第42話 勇者、魔王と共謀する



「おぉ、帰ったか。今回は時間が掛かっ……式には呼ぶんだぞ」

「何の式だよ!」

「だってなぁ、その恰好……今まで日をまたいで帰る事は無かったのに、1日経っている事からして……そういう事なんだろ?」

「だから、何がそういう事なんだよ! これはそんなんじゃねぇよ!」

「大丈夫だ、私は職場恋愛を認めてる。むしろ歓迎するぞ?」

「歓迎するんじゃねぇ! フラン、お前もいつまでもそこにいないで降りろよ!」

「段々気持ち良く……」

「うむうむ、女はそういうものだと聞いている。ベアトリーセも最初の頃はなぁ……」

「そんな話聞きたくねぇよ! くそ、降りないならこうだ!」

「ふにゃ!」


 王城に帰って来て執務室に入るなり、アホな想像をするアルベーリ……フランも変に乗っかるんじゃねぇ。 

 いい加減突っ込み疲れて来たので、腕を開いて抱えていたフランを落とした。

 最初と同じように顔面から落ちたフランは、猫が踏まれたような声を出して動かなくなる。

 土の地面より柔らかい床だから、大丈夫だろ。


「何だ? 違うのか、つまらん」

「お前を楽しませるために、フランと付き合ってたまるか。……はぁ……チックハーゼの間引き、終わったぞ」

「ご苦労だったな。今回はいつもより時間が掛かったようだが?」

「このフランが錯乱してな。噛まれまくって気を失ったから、休ませてたら遅くなった」

「そうか……チックハーゼ愛好会は仕方のない奴らばかりだな……」


 何か聞き逃せないような、聞き逃したいような名前があったんだが……チックハーゼ愛好会? そんなものがあったのか……。


「会長はベアトリーセだぞ」

「聞いてねぇよ、そして聞きたくなかったよ!」

「チックハーゼのためなら、人権なんぞ無視する奴らだからな」

「説明を続けるな!」


 なんだその危険な愛好会は……どこぞの愛護団体か!?


「アルベーリ、俺がチックハーゼを大量に殺したことは……」

「さぁてな……ベアトリーセにでも言ってみるかのぅ……」


 くそ、この魔王は……今だけは、とてつもなく邪悪な魔王にしか見えない。

 またブーメランパンツだし……もう慣れてしまったから突っ込まないが、オッサンのブーメラン姿に慣れるって何だよほんと……。

 あ、でもそうか……帰る前に考えてた事があったな。


「アルベーリ?」

「どうした、変な笑い方をしているぞ? まるで悪い事を考えてるような……」

「今回のチックハーゼを、俺に指示したのはアルベーリだったよな?」

「あぁ、そうだが。……まさか!」

「それを奥様に言ったら……どうなるかなぁ?」

「くっ……仕方ない、ここは停戦協定としようではないか」

「なんで争ってたのか知らないが……そうした方が身のためだな……」


 俺とアルベーリは、お互いニヤリと笑ってガッチリ握手した。

 その俺達の手の下で、フランが急に起き上がる……生きてたか。


「会長……もとい王妃様には私が伝えます! チックハーゼを駆逐しようとした事、後悔すると良いです!」


 起き上がったフランが血迷った事を言い出すので、俺とアルベーリはお互いの顔を見て頷く。


「ほぉ? 面白い事を言うな……フラン?」

「そなた……魔王である我に、そんな事が通用すると思っているのか?」

「え? あの、えっと」


 アルベーリと握手したままフランに近付く俺達。

 異様な気迫を纏っている俺達に、フランが後退りするが、逃がさない!


「いや! 放して! 変態! いやぁぁぁぁぁぁぁ!」

「「ふっふっふっふ」」


 アルベーリの執務室にフランの悲鳴と、俺達の笑い声が響き渡った。



「コンカイノコトハ、ゼッタイニダレニモイウコトハ、アリマセン。モウシワケ、アリマセンデシタ」

「少々、やり過ぎたか?」

「こいつにはこれくらいで良いだろう。これで俺達の命も助かるんだしな」


 しばらく後、カタコトでしか話せなくなったフラン。

 それを見ながら、一安心とばかりに胸を撫でおろす俺とアルベーリがいた。



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