第45話 勇者、部下とオッサンを破壊する



「ほら、簡単でしょ?」

「倒すのは簡単そうだが……しかしな……」

「我々を侮ってはいけませんよ!」

「は?」


 簡単な事だと言うフランに、どうしたものかと悩もうとした瞬間、俺達の周囲が一斉に茶色いオッサンの顔で囲まれた。

 全部地面に潜ってたのか……しかし……これは気持ち悪いな……。


「うえぇぇぇ、全部オッサンの顔じゃないですか、気持ち悪い」

「気持ち悪いとは失礼ですね。これが我らブリザードの由緒正しき姿です!」

「いや、気持ち悪いだろ。こんな数のオッサンの顔に囲まれたら。しかも全部同じ顔だし……」


 10、20……いや、もっといるな……そんな数のオッサン顔に囲まれたら、気持ち悪くなって当たり前だろう。

 下手したらトラウマになるぞこれ?


「貴方達は、私達を退治しに来たという事で正しいですか?」

「……あぁ、そうだ。数が増え過ぎてるみたいだからな。山も寒くなって迷惑だ」

「そうですか……」

「では!」

「どうぞ!」

「我らを!」

「退治して下さい!」

「うっとおしいな! 次々地面から出て来ながら、セリフを分けるな!」


 アピールするポイントが違うだろ!

 今日は、地面からオッサンの顔が出て来て迫る夢を見る事確定だな、これは……。


「というか、良いのか? お前達を退治しても?」

「生きてても、何も希望がありませんから……」

「まんま疲れたオッサンじゃねぇか!」

「と言うのは冗談でして。私達も増えすぎて困っていたのです」

「仲間が増えるのは、良い事なんじゃないか?」

「いえ、増えすぎたせいで、この山は見ての通り吹雪が続いています。これでは寒くて何もできないのです……ですので、皆雪の下に潜っていたのです……吹雪、寒いですからね……」

「おいブリザード」


 氷の魔物が寒がるってどういう冗談だよ、おい。


「自分達で仲間を減らすってのはできないのか?」

「我々は氷属性です。氷を使う攻撃しかできません。寒がらせるだけで、仲間同士で争う事に意味は無いのです」

「文字通り、無駄な争いになるんだな……」

「はい。ですので、我々を退治しに来た貴方達に数を減らして欲しいのです。このままでは、寒さでおかしくなったブリザードが、人を襲い始めます」


 ブリザードが人を襲う理由って、寒さでおかしくなったからなのか……なんかもう色々無茶苦茶だな……。


「わかった。じゃあ遠慮なく数を減らさせてもらうぞ? あ、残る奴は地面に潜っていてくれ。間違えて全滅はさせたくないからな」

「わかり!」

「ました!」

「どうぞ!」

「よろしく!」

「お願いします!」

「だからいちいちセリフを分けて言うんじゃねぇよ!」


 残るブリザードが、それぞれセリフを分けて叫びながら潜って行きやがった。

 無駄な争いは避けるのに、無駄な努力は惜しまない奴らだ……。


「さて、フラン。手分けしてブリザードを破壊するぞ」

「わかりました! なんだかこの顔を見ていると、凄く戦意が湧いてきます!」


 オッサンの顔を見て妙にやる気……殺る気を漲らせるフラン。

 何かオッサンに嫌な思い出でもあるのだろうか?


「ファイア……ファイア……ファイア」

「ぱっ! ぴっ! ぷっ! ぺっ! ぽぉぉぉぉ!」

「「「ぎゃぁぁぁぁ!」」」


 どんな叫びだよ。

 気合を入れて足でブリザードを破壊して回るフランだが、お前の掛け声は絶対どこかおかしいぞ。

 それと、自ら進んで破壊されてるはずのブリザードがうるさい。


「……カーライルさん……その魔法で溶かすの止めませんか?」

「どうしてだ? ……ファイア」

「ぎゃぁぁぁぁ、熱いぃぃぃぃ!」

「いや、オッサンの顔が溶ける姿が気持ち悪くて……おぇ!」


 俺が魔法で溶かしてるブリザードを見て嗚咽をするフラン。

 んー、確かに気持ち悪いな。

 色はともかく、氷でできているから当然熱に弱いブリザード。

 オッサンの顔が少しずつとろけて消えて行く様子は、小さい子が見れば泣き出す事間違い無しだ。


「仕方ないな……俺もフランと同じように足で破壊するか……ふん! はっ!」

「ぎゃぁぁぁぁ!」

「ぐわぁぁぁぁ!」


 雪が吹きすさぶ山の中、ブリザードの断末魔だけが響き渡っていた。



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