なさそうに言った。

「そうかい。……それでお友達は?」

「ううん――それはもう大丈夫。力が足りなかったわたしが悪いの。でも……次は大丈夫だから」

 シホは正面に広がる夕焼け空の彼方を見据え、そう言った。

 カナエは不思議そうにシホの横顔を見ていたが――

「……? シホちゃんがそう言うなら、いいけれど……ああ、それとこれ、シホちゃんに」

 そう言って紙袋を差し出した。

「えっ……? なにこれ?」

 シホの問いにカナエは答えず、微笑むだけだ。

 シホは袋を受け取り、がさがさと音をたてながら中身を取り出すと――

「……わあっ!」

 シホが子供のように歓喜の声をあげた。

 それは桃色の毛糸で編まれた、ミトンカバー付きの手袋だった。

「シホちゃん、少し冷え性だって言ってたし。いつも指先が冷たそうだったからねえ」

「それで作ってくれたの? ありがとうおばあちゃん! 大切に使うね!」

 そう言ってシホは手袋をはめると、その温もりに浸った。

 …………

 しばらく二人で話し込んでいると、ふとシホが思いついたように言う。

「そうだ。おばあちゃん、手袋のお礼をさせてよ。なにかお願いごとない? 欲しいものとか」

「お願いごと……この歳になると、なにかと欲も無くなってくるものだからねえ……」

 そう言ってカナエは上を向いて考える。

「でも……ああ、そうね。レイナに幸せになって欲しいね。普通に母親と一緒に暮らしてもらいたいよ」

 そう言ったカナエの胸元に、シホは大きな光を視た。

 それはシホがこれまで見たことが無いほどに、強く大きく輝いていた。

「おばあちゃん、その願い、わたしに叶えさせて!」

 シホはココアの缶を置き、立ち上がる。

 いつまで待っても――もう側らのごみ箱が鳴くことはなかった。

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