第31話 勇者、観戦する
「……おい……休みを有意義に過ごすんじゃなかったのか?」
「その通りだぞ? これが一番有意義に過ごせるだろう?」
隣のアルベーリにジト目を向けるが、あちらはどこ吹く風でしれっとしている。
休みを取る事になった俺達は今、王城に隣接する広場のようなところに来ている。
……広場と言うのは正しくないな……荒れ果てた地面が数百メートルに渡って広がっている場所だ。
所々穴が開いているのがあるから、ここは訓練場なのかもしれない。
魔法の訓練をしていれば、地面に穴くらい開くだろう。
「放して下さいよー!」
「逃げようとするからだろ。最初に休む事を考えたんだから、責任持って付き合え」
「いーやーでーすー」
足元で、縛られた状態で転がされてるフランがうるさい。
こいつは、アルベーリが何をしようとしてるか察知したのか、即座に逃げようとしたからな……。
俺だけ変な事に付き合わされるのは嫌だから、縛って無理矢理連れて来た。
「さて、始めるとするか……」
「結局何をするんだ?」
ここに来るまで、何をするのかは教えられなかった。
まぁ、こんな広い場所に来る以上……何となくやる事はわかる気はするけどな……。
「もちろん、戦闘訓練だ。この場所でなら、執務室と違って思いっきり動けるからな」
「はぁ……予想通りか……そんなに鍛えたいのか?」
「魔王だからな。魔王は常に強くあらねばならぬ。そのために、私を軽くあしらう事の出来るそなたがいるのは好都合、というわけだな」
言うが早いか、アルベーリは着ていた高そうな服を脱ぎ捨てる。
屈伸運動を始めて準備運動しているが、やっぱりいつものブーメランパンツのみの姿は、あまり見たい物じゃないな。
というか俺、ほとんど裸のオッサンと殴り合うような趣味は無いんだがな……。
「……よし……抜け出した……この隙に……」
「逃がすわけが無いだろう? ……逃げようとした罰だ、まずはお前が相手をしてやれフラン」
「我は誰から相手でも構わんぞ? 鍛える事が出来れば良いからな」
「ほとんど裸の男と戦うなんて、いやぁぁぁぁぁ!」
いつの間にか縛っていた縄から抜け出したフランが、コソコソと逃げ出そうとしていたので、襟首をひっ捕まえてアルベーリの前に差し出した。
アルベーリは誰からでも構わないという言葉通り、準備運動を終わらせ、構えを取る。
俺はその前にフランを置いて一旦退散した。
……さて、フランが何処まで戦えるかな?
「では、行くぞ!」
「……こうなっては仕方ありません。アルベーリ様とは言え、手加減はしませんよ!」
「ふん!」
「へあ!」
何だかんだで、フランも気合を入れて相手をする気になったようだ。
お互い向き合って、同時に突進する。
……しかしフランの掛け声は何か気が抜けるな……。
「ふっ! はっ! とあ!」
「へい! ふい! ほい!」
アルベーリが右の拳を振ると、フランは左に避けながら右の拳を放つ。
それを左手でつかんだアルベーリがフランを投げるが、空中で回転したフランは綺麗な着地をする。
着地をした瞬間、アルベーリにダッシュして飛び蹴りを放つが、アルベーリは両腕を交差させてガードする。
「ふい! ……ふぁい! ふぉい!」
「はっ! ふん! ……はぁ!」
気の抜ける掛け声を出しながら、ガードされた腕を土台にして上に飛び上がるフラン。
それを追い掛けるようにアルベーリはジャンプ。
追いつかれそうになったため、フランは器用に空中でバランスを取りながら右足で蹴りを放つが、アルベーリは左腕で受け止め、右手でその足を掴んで、空中で一回転させて地面に投げる。
ズン! という音と共にフランが地面に激突した。
「……大丈夫かー?」
「フガフガ……ひゃんとかー」
「腕を上げたようだが、やはりまだまだだな。気軽に飛んではいかんぞ? 空中では姿勢を操るのが難しいからな」
地面にフランの形で穴があき、その中に埋まっているのを覗きながら声を掛けた。
一応返事があったから、大丈夫なんだろう。
城壁に突き刺さったり、地面にめり込んだり……丈夫だな、フラン。
そのフランにアルベーリは、アドバイスのように声を掛けてるが、空中の蹴りを防いだ左腕をプラプラさせてるな……結構痺れたのだろう。
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