第21話 勇者、寝坊する



「窓から確認しますからね!」

「いや、覗くなよ!? 何でいつも窓からなんだよ! 窓マスターにでも憧れてるのか!」


 脱衣場を出る直前、ぼそりと呟くフランに突っ込む。

 窓マスターが何なのかは知らないが、何故フランはそこまで窓に固執するのか……。

 とりあえず、警戒はしておいた方が良さそうだな。


「さて、今度こそ寝るか……」

「カーライルさん、カーライルさん!」

「今度はなんだよ……風呂なら入ったぞ……というか、なんで部屋にいるんだよ」


 風呂から上がってさっぱりして、用意された広い部屋に戻って来ると、何故かフランが待機していて俺の名前を呼ぶ。

 何か……あまり頭の良くない犬や猫に懐かれた気分だ……。

 いや、あっちの方が可愛げがある分マシだな。


「何か失礼な事を考えませんでしたか?」

「……いや、何も」


 女の勘なのか? 怖いな。


「まだ夕方ですよ、寝るには早いのです!」

「俺はもう寝たいんだが……何か用でもあるのか?」

「いえ、何も? 暇なだけです」

「……はぁ……出てけぇ!」

「きゃん!」


 俺が寝るのを邪魔するフランの首根っこを捕まえて、部屋の外に投げる。

 空中でくるりと一回転して、しっかり着地するフラン。

 ……猫かお前は……。


「ちょっとカーライルさーん、開けて下さいよー」

「……サイレントフロア」


 扉を閉めてカギをしたが、外からフランがガンガン叩きながら叫んでいてうるさかったので、魔法で静かにしておいた。

 これで、この部屋の中に声や音は届かない。

 無音になった部屋で、俺はベッドに入って眠りに就いた……。



「カーライルさん! 起きて下さい!」

「んぁ?」


 何だ、うるさいな……魔法で音がしないようにしてたはずなんだが?


「起きろー!」

「ぐっ!」


 寝ていた俺に、何かが圧し掛かって来た……痛ぇ……。


「ゴホッ……ゴホッ……何だってんだ」

「おはようございます、カーライルさん。咳き込んでどうしたんですか、体調でも悪いんですか?」


 俺に圧し掛かって来た何かは、起きた事を確信すると素早く身を起こして、何もしていないように振舞いやがった。

 フラン……この野郎……。


「お前が圧し掛かって来たからじゃねぇか! 体調は万全だよ! 今日も元気に体操したいくらいだよ!」

「カーライルさん……体操はまた今度にしてもらって良いですか? 今は時間が……」

「あ?」


 ベッドから起き上がって、ひとしきりフランに叫んだのに、こいつは何も堪えちゃいねぇな……。

 しかし、時間がどうしたってんだ?


「……なんだ、まだ夜じゃないか。せめて明るくなってから起こせよ」

「夜なんですよ! 丸1日寝てたんですよ、カーライルさんは!」

「は!?」


 フランが言うには、俺が寝てから既に1日経っているらしい。

 暗くなった頃に寝て、また暗くなるまで寝てたのか俺は……どうりで体の疲れが取れてるわけだ。

 ……フランのおかげで、さっぱりした目覚めという事は無いが。


「……もっと早く起こせよ……こんな時間まで寝かせておくなよ」

「カーライルさんがドアにカギをしてるから、入れなかったんじゃないですか!」


 そう言えばそうだな……寝る前にフランを投げてドアのカギをした記憶がある。

 しかも魔法で無音化したから、外から呼びかけても俺に聞こえないため、起こす事もできないしな。


「……お前、どっから入って来たんだ?」

「もちろん、窓からです。正しい部屋の入り方ですね」

「正しいわけねぇだろ! なんでいつも窓からなんだよ!?」


 ドアに鍵が掛かってるはずなのに、何故フランが入って来てるのはそのためか。

 叫んで突っ込みながら、自慢するように自己主張激しいお胸を強調していたフランから視線を外し、窓を見る。

 そこには、寝る前は閉めてあったはずの窓が全開になってるのが見えた。

 ドアの鍵を開けられないのに、なんで窓を外から開けられるんだよ……鍵はしっかりしていたはずだぞ?



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