幼馴染
『もし地球が滅びるなら何したい?』
昔、幼馴染に聞いた言葉。
あの時は本当に純粋に気になっただけだった。
その言葉で幼馴染は私に興味がないんだと理解した。そんな、幼い頃のほろ苦い思い出。
◆ ◆ ◆
「おい、朝だ。起きろ。」
『…ん?』
朝にとても弱い私、心地よく寝ていると物音が届いてこないくらいに眠りが深い。
「
ドスの聞いた低い声が聞こえ、私は反射的に飛び起きた。
『あ…恭ちゃん、おはよ。』
「チッ、早く用意しろ。」
『はい!』
舌打ちをした恭ちゃんの鬼のような表情に、先ほどの眠気が嘘のように覚めた私は急いでベッドから飛び起きて支度を始めた。
私は
そして、恭ちゃんこと、
…非の打ち所がない幼馴染なんです。
「アンタ、今起きたの。早く用意しなさいよ。」
『う、うん!』
洗面台に向かうと既に用意が終わっていたお姉ちゃんがいた。
それに比べて私は…鏡に映る自分を見てため息が出た。お姉ちゃんと同じ血が流れているのかと疑いたくなるくらい平凡な私。鏡を見たくなくなり急いで歯を磨き、洗顔をして自分の部屋に戻った。部屋に入ると、恭ちゃんが不機嫌な様子で待っていた。
『ご、ごめんなさい、遅くなっちゃった。』
「…いいから早く座れよ。」
『うん、いつもありがとう!』
「ハァ…別に。」
私とお姉ちゃんは正反対だ。お姉ちゃんはいつも早起きで、綺麗にメイクやヘアアレンジを自分でしている。私は早起きもできないし、不器用だからメイクも下手くそで、寧ろメイクはしない方がマシな仕上がりになる。不器用だからヘアアレンジもできなくて…毎朝、恭ちゃんに髪の毛を三つ編みにしてもらっている有様だ。恭ちゃんは男の子だけど手先が器用だから、とても綺麗にいつも三つ編みにしてくれる。
「できた。」
『ありがとう!』
髪を結んでもらった後は、急いで制服に着替える。学校は紺色のセーラー服で白色のスカーフ。シンプルだけど可愛いらしい制服だ。時計を見るともう家を出ないといけない時間になっていた。
『い、急がないと…』
急ごうと思えば思うほどスカーフを上手く結べない。左右のバランスが悪くなって何度もやり直す。
「早くしてよ、もう行くわよ。」
『ちょっと待って!』
時間が迫っており、お姉ちゃんが玄関から叫んでいる。声からしてイラついている様子だ。
は、早くしないと…
「チッ、遅い。こっち来い。」
『恭ちゃん…』
見るに耐えなくなったのか優しい恭ちゃんは、私が上手く結べなかったスカーフを綺麗に結んでくれた。
『あ、ありがとう!』
「あと眼鏡、忘れんなよ。」
『あっ、本当だ。』
恭ちゃんが渡してきた眼鏡をつける。この眼鏡は度は入っていない、伊達眼鏡。不細工な私が少しでもマシになるように恭ちゃんがくれたもの。
私はお洒落とかよく分からないから、恭ちゃんのアドバイスを全て聞いている。前髪も顔が隠れるように目にかかるくらいに伸ばして、スカートも足を出さないように膝下の長さにしている。
…恭ちゃんは優しいから、こんな私にもよくしてくれるんだ。
恭ちゃんは呆れたようにため息をつき、玄関で待っているお姉ちゃんのところに向かった。私も急いで鞄を持って、後を追いかけた。
「恭哉、行くわよ。」
「あぁ。」
私がもたもたと靴を履いている間に、2人は先に家を出た。玄関に置いてあるお姉ちゃんの鞄を持って、家に鍵をかけて私は追いかける。お姉ちゃんと恭ちゃんが並んで歩き、私は2人の邪魔をしないように少し後ろを歩く。お姉ちゃんの荷物を持つのは私の役目、これはいつものことだ。
2人が一緒にいると、とても絵になる。
綺麗なお姉ちゃんに、かっこいい恭ちゃん。
とてもお似合いなんだ。
周りの視線も2人に集まっている。
(葉月さん綺麗だな…でも佐野くんが相手じゃ勝ち目ないよな)
(めっちゃかっこいいー!)
(さすがミスコンのグランプリはレベルが違うな〜)
(葉月さんが彼女なら文句も言えないよね…)
(本当に理想のカップル)
…本当に2人はすごくて、私の自慢。
お姉ちゃんは去年のミスコンで優勝した。高校2年生でグランプリを取るなんて、本当にすごい。恭ちゃんのことが好きな女の子は、お姉ちゃんが彼女なら仕方がないって認めている。そのくらいお似合いな2人。まだ付き合ってはいないみたいだけど、時間の問題だとみんなが言っている。
(てか、後ろの葉月さんの妹だろ?)
(なんか葉月さんに良いところ全部持っていかれたって感じだよな)
(根暗だし…姉妹とは思えない)
(2人の登校を邪魔してること気づかないの?)
それに比べて私は…2人の優しさに甘えているだけ。本当は2人で登校したいはずなのに、私が鈍臭くて駄目だから一緒に行ってくれている。2人の優しさに甘えて、一緒に登校できているだけなのに幸せだと思っている私は相当図々しいと思う。
「若葉、鞄。教室までついてこられたら恥ずかしい」
『あっ、うん』
「今日はバイトだから晩ご飯いらないから」
『うん、分かった。』
校門のところでお姉ちゃんとわかれた。今日、お姉ちゃん晩ご飯いらないのか。1人分をつくるのはめんどくさいからコンビニ弁当で済ませようかな。
家の家事はほぼ私がしている。お父さんは海外に出張で、お母さんは会社を経営しているから家にあまり帰ってこない。だから、掃除、洗濯、料理は私がしている。
「今日、母親いねぇからお前の家でご飯食べる」
『あっ、お姉ちゃんバイトでいないみたいだよ?』
「葉月いないと行ったら駄目なのか」
『そうじゃないけど…』
「部活終わったら行く」
それだけ言い、恭ちゃんは友達と一緒に行ってしまった。お姉ちゃんいないのに家に来ても面白くないと思うんだけどな…そんなことを思いながら小さくなっていく恭ちゃんの後ろ姿を見つめた。そうしていると色んな人からジロジロと見られているのに気づき、居心地が悪くなって急いで教室に足を進めた。
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