第74話 勇者、ドラゴンを諭す



 目の前にいるドラゴンは、ここにアルベーリから派遣されて来た魔族の相手をしたことはあるが、殺した事は無いらしいが……草花を好む珍しいドラゴンとは言え、平和主義ならそもそも力試しもしなくていいだろうに……。


「何で力試しをするんだ? そんな事をしなくても、荒らしに来る相手でもなければ、話し相手になってくれるだろうに」

「……ノリと勢いじゃ……」

「……おい」

「ドラゴンちゃんは可愛いんでちゅねー」


 アルベーリが困ってた理由は、このドラゴンが力試しをして魔族達を追い返すからだったと思うが……その理由がノリと勢いだったとは……。

 目を逸らして理由を明かすドラゴンを、フランは撫で続けながら可愛がっている。

 ……赤ちゃん言葉になってるが……微妙に似合って無いぞフラン。


「……今度からはその試練を止めておけ。そうしたら、草花について語り合える奴も来るだろ」

「本当か!? 妾と一緒に草花について語りあったり、草原で追いかけっこしたり、花の蜜でべとべとになったりしてくれるのか!?」

「何だ、その花の蜜でべとべとって……まぁ、試練さえなければ、花好きがここに来る事もできるだろうからな。存分に語り合えると思うぞ?」

「おぉぉぉぉぉぉぉ!」


 存分に語り合えるという事に感動した様子のドラゴン。

 こんなとこに1人……1体でいたら話し相手もいないだろうから、そういった相手が欲しくなるのもわかるが……相手ができない原因が、ノリと勢いの力試しだとはわかっていなかったようだ……。

 追いかけっことか、蜜でべとべととかはどうかと思うが、攻撃さえしなければ、話相手くらいは何とかなるだろう。

 アルベーリも、一応あれで気にかけてるみたいだしな。


「色々な助言、ありがとうなのじゃ。これからは頑張って、話し相手を逃さないようにするのじゃ」

「普通に考えればわかる事だとは思うが……それより、逃さないって言って、攻撃したりするなよ?」

「……何故じゃ? 妾と話す事は崇高な行為じゃろ? 逃すわけにはいかないのじゃ」

「そうですよねぇ、こんな可愛い子と話せるのなら、逃げる必要はないですよねぇ」


 ドラゴンって、考え方の奥の部分で我が儘なんだな……やっぱり。

 ドラゴン相手だと、魔族や人間が逃げられるわけがない……結局、また人が寄り付かなくなるぞ?

 とりあえずフランは、目の焦点が合ってない状態でドラゴンを撫で続けるのを止めてくれ……今まで見た表情の中で一番怖い。


「だから、それだと駄目なんだって……」


 ドラゴンに、何故人が来ないのか、人と話してどう対処したらいいのかを教え込む。

 時折、ドラゴン特有の我が儘さで話が通じない事があったから、剣をちらりと見せて脅す事で、ようやく納得したようだ。


「ふむぅ……中々難しい事なのじゃ……けど、やってみるのじゃ! これで友達100000000人できるのじゃ!」

「……その数はさすがに多過ぎるだろうが……まぁ、頑張れ」

「わかったのじゃ! しかし……お主が勇者とはのう……つい先程、隣の国で勇者の気配を感じたから、ここに来る事は無いと思っておったのじゃが……」


 そんな数の友達がいても覚えられないだろうし、そんなに人口がいねぇ……と思うが、ドラゴンの方はやる気なので、水を差すような事を言うのは止めておいた。

 だがそれよりも、ドラゴンが何か気になる事を言ったな……。


「つい先程……勇者が……? それはいつの事だ?」


 ドラゴンは悠久の時を生きると言われる。

 人間より数倍生きる魔族は長命だが、それすら短命と言える程の長さを生きる。

 そんなドラゴンが言うつい先程というのが、数十年前でもおかしくないし、数時間前でもおかしくない。

 基本的に人間とは時間の感覚が違うから、この辺りは曖昧なんだろう。



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