第4話:未熟な子供達
【五日目】
気がつくと、僕は荒野にいた。
たまたま出来たであろう岩陰の隙間に収まるように倒れていた。
頭が痛いし身体も震えていた。
今更ながら自分の迂闊さを呪いたくなってしまった。
恐らく、ああやって近づく生き物に甘い蜜を吸わせておいて、森へとおびき寄せるのだろう。
あの森に近づいていた時の記憶はおぼろげだが、周囲に魔物の形をした植物などがあったように思える。
もし、あのまま意識が戻らなかったら僕も同じようなことになっていたことだろう。
たまたま…そう、たまたまあの時に非常食をかじり、スパイスが効いていたお陰で意識が少し戻ってあの手紙を見たお陰で正気に戻れたんだ。
リップには感謝してもしきれないほどだ。
僕は改めて非常食にかぶりつくと、いつもの味がした。
リップのスパイスが効いたやつを落としてきたのは心残りだったが、あそこに戻るのはどう考えても無謀だった。
けど、生きて戻れただけでも儲けものなのだ、我慢しながら非常食の味をかみ締めながら、北へと向かう魔物たちの姿を見送った。
あの恐ろしい森へと向かう彼らはまるで自ら捕食されるために口の中に入り込もうとする獲物のようであった。
獰猛で凶暴な魔物、恐れなければならない存在が、今だけはとてもはかないものに見えてしまった。
一日分の非常食を平らげてから、僕はしばらく呆然としていた。
あの果実のせいで随分と遠くに来てしまったようだ。
ただ、ずっとあの果実を食べ続けていたおかげで水と食料には余裕がある状態だった。
とはいえ、このまま探索を続ける決心はかなり揺らいでいた。
町を出るときはどんな危険があっても恐れずに自分の出来る限りのことをしようと思っていたが、今ではその決心は粉々に砕け散ってしまっている。
もういいだろう、ここまで頑張ったんだから帰ろう、そういう気持ちが自分の中で渦巻いているのが感じる。
気持ちを落ち着けるために、荒野の地平線を眺めてみる。
何の成果も得られずにこのまま帰って本当のいいのかという気持ちもある。
だがここが自分の限界だという気持ちもある。
そもそも、本当なら死んでいてもおかしくないはずなのだ。
だけどこのまま帰ればまた皆にバカにされるという劣等感もある。
せめて何か収穫がなければ…と思い、小さいころに酒場で聞いた話を思い出した。
兄さんが仕事で戻らないとき、酒場の手伝いをしていたことがある。
そこでは、昼間じゃ見られないような夜の酒場というものを見たことがある。
大声で歌う人たち、一人の女性に近づき、それを止めようとして始まる喧嘩。
カードによる賭けで狂ったような叫び声を上げる人々がそこにいた。いつだったか、カードに負けて気絶した人を部屋に運んだときに、酒場のマスターであるリップの父さんに聞いたことがある。
「どうして、負けているのに勝負を続けるんでしょうか」
それを聞いたあの人はキョトンした顔をした後に、大きく笑って言った。
「ダッハッハ! 勝負ってのはな、やってみるまで結果が分からないもんなんだよ」
「それくらい、僕にだって分かりますよ! ただ、明日のご飯の分まで使う理由が分からないんですよ。どうしてあんなに負け続けているのにギャンブルを続けるのか…」
ムスっとした顔で聞くが、あの人はまだ笑いながら僕の頭を乱暴にワシャワシャとかいて答えてくれた。
「それは簡単だ。人間、負け続けると後には退けなくなるもんだ。せめてあと一回勝ちたい、何か得るものがなければ負けた意味がないって思ってな。自分の負けた理由を正当化したいんだ、この勝利のために今まで負け続けていたんだってな」
あの時はよく分からなかったが、今の僕なら少し共感できてしまう。
あれだけの苦労をしたのに、死ぬかもしれない目にあったのに何も得るものがなかったとしたら、一体何のためにあれだけの目にあったのかが分からないからだ。
どうしようもないものに意味をもたせたくなる、だからギャンブルで何度負け続けても続けるということなのかもしれない。
つまり、今の僕も同じような状態になりそうということなのかもしれない
そうであれば話は簡単だ、ここで見切りをつけて帰ればいいだけなのだ。
ただ、それはあくまで理屈上での解決策であって、感情の問題は一切解決できていない…。
どうしても何かないだろうかという未練というものが足を重くしてしまう。
生きてここまで辿りついた、そしてここから町に帰ることができればそれは大きな経験になるということは頭では理解しているのだ。
ただそれで納得できるほど、僕は大人じゃないということをひしひしと感じてしまった。
そうやって答えが出ているのにまだ自分自身に問い続けていると、不思議なモノを見かけた。
あの危険な果実を食べているにも関わらず、森へ近づかずに離れていく魔物がいたのだ。緑色のトカゲのような姿をしているが、大人が何十人ほど並んでもまだ足りないほどその身体は長く、建物のように大きかった。
僕は気になって、近くにあった果実をいくつかもぎ取ってその魔物のあとをつけてみることにした。
じっと見ていると食べたくなる衝動が沸いたが、我慢してリュックにしまいこんだ。
もしあの魔物に見つかったとしても、この果実があれば注意をそらせるかもしれないからだ。
トカゲのようなその魔物は大きな後ろ足で走っており、前足は使っていなかった。
昔、誰かから聞いた恐竜という生き物のようだった。
口は頬まで裂けるように大きく、その口からはいくつもの歯がはみ出ており、文字通り獲物を貪り食うような口だ。
こちらには気づいていないのか、しばらく走ったあとは植物に覆われてしまった他の魔物を食べていた。
そしてしばらく食べていたかと思えば、牛のような大きさの魔物の死骸をくわえてまた走り出した。
大きな体なせいか、速度そのものはそこまで速くなかったが、それでもバレないようについていくのは苦労した。
そしてある岩穴の前で止まったかと思えば、そこからその魔物の子供のようなものが出てきた。
親とは違いその肌は白かったが、月日が経過すると徐々に皮膚の色も変わるのだろうか?
感心しながら観察していると、大きなトカゲが持ってきた獲物にかぶりついた。
一生懸命に歯を立てながら噛み切ろうとするが、びくともしていなかった。
なんとかして食べようと首を思いっきり振ったりしているが、勢いあまって自分が転がっていってしまった。
それを見ていた親トカゲが見本のように口先だけ軽く獲物を噛み、小さく噛み千切ってみせた。
子供もそれを真似ようしているのだが、上手くいかずにまた転がっていった。
僕ら人間にとっては大きな脅威である魔物も、こうやって見てみれば微笑ましいものであった。
果実を食べたり、植物になりかけた魔物を食べているということは何でも食べる生き物なのかもしれないので、もしかしたら僕の相棒に…とも考えたが、どう考えても無理そうだった。
あの大きなトカゲを倒すことなんて絶対に無理だし、子供だけを浚うのもリスクが大きすぎる。
もし大きな泣き声をあげられれば、あの親トカゲが飛んでくることだろう。
それに、あの親子を引き離すのは違うんじゃないかとも思ってしまったのだ。
レンジャーになるためなら何でもする覚悟はあったのだが、こんなことで意思を曲げてしまうことに思わず苦笑してしまった。
しかし、それならそれでいいとも思えた。
しばらく見ていたせいか、自分の中で渦巻いていた疑問もすっかり小さくなっていた。
別に今回失敗したとしても、また次がある。
逆に言えば来年までまた自分を鍛えることができるというものだ。
僕の中では、もう次のレンジャー試験のことしかなかった。
ゆっくりと立ち上がり、町に帰ろうと振り返ると、大きな影が差し掛かった。この荒野で雨はほとんど降らない。一体何事なのかと上空を仰ぎ見ると、そこには空を飛ぶ大きな魔物の姿が見えた。
ピイイイイイ!
空を飛ぶ魔物、鳥の顔を持ちながら強靭な四肢を持ち大きな翼を持つグリフォンがあのトカゲの親子めがけて急降下してきた。
反応が遅れた親トカゲはグリフォンの持つ鉤爪によって喉を切り裂かれていた。
ドバドバと血が噴出し、下に居た子供トカゲの白い皮膚が赤く染まっていった。
そして、再び咆哮を上げながらグリフォンが急降下攻撃を仕掛ける。
だが、親トカゲはそれから逃げずに向かい合った。
急降下してくるグリフォンはおかまいなしにその鉤爪でまたも引き裂こうとするが、親トカゲはそのグリフォンに背を向けた。
そして鉤爪が襲い掛かろうとする瞬間に、大きな音と共にグリフォンは地面を転がっていた。
尻尾である、急速な旋回で身体をしならせ、長く太いその尻尾を横なぎでグリフォンに叩きつけたのであった。
苦しそうな声をあげながらもグリフォンは立ち上がるが、片翼は変な方向に折れ曲がっていた。
あれではもう飛ぶことはできない。
だが、グリフォンは逃げるそぶりはみせず、まだ戦うつもりだった。
鋭い眼光で親トカゲをにらみつけ、強い足取りで近づいていっている。
普通、ここまで手痛い反撃を食らえば逃げるはずだ。
確かにお互いに深い傷を負ったものの、下手をすれば自分が死ぬことになる。
ならば、ここは一旦退いてもっと弱っている魔物や、簡単に狩れそうな魔物を狙うものだろう。
ここで戦い続ける理由が見当たらないのだ。
そこでふと、あのトカゲの魔物が食べていたものを見た。大きな嘴、獣のような四肢、そして不自然に広がった何か…翼だ。
あのグリフォンは、あの食べられた魔物の親か何かなのかもしれない。
我が子が帰らず、必死に探し回り、ようやく見つけたと思えば食べられている。
共感できないといえばウソになる。
だが、もう死んでいるのだ。あのトカゲの魔物を殺したところでどうしようもないのだ。
それでも…それでもあのグリフォンは戦おうというのか。
植物の苗床にされ、あのトカゲの魔物たちが殺したわけでもない。
それでもようやく探して見つけ出したその亡骸のために戦うつもりなのだ。
例え、それが直接関係のない魔物であろうともだ。
トカゲの魔物としては知ったことではないだろう、どちらが悪いとかそういう問題ではないのだ。
片や生きるために捕食し、もう片方は我が子に注いだ愛のために今彼らは戦っているのだ。
僕はその戦いに魅入られていた。
血しぶきが舞い、恐ろしい声を上げながら殺しあうその姿に。
本気で生きているというものが、とても眩しく見えたのだ。
だが、均衡していた戦いも徐々に決着が近づこうとしていた。
トカゲの魔物のほうは最初に負った傷のせいで、息も絶え絶えの状態だ。
唸り声をあげようとするが、喉からその空気と共に血が噴出してしまっている。
グリフォンのほうも身体の節々に傷があり、翼が使えないものの、致命傷には程遠かった。
恐らく、この勝負はグリフォンの勝ちで終わることだろう。
それが終われば、今度はこちらにその怒りの矛先が向けられるかもしれない。
僕は静かにその場を離れようとしたが、信じられないものを見てしまった。
今までずっと岩陰に隠れていた子供トカゲの魔物が、グリフォンに向かって噛み付いたのだ。
だが噛む力が弱いのか、血の一滴すら流れていなかった。
グリフォンの怒りに満ちた瞳がそのトカゲを射抜いた。
意識を自分に向けるためか、親トカゲがグリフォンに飛び掛る。
だがそれすらも読んでいたのか、グリフォンの嘴がその頭を貫いた。そしてその大きな巨体はゆっくり動いたかと思えば、そのまま地面に倒れてしまった。
自分の親が殺されたことを感じ取ったのか、さらに唸り声を上げて子供のトカゲが噛み付くが、グリフォンには何の意味もなかった。
グリフォンは自分の前足に噛み付いているその小さなトカゲを見ると、そのまま前足を高く持ち上げた。
そしてそのまま勢いよく地面に叩きつけ、トカゲも地面に打ち付けられた。
それでもなお、その子供のトカゲはまだその前足に喰らい付いていた。
勝てるわけがない、今すぐ逃げるべきだ。
少なくとも、戦う意味などもうどこにもないはずだ。
だが、そんな僕の気持ちを否定するかのように唸り声を上げながらまだ喰らい付いている。
グリフォンは何度もその前足を地面に叩き付けた。
叩きつけるたびに、嫌な音が聞こえる。
悲鳴のような悲痛な泣き声だ。
だが、それでもまだ喰らい付いていた。
そして、グリフォンは何度叩きつけても諦めないそのトカゲにいい加減に我慢の限界だったのか、最後の一撃かといわんばかりに、今までよりも高く前足を高くかかげて、地面に振り下ろそうとした。
だが、地面に叩きつけられたのはグリフォンの方であった。
気がつくと、僕は片手に握っていた斧を、もう片方の足に投げつけていたのだ。
バランスを崩したグリフォンは地面に倒れ、何があったのかと周囲を見渡して僕と目があった。
その瞬間、雷に打たれたかのように僕は全力でグリフォンに走り向かい、子供トカゲを抱えてその場から走って逃げた。
グリフォンの足に刺さっている斧はヒモがついており、僕の腕とつながっている。
思いっきり右腕を引っ張ると刺さっていた斧が抜け、走りながらその斧を手繰り寄せていった。
腕の中にいた小さなトカゲは何があったのかと最初は混乱していたが、しばらくすると僕のことを敵だと思ったのか暴れだした。
腕の中に暴れるせいで腕や顔に爪による傷ができたが、僕は絶対に離そうとしなかった。
そもそも、このトカゲよりも自分の方が混乱しているのだ。
どうしてコイツを助けようとしたのだ、何故グリフォンに攻撃してしまったのか、わけが分からないと頭の中がグチャグチャな状態だった。
そんな僕の意識を戻させるかのように、背後からグリフォンの叫び声が聞こえた。
何故こんなことをしたのかは今考えることじゃない、この状況を何とかするために頭を働かせることを優先させなければならない。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、グリフォンの雄たけびを聞いたトカゲは僕に掴まれたまま背後を振り向き、小さいながらも大きな声で威嚇の声をあげていた。
先ず、グリフォンと戦うという選択肢は一番最初に除外した。
いくら傷だらけとはいっても、魔法が使える大人でも勝てる相手ではない。
兄さんですら戦おうとしない相手にどう勝てというのか、勝つための道筋が一切見えなかった。
次に逃げるという手段、これも恐らく不可能だろう。
大型の魔物のスタミナは凄まじいものだ。
あれだけの戦いをした後であっても、先に僕が疲れて追いつかれるのが先だろう。
さらに、今は余計な荷物が腕に中にあるのだ。
捨ててしまおうかとも考えたが、それでは何のためにこのトカゲを助けたというのか。
ギャンブルに負け続ける思考と同じだと思っていても、それでもこのトカゲを捨てるという手段は取れなかった。
そうなると最後の手段となる。
僕ではないほかの何かにあのグリフォンを倒してもらおうという作戦だ。
もちろん、あの親トカゲはもう戦えないし、他の魔物が都合よくグリフォンだけを狙うことも期待できない。
ならばどうするか?
僕はリュックにつめていた果実を取り出し、他の余計な荷物を捨てた。
暴れるトカゲを肩に乗せ、斧を使って果実を砕いてそれを自分とトカゲに塗りたくった。
甘く、口の中に入れたい衝動を必死に押さえつけながら、とにかく走り続けていた。
だらしなく口を開けて、心臓の音しか聞こえないくらいに走り続けていって、ようやく目的の場所が見えてきた。
そう、北の森である。あそこに向かう生き物は全て森に取り込まれ、生きては戻ってこれない恐ろしい場所である。
では、植物たちはどうだろうか?
自らが広げた植物なども取り込むのであれば、ここまで広がることもないだろう。
いや、正確にはこの果実をつけた植物も森の一部なのかもしれない。
甘い蜜でおびき寄せ、そして森の中に踏み入らせて取り込むという一個の大きな生き物なのかもしれない。
つまり、この果実のエキスを身体に塗ることで取り込まれることを防げると踏んだのだ。
森まで残り三十歩、グリフォンの怒りに満ちた雄たけびが鼓膜だけでなく、全身に響くのを感じた。こちらをめがけて走る振動が足の裏から伝わってくる。
残り二十歩、グリフォンの影が僕に覆いかぶさった。恐怖のせいで喉の奥から何かが競りあがってくるのを感じ、だらしなくあけた口を引き締めて飲み込んだ。腕の中のトカゲも今では大人しくしており、僕の顔を見つめていた。
残り十歩、ついにその嘴が僕に届いてしまった。
不意の攻撃のせいで、足がもつれて転んでしまう。地面に投げ出されるように転がり、大の字になって地面に倒れてしまった。
放り出されてしまったあのトカゲは無事だったのか、僕の近くで威嚇するような声でグリフォンに立ち向かっていた。
だがもうダメなのだ、あと十歩…どう考えても僕が走るよりも速く、あのグリフォンの嘴や爪が僕を突き刺すほうが早い。
心臓の鼓動が大地に響くのを感じる。
ここで僕は死んでしまうのか、ナイツ家の者として何も成し遂げられなくて本当に申し訳なく感じる。
リップにも、せっかくの非常食を無駄にしてしまったことを謝れないことが心残りだ。
そもそも、なんで僕はこいつを助けようとしたのか、グリフォンに攻撃してしまったのか、両親が死んだ自分に重ねてしまったのか、今まで考えていた思考が頭を埋め尽くしていた。
僕を見下していたグリフォンが狙いを定める、激しく動く僕の心臓の振動が、地面を通して強く伝えるのが分かる。
そして、グリフォンが突然僕の視界から消え失せた。
ゴオオオオアアアアアア!
森から聞き覚えのある叫び声が聞こえた、あの親トカゲだ。
僕が倒れて感じていたあの振動は心臓の鼓動じゃなかった、あの親トカゲがこちらに向かってくる振動だったのだ。
グリフォンに喰らい付いた親トカゲは、そのまま一緒に森の中へと突っ込んでいった。
そうすると、様々なツタや根がグリフォンと親トカゲへと伸びていった。
グリフォンが懸命に逃れようと身体をねじらせるが、そうはさせまいと喰らい付いた顎の力をさらに強めてグリフォンの動きを止めようとする。
それを見た子供のトカゲが森の中に入ろうとするが、僕はそれを全力で捕まえて止めた。
吼えるような、泣くような声を響かせるが、僕はその腕から逃そうとはしなかった。
トカゲの小さな牙が僕の腕に食い込む。
血が流れ、痛みで声をあげそうになるが、歯を食いしばって耐える。
そして、この子供のトカゲに親の最後の姿を見せる。
森に食われようとしているその瞬間であろうとも、グリフォンに喰らいついて逃さないようにするその姿を。
しばらくして、ツタや根に覆われた二匹の魔物は森の奥へと引きずられるように消えていった。
グリフォンの断末魔のような叫び声が、今でも聞こえるような気がする。
子供のトカゲはもう見えない親の姿がまだ見えているかのように、僕の腕に喰らいつきながら森を見ていた。
気の済むまで眺めさせてもよかったかもしれないが、森の奥からツタがこちらに伸びてきた。
咄嗟に斧を振り回すと、それを避けるようにツタが動いた。
もしかしたら、鉄を嫌う習性でもあるのだろうか?
とはいえ、無数のツタに襲われてはどうしようもないため、その場から逃げ出した。
果実を身体に塗った場所まで戻り、荷物を回収した。
問題はこの小さなトカゲの魔物をどうするかだ。
このままこいつを荒野に置き去りにしたところで、生きていけるかは無理そうな気がする。
下手すると明日にでも森に突っ込んでいって養分になるんじゃないかとも思えてしまう。
じゃあこいつを連れて町まで帰るのかということになるのだが、自分だけでもいっぱいいっぱいなのに、これを連れてとなるとかなり不安になった。
そもそも、食料や水の残りも心配なのだ。
そこで、こいつの親トカゲが森の果実を食べても大丈夫だったことを思い出した。
近くにあった果実をもぎ取り、こいつの前に差し出す。食べても大丈夫なのかどうかクンクンと鼻で匂いを嗅いでいるかと思うと…
ガブリ
「イッタァ!」
僕の手ごと食べやがった!
慌てて租借される口から手を引っこ抜いたが、小さな牙のせいでいくつかの箇所から血が出ていた。
そんな僕のことはどうでもいいのか、こいつは果実を美味そうに頬張っていた。
しばらくすると食べ終わり、こちらを見つめてきた。僕はかがんで、そいつの顔の前で聞いてみた。
「どうする? 僕と一緒に来てみるか?」
ガブリ
「イタァイ!」
まだ腹を空かせていたのか、近づけた僕の顔にかぶりついてきた。
本気で噛んでいないのだろう、腕にある傷跡に比べれば軽症ではあるのだが、それでも痛いものは痛いのだ。
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