第2話 お母さん、こっちを見て

小さい頃の母との記憶はほとんどない。


お父さん子だったからかな。

どこに行くにも父と一緒で、母と遊びに行った記憶がない。

公園すらも。


一番小さい時の記憶。

3歳年下の妹が歩けるようになったとき。


近所のスーパーに行った時に、母と妹が手を繋いで歩く姿を後ろから見てふと思った。


「私、お母さんと手を繋いだことあったっけ」


私が覚えてないだけで、妹が生まれるまではきっとあったのだろう。

でも覚えていない。


「お母さんはいつも妹とは手を繋ぐんだ」


それに気づいてからは、二人が手を繋いで歩くのを後ろから見るのは当たり前のことになった。


それからも、私は母と手を繋ぐことはなかった。


私も母のことが嫌いだったけれど、そこには「妹ばかりで、私は愛されていない」というベースがあった。


もしかしたら、母も私のことを嫌いだったのかもしれない。


思い返せば、妹と私は接され方が違った。


メニューの違う晩御飯。


切ったちくわしか入っていない私のお弁当に対し、妹は色とりどりのお弁当。


かわいいヘアゴムは、妹だけ買ってもらい、私は買ってもらえない。

あの時は、前を歩く両親と妹を見たら涙が出てきたので、涙が流れないよう空を見上げ、そのまま歩いていたら溝にはまって足が傷だらけになったな。


両親は「なんではまるん!?」という感じだったけれど。


涙をこらえて上を向いて歩いてたからだよ。


まだ小学生になる前の話。


どんな形でも、少しでもこっちを見てもらえて嬉しかった。



お母さん、なんで妹だけなの?



泣いたらなんでも買ってもらえる妹。


「おねえちゃんなんだから我慢しなさい」と父からも母からも言われたけど、


「好きで姉に生まれたんじゃないのにな」って。


悲しかったよ。


私はかまってほしくて、こっちを見てほしくて。


妹をわざと泣かせた。


母のタンスの中身を床にぶちまけた。


母が一生懸命、何度も何度も書き直していた作品が出来上がり、お手洗いで席を外したとき、その作品に落書きを沢山した。


今から考えるとよけいに嫌われることばかり。


でもその時はそんなこと、分からない。


ただただこちらを見てほしかった。


妹のお世話で大変なら、少しだけでも手が空いたときに、


「寂しい思いをさせてごめんね」と抱き締めてくれていたら。


ほんの少しでいいから、一緒に手を繋いで歩いてくれたら。


母を嫌いになることも、こんな気持ちになることもなかったのかな。


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