第43話 勇者、極寒の地に立つ



「……何でこんな所に俺はいるんだ?」

「おおおお仕事でででですすすすよ、かかかかカーライルさんんんん」


 フランの口止めをした翌日、俺は雪が吹きすさぶ山の頂上に来ていた。

 魔王国の北の果て、これを越えて行くと別の国へと辿り着くが、今回の目的は違う。


「寒そうだな?」

「そそそそりゃそうででですすすよよよよ」


 がたがたと震えるフランを見る。

 いつもと同じ格好だから、寒いのは当然だろうに。

 この場所に来る事はわかっていたはずなのに、何故そのままで来たのか……。

 防寒対策をする事くらいできただろう。


「ははははやややくくくくかえりりりままししししょうううう」

「笑ってるのか?」


 寒さでおかしくなって笑ってるのかと思ったが、首をブンブン振って否定するフラン。

 ……違ったようだ。

 しかし、フランの鼻水も凍るか……仕方ないな、このままじゃ会話もろくにできない。


「ファイアウェア」

「……あぁ暖かいですー。……毛穴が広がるー」


 魔法を使ってやると、フランの周囲の雪が解け始めた。

 俺も自分に使ってる魔法だが、これで寒さはしのげる筈だ。

 ついでに、叩きつけるように降っている雪も、顔や体に当たる前に解けるから便利だ。


「あー、眠くなってきましたー……」

「おい! 寝るな! 寝たら死ぬぞ!」


 暖かくなってきたせいで眠気が襲って来たのだろうか、フランが目を閉じながら横に倒れそうになったので、慌てて起こし、頬を叩く。


「死ぬな! 寝るな! 死ぬな! 寝るな!」

「痛い痛い! 痛いです! 寝るよりも先にそっちで死にそうですよ!」

「ふぅ……意識がハッキリしたようだな」


 往復ビンタでフランの眼を覚ます事に成功し、一仕事終えたような満足感。

 ……いやいや仕事はこれからだ。


「確か、ここにいるんだよな?」

「はい。聞いた話だと、ここで目撃されたそうです」

「見渡す限り雪以外何も無いんだが……まぁ、吹雪で視界が悪くて遠くまで見えないが……」

「おかしいですねぇ……?」


 俺達がここに来た目的は、もちろん俺の仕事である魔物退治……ではなく、間引く事。

 この山では、ブリザードと呼ばれる氷の魔物がいるらしい。

 そのおかげで今、通常よりもこの山は寒くなっているんだそうだ。

 そのブリザードは、退治すると雪の結晶と呼ばれる物を残す事があるらしい。

 雪の結晶は魔力を溜め込む事ができるため、道具に取り付ける事で、魔具として使えるようにしてくれる物だ。


「もういっそのこと、辺り一面を吹き飛ばすか?」

「駄目ですよ、ちゃんと残しておかないと。全滅させたらもう雪の結晶が取れなくなるじゃないですか。ただでさえ貴重品なのに!」


 フランの言う通り、雪の結晶は貴重品で、一つに対する値段がバカ高い。

 便利な物なのだが、ブリザードを倒す以上に、その生息する場所が過酷な事、倒しても必ず手に入るわけでは無い事が理由だ。

 まぁ、よっぽど金に困って無ければ、鼻水も凍る山に来てまで手に入れようとはしないだろうな。


「ふむ……一体どこにいるのやら……?」

「カーライルさーん。焚き火ができたので暖まりましょー?」


 いつの間に用意したのか、フランが雪を掻き分けて出て来た地面に薪を並べて魔法で火を付け、焚き火を作っていた。

 というか、薪とかどうやって持って来たんだ……この山では全てが凍ってるから薪にはできないはずなんだが……。


「まぁ、出て来ないから仕方ないな。もう少し待ってみよう」

「ほらほら、早く来ないと火が弱まりますよー」

「わかったよ。今行くか……ら……?」

「あら?」

「GUOOOOO!!」


 突然、フランが作った焚き火の下が盛り上がり、低い唸り声のような叫びが聞こえた。


「おい、フラン! お前何をした!」

「何もしてませんよ! ただ焚き火をしてただけです!」


 盛り上がった地面から逃げるように、焚き火から離れるフラン。

 何が出て来ても良いように、俺は剣を抜いて構えた……。



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