私が居た街 2-1

外はいい空気だ。

埃っぽい部屋の中とは違って気持ちがいい。

空を見上げながら、てくてくと歩く。



駅から続く道は、商店街になっている。

商店街といっても本当に小さな商店街。

シャッターが下りている店も多い。

お弁当屋さんに、コンビニ、小さな八百屋さんに、

小さな魚屋さん。クリーニング屋さんに、焼き鳥屋さん。


そんな中に小さな洋菓子店はあった。3階建てのビルの1階。

2階に入っていた美容室は去年無くなって、それからは何も入らなかった。

3階は普通の住居みたいだった。


この街に引っ越してきた日、母とお昼のお弁当を買いに来た帰りに見つけた。

小さなお店で、店長さんとアルバイトの女の子。

いつも対応してくれたのはこの2人だった。


お店のドアを開ける前から、甘い香りがする。

ドアを開けると、目に飛び込んでくるケーキのケース。


いつも種類はそんなに多くない。

でも、どれもおいしそうだった。

使われている果物や、ソースの色がとても綺麗で、

見ているだけで幸せになった。


その中に、『季節のケーキ』があった。

はじめてここで買って食べたケーキ。


『3月のイチゴのケーキ』

丸いドーム型のケーキで、薄いピンク色のクリームで桜の花びらが作られていた。

店員さんが

「中はイチゴのショートケーキです」

と教えてくれた。


『季節のケーキ』は季節ごとに素材が変わる。

種類も変わる。

夏はゼリーだったり、秋にはプリンだったり。

このお店のケーキを見ると、

ちょっとした季節の変化を感じることができた。




 家から、住宅街の細い路地を通って、

商店街のメイン通りに出る。小学生の下校時間らしい。

ランドセルを背負って走っていく子供たちに

すれ違った。ふっと、甘い香りがする。

その香りに導かれるように、洋菓子店のドアを開ける。


「こんにちは」

「いらっしゃいませ~。あ、こんにちは~」

「この前のイチゴのムース、すごい美味しかったです!」

「本当ですか?ありがとうございます」


今日は店長さんが出て来た。


店長さんの見た目はちょっと怖い。

ぶっきらぼうと言うか、なんというか、ちょっと冷たそうなオーラを感じる。

でも、実際は違った。何度かケーキを買って、しばらくして町でばったり出会った時、


「あ!こんにちは!いつもどうもです!」


と、にこやかに挨拶をしてくれた。

その時『覚えててくれたんだ』と、ちょっと嬉しくなった。

その後、近所のカフェで友達とご飯を食べていた時も店長さんに会った。

カウンターで店のマスターと話していた。

仲がよさそうな感じが伝わってきて、楽しそうだった。

こっちに気づいていないだろうなーと思ってたけど、店長さんは帰る時、


「じゃ、また!」


と、こっちに向かって手をあげた。思わず


「あ、はい」


と、手を振り返したが、思いっきり動揺して、カクカクしてしまった。

その頃から、意外と店長さんは気さくな人なんだなと思うようになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る