第73話 勇者、事情を聴く
「……それじゃ、まずその喋り方を止めてくれ。へりくだった物言いは好きじゃない。間違えて剣を振りそうだ……」
「ひぃぃぃぃぃぃ! わ、わかりました! いえ、わかったのじゃ。もうこの喋り方は止めるのじゃ!」
ちらりと剣を持ち上げてみせると、顔を青ざめさせたドラゴンは言葉に従って止めてくれた。
ドラゴンでも、顔を青くする事ってあるんだな。
「はぁ……まぁ、この様子なら大丈夫だろう。フラン、もう動いて良いぞ?」
「ようやくですか。肩が凝りそうでしたよ。動かないって結構苦痛なんですね……」
俺が魔法を解いてフランに動くように言うと、肩を回しながら何か言っている。
お前の肩が凝るのは、その自己主張の激しいお胸のせいじゃないのか? と思ったが口にはしないでおく。
また言い合いになったら面倒だしな……それと、普段落ち着かない、動いてないと死ぬとでも言いそうな雰囲気のフランだから、動かない事は確かに苦痛だったんだろう。
……こいつがおとなしい時なんて、寝てる時くらいだろうな……いや、寝てても何かに反応して急に叫びそうだから、安心はできないか。
「よしよし……」
「これはなんなのじゃ? ずっと妾を抱いて撫でて来るのじゃが……」
「可愛い物に目が無いみたいだからな。そのままにしてやってくれ」
動き出したフランがまずした事は、ドラゴンを抱き上げて体や頭を撫でる事だった。
チックハーゼの時もそうだったが、下手に止めると面倒になりかねないから、このままにしておこうと思う。
「さて、ようやく落ち着いたわけだが……こんなところで何を話すんだ?」
「妾は落ち着かないのじゃが……まぁ良い。ここではじゃな、私と一緒に草花について語り合ってほしいのじゃ」
「草花?」
「そうじゃ。この草原には小さく可愛い草花が、色とりどりに咲いておるじゃろ? それについて語り合いたいというわけじゃ」
このドラゴンが小さい事にも驚いたが、ドラゴンが草花について語り合いたいというのにも驚きだ。
財宝を貯め込むドラゴンというのは、おとぎ話なんかで聞いた事はあるが……草花を愛でるドラゴンなんて、聞いた事が無いぞ。
「ドラゴンが草花について……ねぇ? それは良いんだが……俺は草花には詳しくないぞ。フランはどうだ?」
「私も詳しくないですねぇ。それよりも、こうやって可愛い生き物を愛でている方が楽しいですし。おー可愛いねぇ……」
「撫で方が堂に入っておるな……気持ちが良いのが逆に微妙な気分じゃ。じゃが、ドラゴンが草花を愛でてはいけない、という決まりは無いじゃろ?」
「そりゃ無いけどな。聞いた事が無かった事だからなぁ……まぁ、好きな物は個人の自由だな」
「そう言う事じゃ。じゃから、妾はここで草花を守るためにいるのじゃ」
「……結局、ここで何から草花を守ってるんだ?」
「色々じゃな。虫じゃったり、魔物じゃったり……魔族などの、人型の者が荒らしに来たりする事もあるのじゃ」
このドラゴンは草花が好きだから、ここに居座って守っているらしいな。
好きな物は自由だから、それは良い事だし、アルベーリにとっても魔王国の領地が荒れないという事で、助かってる部分もあるのかもな。
「まぁ……ここ数百年は、そんな者もいないのじゃがな……」
「数百年誰も来ない場所で、ずっと草花を守ってるのか?」
「うむ。たまにアルベーリの遣わした魔族が来るが……大抵妾に負けて逃げ帰るのじゃ」
「何人か死人が出てるみたいだが?」
「それは軟弱なあやつらが悪いのじゃ。妾にやられて、帰ってる途中で魔物に襲われたりしておったからのう」
「……お前は、直接殺したりしてないのか?」
「妾はそんな野蛮な事はせぬ! 適当に痛めつけて、返すだけじゃ。そりゃ、怪我をする者くらいはいるがのう。妾は平和主義なのじゃ」
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