★第三章★ 予期せぬ再会(5)
「本当にシホだったか――」
欄干から飛び降り、黒い獣人――メテオラという名らしい――の傍らに降り立つとその魔女はそう呟いた。
深紅と漆黒、
「ミ……ミーティア……!!」
シホが声を絞りだすようにその名を呼ぶ。
「久しぶりだな、シホ。メテオラから話を聞いたときはまさかと思ったが――本当に蒼星に配属されていたとはな」
「ミーティア……今まで何をしてた! これは一体、どういうことなんだ……!?」
ヴィエラが困惑の表情を浮かべ、ミーティアを問い詰める。
「しばらくだな。星群長に……ベネット。はっ……よりによってお前らと同じチームとは、シホも運がない」
「どっ……どういう意味ですの! ミーティア!」
「わからないのか? やれやれ……相変わらず残念な連中の中の、さらに残念なヤツだな」
「なっ……なんですって! 無礼にもほどがありますわ!」
身を乗り出すベネットをヴィエラが身体で制し、止める。
「……だから、なのか? お前が急にいなくなったのは」
「前に言ったはずだぜ。これからは自分の好きなようにやらせてもらう、ってな。お前らには嫌気が差したんだよ」
苦い表情のヴィエラの問いに、ミーティアは表情一つ変えることなく言葉を返す。
「ミーティア、アタシの方針が気に入らなかったんなら、それはいい。優秀なお前のイライラを募らせていたかもしれない。でも今なら……」
「断る。あんたらには失望したんだよ」
「だったら……アタシの下を離れて自分の部隊を持つことだって……そう、お前なら星団長になる事だって夢じゃないハズだ! 一体それ以上何を求めて――」
「星団長? ……はっ……はっ、はっはっはっ……はははははっ――!」
突如、ミーティアの口から笑いが漏れる。
「あたしがそんなものになりたいとでも? 笑わせるなよ……なあ。ヴィエラ」
そう言ってヴィエラを一瞥するミーティア。赤い瞳の奥底に垣間見えるのは――狂気に彩られた、野心。
「――!? まさか……お前の目的は……」
その眼光に射抜かれ、ヴィエラの背筋に冷たいものが走る。
「……ばれちゃしょうがない。あたしが求めているもの、そうさ――『失われし魔術書』だよ」
道化師は口を歪め、不敵な笑みを浮かべる。
「『失われし魔術書』を手に入れて……どうするつもりだ」
「おいおい……決まってるだろ? 奇跡を起こし、願いを叶える。そして……オールトの雲と共に星の魔女には――消えてもらう」
「な――」
想像を上回るその答えにシホたちは息を呑む。
「お前たちよりよっぽどまともに――有効に使ってやるぜ、安心しな」
「そんな事――させるわけにはいかないッ!」
ヴィエラとベネットが法器を構えるが――同時。ミーティアの右手がすばやく動いた。
二つ折りになっていた法器をベルトから抜き放つと、反動で法器が伸び――本来の形に変形する。左手でスロットルグリップを握り、右手でメインユニットから延びるグリップを掴み、引き抜く。
すると――法器の一部が分離した。それをハンドガンのように構え、魔法を放つ。
赤い魔法弾がベネット、ヴィエラの手を撃ち付けた。
くっ――! ベネットとヴィエラが手を押さえ、法器を取り落とす。
「今日はおしゃべりだけにしておこうぜ? ……引くぞ、メテオラ!」
ミーティアが言うと共に、シホたちの周囲に黒い泉が湧き上がり視界を遮る。
「ベネット、ヴィエラ! 大丈夫!?」
仲間の元へ駆け寄ろうとするシホの背後を――法器に乗ったミーティアがすれ違う。
湧き上がる黒い水の隙間から、互いの顔が覗き、視線が交差する。
「――――――――。」
シホの耳元でそう囁き、ミーティアは消えた。
…………
やがて――黒い泉は消え、辺りは日常を取り戻す。
シホが自分の手に魔術書が収められていることに気づいたのは、その後だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます