クラスメイト
授業の終わりを知らせるチャイムが鳴って、私と小坂くんはそのまま教室に戻ることになった。
『小坂くん…これは大袈裟なのでは…』
「大袈裟じゃないよー」
だけど、額には湿布が貼られ、その上から剥がれないようにテープで固定してある。流石に大袈裟なんじゃ…これで教室に行く勇気がないよ。
「ほら、行くよー!次の授業に間に合わなくなるって!」
『えっ、あっ!』
教室に行くことを渋っていると、小坂くんに強引に腕を引かれた。只でさえ筋肉がない私は、小坂くんに引かれるがまま教室に連れていかれた。
「そんなに酷い怪我だったの!?大丈夫?」
私に気づいた千枝ちゃんが心配して駆け寄ってきた。
『ちょっと腫れてるだけだよ…大丈夫!』
「俺が心配だったから手当てしたんだよね」
『うわ!』
千枝ちゃんを心配させてしまったので安心させようとしていると、小坂くんが隣に来て説明してくれた。しかし、急に現れて肩を組まれたため大きな声を出してしまった。そのせいで、皆がこちらを見ている。こんなに注目されてることがないので、どうしても恐怖で体が震える。
「何々ー?」
「小坂、百井さんと仲良くなったの!?」
「まじうけるんですけどー」
「小坂と百井さんとか合わなーい!」
派手なグループの女の子達が騒ぎ始めた。
…皆が言うことは合っている。ダサくて不細工な私と、いつもクラスの中心にいて騒いでいる小坂くん。2人でいたら不自然に決まっている、私のせいで小坂くんまで馬鹿にされてしまった。
早く側から離れた方がいいと思って小坂くんの腕を退けて自分の席に着いた。千枝ちゃんが女の子達を恐ろしい顔で睨みつけていたので、なんとかお願いして席に座って貰った。
小坂くんは男の子達のグループの方に混ざりに行ったので、安心しホッと息を吐いた。小坂くんは優しいから私とも普通に接してくれるけど、周りから見たらやはり変な組み合わせなんだ。あまり教室で関わらない方がいいかもしれない。
折角、友達になれたんだけど…こればかりはしかたがない。
_____ガタガタッ
椅子と机が動く音が聞こえてきて、不思議に思って隣を見ると…
「百井さん、これから隣よろしく」
隣には何故か満面の笑みを浮かべている小坂くんがいた。
…なんで隣にいるの
驚きのあまり目を瞬きをし、状況についていけない私は小坂くんを見つめたまま体が固まる。そんな私を見て、小坂くんは豪快に笑った。
「山田に席を代わって貰ったんだよ、これからよろしくー」
山田くんとは私の隣の席だった男の子だ。席を代わって貰った…ってなんで。視線をチラッと女の子達の方へ向けると、目が合い鋭く睨まれてしまった。小坂くんは目立つグループにいるから、小坂くんのこと好きな子もいるんだと思う。そんなこと考えていると変な汗が出てきた。
「百井さーん?」
『あ、あの…
「悠斗、席変わるなら言えよな」
勇気を振り絞って言おうとしたのに遮られてしまった。小坂くんの前の席、つまり千枝ちゃんの隣に座ったのは
「俺も席代わって貰った。百井さん、吉田さん、よろしく」
山崎くんまで!?
山崎くんはどちらかと言うと落ち着いていて、クールな雰囲気で…小坂くんと同様にクラスの中心にいる人だ。女の子達を見ると更に鋭い視線が向けられていて、私は机に視線を落とした。
「うちらと関わらない方がいいと思うけど?」
女の子達のほうを顎でしゃくりながらだるそうに、千枝ちゃんが2人に言ってくれた。
「俺等は仲良くしたい子と仲良くするし、周りにとやかく言われる筋合いはない」
「同意、それで離れていくような友達はいらない」
小坂くん、山崎くんが言った。
女の子達だけではなく男の子達も、私達と関わることをよく思っていなかった人達が眉を潜めている。静まりかえった教室の空気は最悪。
そんな空気に私は視線を上げることができないけど、小坂くんと山崎くんは堂々と正面を向いていた。
…かっこいい、素直に思った。
「ふーん、ならいいけど」
千枝ちゃんが何か察したように反応し、小坂くんに近づき耳元で何かを言った。
「ッちげーし!」
「はいはい、手出したら容赦しないからね」
「分かってる!」
千枝ちゃんは面白そうに笑い、小坂くんは何故か顔が赤くなっていた。どうしたんだろ…と不思議に思って小坂くんを見ていると目が合った。
「なっ…なに」
注目されることが苦手だから、教室では関わらないようにしようと思っていたのに…小坂くんは周りの友達が離れていくかもしれないのに私達と仲良くしてくれると堂々と言ってくれたこと、とても嬉しかった。そんな風に言ってくれる人は今までいなかったから。
『ありがとう、さっきの言葉嬉しかったです!』
笑ってお礼を言うと、小坂くんは目を大きく見開いて片手で顔を隠してしまった。
「お、おぅ…友だちだからな当たり前」
『うん、ありがとう!』
何で顔を隠しているのかは分からないけど、友達と言ってくれて嬉しい。恭ちゃんと千枝ちゃん以外に友達がいない私は、新しくできた友達に笑みが溢れる。
そんな私を横目で見て
「…反則だろー」
と小坂くんが言っていることも
そんな小坂くんを見て千枝ちゃんが眉を潜めていることも
山崎くんが小坂くんを見て納得した表情をしていることも…全然気づいていなかった。
昼休憩になり千枝ちゃんといつもの中庭に行く準備をしていると、小坂くん達が一緒に食べようと誘ってくれた。千枝ちゃんを見て “どうする?” と聞くと、 “別にいいんじゃない” と返ってきた。その応えを聞いたいた2人は嬉しそうに微笑み、一緒にお弁当を持って席を立った。
教室を出ようとドアを開けると目の前に人いて、前を見ていなかった私はぶつかってしまった。
『ご、ごめんなさい』
咄嗟に謝り、怖くて顔も見ずに頭を下げる。浮かれすぎて周りを全然見ていなかった。ぶつかった人が怖い人だったらどうしよう…怒鳴られてしまうかもしれない…そんな考えばかり浮かんでしまって体が震えてしまう。
「…俺だけど」
その声が聞こえて、パッと顔を上げる。そこに立っていたのは怪訝そうに私を見ている恭ちゃんだった。まさか恭ちゃんがここにいると思わなかったので驚きのあまり目を見開いて恭ちゃんを見つめてしまう。
しかし、さっきまで泣いていたことを思い出して、恭ちゃんを直視できず視線を下に落とした。
「怪我、酷かったのか」
恭ちゃんはそう言うと、私の前髪をかき分けて顔を覗き込んできた。そこには小坂くんがしてくれた湿布とテーピングが大袈裟にしてある。心配そうに手当てしてある額を見ている恭ちゃんに、慌てて私は説明をする。
『えっと、腫れてるだけでそんなに酷くないの』
「これは?」
恭ちゃんが私のつけている伊達眼鏡をカンカンと爪で突いた。
…伊達眼鏡…あっ…
さっき恭ちゃんから貰った眼鏡が壊れたんだった。プレゼントしてくれた眼鏡じゃなくて、他の物つけてたらいい気しないよね。
『ぶつかった時に眼鏡のフレームが壊れちゃって…小坂くんに代わりの貰ったの』
「ふーん」
恭ちゃんは無表情で私の後ろにいる小坂くんを見た。
何も悪いことをしたわけではないのに変な汗が出てくる。どうしようとない脳みそを一生懸命に働かせていると、急に頭の上に手を置かれた。
頭に手を置いたまま、何も言わない恭ちゃんを不思議に思ってジッと見つめる。恭ちゃんは何を考えているのか分からない無表情のまま口を開いた。
「テーピングとか持ってないだろ、夜持って行く」
『あ、ありがとう!ご飯は食べる?』
「いる、じゃあな」
そのまま頭をくしゃくしゃと撫でて、恭ちゃんは自分の教室に戻って行った。
…心配してわざわざ様子を見に来てくれたんだ。
基本的に騒がれるのが嫌いな恭ちゃんはあまり自分の教室から出ない。それなのに様子を見に来てくれたことが嬉しいと思う私はかなり重症だ。
自分の意思とは反対に緩んでしまう口元を手で隠した。
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