第32話 勇者、戦闘訓練をする



「さて、次はそなただな。いつでも良いぞ?」

「それは良いんだが……左腕は大丈夫か?」

「この程度、筋肉で何とかなる!」

「なるかっ!」


 気合とでも言うかと思ったら、筋肉とか言いやがった。

 痺れた腕が筋肉でどうにかなるなら、苦労はしないだろうが……。


「はぁ……まぁ良いか。それじゃ、軽く行くぞー」

「いつでも来い……」


 以前の執務室では、アルベーリがいきなり仕掛けて来た。

 今回は俺が仕掛ける方だ。

 ……左腕が痺れて自分から仕掛けたくないんだろうな。


「すぅ……はぁ!」

「な! ぐぅ!」


 構えたまま、目を閉じ息を吸い込んで軽く集中……目を開けた刹那、右足に力を込めてを踏み切る。

 一歩だけでアルベーリに肉薄しながら、左足で蹴りを放つ。

 アルベーリは、俺の速度に目が追い付いてないようだが、腕を交差させてフランの時と同じようにガードの体勢になる。

 そこに左足を叩き込んだ。


「よっ……と……ふん!」

「な……ぐわ!」


 腕のガードに蹴り込んで起点にし、自分の体を持ち上げ両手でアルベーリの肩を掴む……本当は首を掴むのが一番良いんだがな。

 そのままアルベーリの肩に逆立ちするような形にした後、背中に向かって倒れ込む。

 その勢いを利用して、肩を掴んだままのアルベーリを一回転させて地面に叩きつける。

 首を持ってたら、折る動作も入るが……今回は訓練だしな。

 命を狙ってる相手じゃないから、そこまではしない。


「んしょ……はぁ、やっと抜け出せました……あれ? アルベーリ様が倒れてる?」

「フラン、ようやく出て来たか」


 地面にめり込んでたフランが抜け出すと、叩きつけられたまま大の字になり、うつ伏せ状態で倒れてるアルベーリを見て驚いたようだ。


「アルベーリ様……あんなに意気込んでたのに……一瞬でやられるなんてダッサ……」

「ぐっ」


 あ、アルベーリが倒れたままビクッと反応した。

 ダサいと言われるのは堪えるようだな。


「お前もアルベーリにすぐやられてただろう。何なら、今から俺とやるか?」

「ひぃ! 近寄らないで下さい変態!」


 変態とはひどいな……。

 俺と訓練するのが嫌なのか、ズザザッ! と砂埃を上げながら離れたフランは、怯えた目をしている。

 そんなに怯えるんなら、人をダサいなんて言うんじゃないぞ?


「……完敗だな……動きが見えなかった。……あれは独自に考えた動きなのか?」

「いや、以前の仲間に教えてもらった。格闘が得意な武道家がいてな、そいつから色々な技を教えてもらったぞ」

「そうか……機会があれば、我もその者から習ってみたいものだな……」


 フランを構っているうちに、起き上がっていたアルベーリと先程の動きについて話す。

 戦闘前の呼吸を整える方法や、戦闘に集中する方法、相手と距離を詰める方法、投げ技等、色んな事を教えてもらったなぁ。

 俺と一緒にパーティを追放されたが、リィムは元気だろうか? 

 ……しかしアルべ―リ……鼻血が出てるが大丈夫か?

 

「よし、次は我から仕掛けるぞ。……さぁ、始めようか」

「……その前に鼻血を拭けよ」

「赤く染まるアルベーリ様……格好良いです!」

「それならお前も、鼻血を出してみるか?」

「ひやぁぁぁぁぁ!」


 鼻血に気付いてるのかいないのか、アルベーリがすぐに訓練を再開させようとしたが、忠告したら鼻を押さえながら脱ぎ捨てた服で拭き始めた……高そうな服なのにな……。

 フランの格好良いと言う基準が全くわからないが、何故か鼻血を流したアルベーリを羨ましそうに見ていたので、同じようにしてやろうかと近付いたら、悲鳴を上げてまた後退りをした。

 ……冗談なのに、そこまで逃げられると少し傷付くな……。

 鼻血が止まったアルベーリが復帰し、訓練再開となる。

 俺の休日1日目は、日が暮れるまで投げたり殴ったり蹴ったりして終わって行った。


 ……休みってなんだろうな?



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