第72話 勇者、ドラゴンに恐れられる



「……確かに魔族特有の角が無いな……人間のくせに妾を退ける魔法を使えるとは……しかし、今度は同じようにはいかんぞ!」


 そう言って、今度は俺に飛びかかって来たドラゴン。

 その速度はさすがドラゴンと言ったところだ、その勢いだけでも簡単に人を突き飛ばす事が出来るだろう……小さ過ぎなければ、だが。

 迫って来るドラゴンに、俺は剣を構えて迎撃態勢を取るが……。


 ……ペシ、ペシペシ。


「この、この! ……これでどうじゃ!」

「……あの……何をしてるんだ?」

「見てわかるじゃろう! お主を懲らしめてやろうとしておるのじゃ!」


 ドラゴンが俺の方に張り付いて、手を頭に叩き付けてるんだが、その強さは赤ん坊が叩くくらいの感触しかない。

 多少は痛みを感じるが、それでどうこうなるはずもない。


「えーと、ドラゴンってなんだっけ?」


 最強種とも謳われるドラゴンのはずなんだが、その攻撃は赤ん坊と見紛うばかりだ……。


「ええい、どうしてじゃ! 何故お主には妾の攻撃が効かんのじゃ!」

「そう言われてもな……」

「人間なのであろう!」

「そうだな、人間だ」

「カーライルさんは勇者ですからね、ドラゴンなんて目じゃないんです!」


 何故そこでフランが自慢げなのかは気になるところだが、フランが言ってる事は間違えていない。

 俺は人間の中でただ一人とされる勇者だ。

 ドラゴンを倒せる人間でもある。


「ゆ、勇者じゃと……ほ、本当なのか?」

「まぁ、そうだな……」

「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」


 俺の頭をペチペチしていたドラゴンは、大きく悲鳴を上げてすごい勢いで離れた。

 勇者だからって、その反応は何なんだろう?


「ゆ、勇者様とはつゆ知らず……数々の無礼、お許し下さい! どうか、どうか命だけは、お助をぉぉぉぉ!」

「殺すつもりはないぞ。……だが、そんな過剰に反応する程か?」

「カーライルさんは、自分の力をもう少し自覚した方が良いと思います」


 地面に降りたドラゴンは、俺に向かって土下座をするように謝り始めた。

 ドラゴンの体で土下座とは……結構器用なんだな……それとも、ドラゴンは皆できるのか?

 それとフラン、俺にそう言ってるが、お前の方こそ色々と自覚した方が良いと思うぞ……アホな所とか特にな。


「こ、殺さないで下さいますか?」

「元々、アルベーリに頼まれて、話し相手となるために来ただけだからな。討伐する事は考えて無い」

「ありがたき幸せにごじゃりまする!」


 何か色々混じった言葉で、感謝を示してるようだ。

 その姿からは、先程地面を揺らして高圧的に威嚇して来た様子はもうない……。


「しかし、フランに向かって行った時は、結構な勢いだったのに……」

「それは、貴方様が勇者だからに他なりません」

「勇者が原因なのか? しかし、俺は何もしていないぞ?」

「勇者である事、それだけで我々ドラゴンには十分なのです。勇者にとってドラゴンは赤子も同然……そう自然の摂理で決まっているのでございます」


 知らなかった……勇者という事にそんな設定が存在してたとは。

 さっきのドラゴンからの攻撃は、確かに赤ん坊のようだったが……それなら確かに、勇者がドラゴンを退治できるという事も納得できる。

 赤ん坊のような相手を討伐するというのは、ちょっと気が引けるが……見た目が巨大で恐怖を煽るドラゴンならためらう事は無いだろう……こいつは違うが。


「しかし、その畏まったしゃべり方はなんだ? 微妙にむず痒いんだが……」

「あなた様が勇者でありますれば、私の命を取られないためには平身低頭……このようにへりくだる事も躊躇いませぬ」


 どうやら、殺されないように俺に対してへりくだってるようなんだが……逆に嫌な気分だな。

 小さいドラゴンが相手だから、という事もあるだろうが、誰かにへりくだった接し方をされるのはあまり好きじゃない。

 普通に会話できればそれで良いんだ。



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