★第三章★ 予期せぬ再会(5)

「本当にシホだったか――」

 欄干から飛び降り、黒い獣人――メテオラという名らしい――の傍らに降り立つとその魔女はそう呟いた。

 深紅と漆黒、左右非対称アシンメトリーに色分けされた装束と二尾のマントがその身を包む。真朱に染まる長い髪を後ろで束ね、六芒星型のツバに、二股に分かれたクラウンとかなり特徴的な帽子を被っている。その姿はさながら――道化師。

「ミ……ミーティア……!!」

 シホが声を絞りだすようにその名を呼ぶ。

「久しぶりだな、シホ。メテオラから話を聞いたときはまさかと思ったが――本当に蒼星に配属されていたとはな」

「ミーティア……今まで何をしてた! これは一体、どういうことなんだ……!?」

 ヴィエラが困惑の表情を浮かべ、ミーティアを問い詰める。

「しばらくだな。星群長に……ベネット。はっ……よりによってお前らと同じチームとは、シホも運がない」

「どっ……どういう意味ですの! ミーティア!」

「わからないのか? やれやれ……相変わらず残念な連中の中の、さらに残念なヤツだな」

「なっ……なんですって! 無礼にもほどがありますわ!」

 身を乗り出すベネットをヴィエラが身体で制し、止める。

「……だから、なのか? お前が急にいなくなったのは」

「前に言ったはずだぜ。これからは自分の好きなようにやらせてもらう、ってな。お前らには嫌気が差したんだよ」

 苦い表情のヴィエラの問いに、ミーティアは表情一つ変えることなく言葉を返す。

「ミーティア、アタシの方針が気に入らなかったんなら、それはいい。優秀なお前のイライラを募らせていたかもしれない。でも今なら……」

「断る。あんたらには失望したんだよ」

「だったら……アタシの下を離れて自分の部隊を持つことだって……そう、お前なら星団長になる事だって夢じゃないハズだ! 一体それ以上何を求めて――」

「星団長? ……はっ……はっ、はっはっはっ……はははははっ――!」

 突如、ミーティアの口から笑いが漏れる。

「あたしがそんなものになりたいとでも? 笑わせるなよ……なあ。ヴィエラ」

 そう言ってヴィエラを一瞥するミーティア。赤い瞳の奥底に垣間見えるのは――狂気に彩られた、野心。

「――!? まさか……お前の目的は……」

 その眼光に射抜かれ、ヴィエラの背筋に冷たいものが走る。

「……ばれちゃしょうがない。あたしが求めているもの、そうさ――『失われし魔術書』だよ」

 道化師は口を歪め、不敵な笑みを浮かべる。

「『失われし魔術書』を手に入れて……どうするつもりだ」

「おいおい……決まってるだろ? 奇跡を起こし、願いを叶える。そして……オールトの雲と共に星の魔女には――消えてもらう」

「な――」

 想像を上回るその答えにシホたちは息を呑む。

「お前たちよりよっぽどまともに――有効に使ってやるぜ、安心しな」

「そんな事――させるわけにはいかないッ!」

 ヴィエラとベネットが法器を構えるが――同時。ミーティアの右手がすばやく動いた。

 二つ折りになっていた法器をベルトから抜き放つと、反動で法器が伸び――本来の形に変形する。左手でスロットルグリップを握り、右手でメインユニットから延びるグリップを掴み、引き抜く。

 すると――法器の一部が分離した。それをハンドガンのように構え、魔法を放つ。

 赤い魔法弾がベネット、ヴィエラの手を撃ち付けた。

 くっ――! ベネットとヴィエラが手を押さえ、法器を取り落とす。

「今日はおしゃべりだけにしておこうぜ? ……引くぞ、メテオラ!」

 ミーティアが言うと共に、シホたちの周囲に黒い泉が湧き上がり視界を遮る。

「ベネット、ヴィエラ! 大丈夫!?」

 仲間の元へ駆け寄ろうとするシホの背後を――法器に乗ったミーティアがすれ違う。

 湧き上がる黒い水の隙間から、互いの顔が覗き、視線が交差する。

「――――――――。」

 シホの耳元でそう囁き、ミーティアは消えた。

 …………

 やがて――黒い泉は消え、辺りは日常を取り戻す。

 シホが自分の手に魔術書が収められていることに気づいたのは、その後だった。

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