体育
あの別々に登校した日から1週間経った。恭ちゃん達と一緒に登校しないことに慣れつつある。朝はお姉ちゃんに三つ編みにしてもらい、ホームルームが始まる前に何故か恭ちゃんか教室に来て直してくれる。そんな日々が続いた。
「若葉、体調悪そうだよ?」
『ちょっと寝不足で…でも大丈夫!』
心配そうにしている千枝ちゃんに申し訳なくて、笑って元気なアピールをする。本当にちょっと寝不足なだけだから。 お姉ちゃんと恭ちゃんのこと考えていたら中々寝つけなくて…考えてもどうしようもないと分かっていても、気がつくと考えてる自分がいる。
…2人の幸せを願えないなんて、最低な私。
私の気持ちを表したように外はジメジメと雨が降っている。こんな気持ちの時くらい晴れてくれたら気分も上がるかもしれないのに。
「次の時間、雨だから男子も女子も体育館ねー!」
次の授業は体育、隣の1組と合同で授業をしている。だから、恭ちゃんもいるってことだ。正直、会いたくない。会ったら…恭ちゃんを見たら辛くなるだけだ。
「またジャージ忘れたのー?」
『ううん、今日はちゃんと持ってきたよ!』
私が浮かない顔をしていたから、千枝ちゃんがジャージ忘れたのかと心配そうにしている。私は持ってきたジャージを千枝ちゃんに見せて笑う。すると、千枝ちゃんも微笑み返してくれた。
…千枝ちゃんには心配させたらダメだ、ちゃんとしないと
体育館に入るとまだ授業前なのにステージ側に男の子、後ろに女の子が集まっていた。ダンダンッとボールを床につく独特の音が響き渡る。男の子はバスケをするみたいで、授業が始まるまでみんなで遊んでいるみたい。
何の気なしに見たのに一番に恭ちゃんの姿が目に入った。いつもダルそうな恭ちゃんだけど、大好きなバスケの授業だから目が輝いている。
また余計なことを考え始めそうになって目を逸らした。
「わーかーばっ!」
後ろから優しく肩を押され、振り返ると千枝ちゃんがいた。千枝ちゃんは優しく微笑むと、何故か私を抱きしめた。
『ち、千枝ちゃん…力強い』
「可愛い若葉がいけないのー」
『わた、私は可愛くなんてないよ!』
「んー、よしよし」
千枝ちゃんは優しい。私は隠し事が苦手だから何かあったことは気づいているはずなのに、何も聞いてこない。私が自分から話せるまで待ってくれているんだと思う。
『…千枝ちゃん相談に乗って欲しいことがあるの。お昼時間に聞いてもらえるかな?』
「勿論、任せなさい」
千枝ちゃんに相談すると決めただけなのに、なんだか心が軽くなった気がした。
チャイムが鳴って授業が始まると、女の子は後ろのコートでバトミントンをする。千枝ちゃんとペアになって、ラリーをする。
『わぁ!』
…そして私はご想像通り運動神経がない
私を通り越して羽が後ろに飛んで行った。何やっても上手くいかないなと情けない気持ちになる。飛んで行った羽は男の子がバスケをしているコートの近くに落ちていた。バスケの邪魔にならないように羽を取りに行くと、ふとバスケをしている恭ちゃんが目に入った。
…背が高くて、運動神経がよくて、顔も整っている。
そんな恭ちゃんを見ているのは私だけではなくて…
「きゃーー!」
「佐野くぅーん!!」
「こっち向いてぇ〜」
一部の女の子はバトミントンを辞めて歓声を上げている。かなり大きな声で叫んでいるのに、恭ちゃんは見向きもせず楽しそうにバスケをしている。
…胸が痛い
何故か無性に泣きたくなった。早く戻らないと、千枝ちゃんが待っているのに。頭の中では分かってても足が地面に縫い付けられたように動かない。
どうしよう、涙が溢れ…
「ちょ、危ないー!!」
そんな声が聞こえた次の瞬間、脳を揺さぶられるような鈍い痛みが襲ってきた。
「だ、大丈夫か!?」
『…大丈夫です、すみません』
周りを見ていなかったせいでバスケットボールが顔面に当たったようだ。私が突っ立っていたからいけないのに、ボールを投げた男の子が申し訳なさそうにしている。
「眼鏡壊れてるよ!…本当にごめん」
『あっ…眼鏡…』
恭ちゃんから貰った眼鏡が、フレームが変な方向に曲がって地面に落ちている。眼鏡が壊れただけなのに、恭ちゃんとの関係も壊れて終わったんじゃないかと変な妄想が勝手に脳内に流れる。
もう顔が痛いのか胸が痛いのか訳が分からなくて、頭の中がぐちゃぐちゃで涙が止まらない。
「…ちょっと顔見せて、怪我してるんじゃないの?」
『あっ、ダメ!』
そう言ったけど既に遅く、前髪を上げられてしまった。やばいと思った時には男の子とバッチリ目が合った。見られてしまったことに混乱した私は急いで離れて、前髪で顔を隠した。
「……えっ?」
ただでさえ不快な顔なのに、涙でぐちゃぐちゃな顔を見せてしまった。気持ち悪いとか罵られるのが怖くて、いち早くここから逃げ出したい。
『不快なもの見せてごめんなさい!失礼します!』
それだけ言い背を向けて走った…のに
「ちょっと待って!」
腕を掴まれて引き止められた。そして何故か男の子は自分の着ていたジャージを私の顔に被せた。頭の中は “???” で埋め尽くされる。
「先生!怪我しているんで保健室連れて行きます!」
「分かりました。小坂くんお願いしますね」
「はい!」
えっ…
涙でよく顔が見えていなかったけど、小坂くんって同じクラスのあの男の子だよね。いつもクラスの中心にいて、男の子からも女の子からも人気のある
なんて人に顔を見せてしまったんだ。面白おかしくみんなに言われちゃうのかな。そう想像しただけでゾッとする。
「ほら、百井さん行こう」
『…あの、怪我大丈夫です』
「いいから行くよ」
ジャージを被されて前が見えない私は抵抗をするも、小坂くんに押されるがまま連れて行かれた。
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