★第四章★ 決意(3)

「こうして二人きりになるのも久しぶりだね。シホ」

 法器の定位置に座るグレイが、景色を眺めながら言った。

「付き合わせちゃってごめんね。グレイも忙しいんでしょ?」

「まあ暇ってわけじゃないけどね。あらかた蒼星はプラーネと一通り回り終ったところだったし、問題ないよ」

「グレイはみんなの法器を管理してるんだよね?」

「うーん。管理というか、整備かな。あとは個別のオーダーに応じて魔法術式のインストールをしたりとか」

「それを星の魔女全員分でしょ!? うわあ、わたしにはとても無理だなあ」

 機械音痴な自分にはぞっとしない仕事だと、思わずシホは身震いする。

「確かにシホには無理かもね。機械音痴に加えて、暗記科目が苦手だったシホは全員分の顔と名前、法器の仕様を覚えられないだろうし」

「ううっ……地味にひどいよグレイ。でも……それなら尚更、わたし一人に付きっきりになっちゃっていいの?」

「ハレイの計らいさ。さすがに単独行動で何かあった時に助けを呼べないのはマズいだろうってね。ま、こういうのもボクの仕事の内さ」

 自らの意志でハレイの命を受けて以来、シホは単独でヘクセリウム確保に臨んでいた。

 より厳しい環境でクーヴァとの実戦をこなし、自らの魔力を高めていく必要があるからだ。

 そうでなくては使命を果たすことなど――あのミーティアに追いつくことなど到底出来はしない。

 シホは今日の成果――ヘクセリウムを見る。

 約三センチほどの大きさのものが四個。一人での成果としてはかなりのものだ。

「しかし、まさかシホがこんなにまで成長するなんてね。初日はあんなだったのに」

 シホの方に振り返ってグレイが言った。

「もうっ……はいはい、あの時は色々お恥ずかしいところをお見せしましたよーだ」

「ヘソを曲げないでよ。これでも褒めてるつもりさ」

 ぷい、と上を向いて言うシホをグレイが宥める。

「確かに戦闘には慣れたよ。魔力も上がってるのを感じる。でも、これじゃまだダメだ……」

「……というと?」

「うん……わたしの戦い方ってどうしても各個撃破しかできないし、それになにより直線的でしょ。これじゃ例え力負けしないとしても、ミーティアの動きには対応できないと思うの」

 法器で移動しながら、更に宙を舞う――曲芸染みたミーティアの動きが脳裏に甦る。

 更にミーティアの法器は本体から一部が分離し、ハンドガンのように使う事もできるセパレート型だ。僅かな期間で三等星級にまでなったミーティアが、本気でそれを使いこなしてきたら、一体どれほどの事をしてのけるのか、シホには想像もつかない。

「だったら何か魔法を増やしてみるのはどうかな? 弱点を補えるようなさ」

「それは考えたんだけど……。わたしの法器じゃ対応魔法術式も少ないし――これといったものも見つからなくて」

 こんなことなら――走りとおサイフを犠牲にしてでもオートマチックの最新型法器にしとくんだったかなあ、とシホはちょっぴり後悔する。

「なるほどね。……うん? まてよ――あれなら」

「どうしたの? グレイ」

「シホにうってつけの魔法術式がある。旧式なものだし扱いが面倒だから、今じゃ使われていないんだけどね。恐らく……シホなら使いこなせるんじゃないかな。ボク秘蔵のレトロ魔術書さ」

「えっ!? 本当に? グレイ、それ試させてよ!」

「もちろん構わないよ。じゃあ今夜の内に法器にインストールしておくよ」

 …………

 ちょうど日も沈む頃、山頂の拠点に帰還する。

 一日の最後にヴィエラ星群の成果を確認するのが毎日の日課だからだ。

 単独で行動しているシホがヘクセリウムを取り出し、テーブルの上に置くと、おお、と他の二人から溜息にも近い声が漏れた。

 シホの今日の成果は先ほど自分でも確認した通り。約三センチ大が四つ。対してヴィエラとベネットの成果は、一センチ~二センチ大のものが五つに、三センチ大が一つ。

 二人にしては、ちょっと少ないかなとシホは思った。

「うっ……最近のシホ、すごいですわね」

「正直言って一人割としては完全に負けてるな……。なんかシホに負担をかけてるようで、気が引けるな……」

 ここしばらくこんな感じの日々が続いている。二人は心なしかテンションが低いように見える。

「ううん……いいの。わたしが言いだした事だし。それに星群に迷惑かけるわけにはいかないから」

 シホはそう言って、軽く笑って見せた。

「だけどよ……無理してるんじゃないか? どうだ、今日は一緒にメシでも……」

「ありがとう、ヴィエラ。でも――わたしは、少し休憩してまた出かけるから。……それじゃ、また明日」

 シホはそう言って休憩所を後にする。慌ててグレイが後を追いかけて行った。

 シホが一人で夜中の遅くまで、ヘクセリウムを集めていることはヴィエラも知っている。

 星群長として、そのことは頼もしいが――同時にそんなシホに、ヴィエラは言いようのない不安を抱いていた。

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