第20話 勇者、一口で食べる
「待たせたね」
「おぉ、来た来た。相変わらず美味そうなデザートだな、お姉様」
「これを待ってました!」
先程俺達を案内していたばば……お姉様が、三人分のデザートを持って現れた。
しかしアルベーリ……お前までお姉様と呼ぶのか……まぁ、ば……とか考えるだけでも鋭い視線で威圧して来るから、仕方ないのかもしれないが。
「しかしアルベーリ……良いのか、ここは?」
「んお? ……んぐんぐ……まぁ、こういう場所も悪くはあるまい?」
「いや、そういう事じゃないんだが……あぁ、すまない。気にせず食べてくれ」
お姉様が持って来たデザートを、目にもとまらぬ速度で食べるアルベーリに話しかけた俺が悪かったな。
「ング……ング……はぁ……美味しい……」
フランの方はと見てみると、スプーンで少しずつ食べては幸せそうな表情をしている……。
色々と言いたい事はあるし、頭が痛くなるような事もあるが、邪魔はしないようにしよう。
今のフランを邪魔したら、グリフォンも指先一つでダウンさせられそうな程、鬼気迫る雰囲気だからな。
「ん……確かにこれは美味いな……ふぅ」
「もう食べ終わったのか!?」
「美味かったからな。一口だ」
「美味かったからも何も……食べ始める前に美味いとわかるわけ無かろう……」
俺が一口でデザートを食べた事にアルベーリが驚いているけど、こんなもんだろう?
デザートは人の顔くらいの大きさがある、冷たい菓子だ。
これくらい一口で食べなくてはな。
「どんな体……口をしているんですか……」
「どんなと言われてもな……こんなだ」
「うわ……気持ち悪い……」
フランに顔を向けて、口を開けて見せると顔を背けやがった。
気持ち悪いとか、失礼な奴だな……。
「これも勇者の能力、という事にしておこう。でないと、カーライルを人間として見る事ができん」
「いや……勇者の能力とか関係ないんだが……」
俺の言う事にはもう聞く耳を持たない様子の、アルベーリとフラン。
おかしいな……リィムとかとよく、大きく口を開けて一口食事とかしてたんだがな……。
「我は満足じゃ……」
「……満足したのは良いが、アルベーリ……いや、魔王さんよ」
「ん、どうした?」
「デザート屋はまだしも、不法賭博とか放っておいて良いのか?」
「あぁ、あれ事か。あれはあれで良いのだ。魔族にだって息抜きをしたい時もあるだろうしな。こういう事を全て取り締まってしまうと、上手く回らなくなることもある。それに、皆やり過ぎないようにしておるみたいだしな」
「……そうなのか」
「客のほとんどが、王城勤めの兵士ですからねー。皆鬱憤が溜まって、ここで解消してるんでしょう。私も先輩から聞きましたし」
王城勤めの兵士が、不法な賭博場に出入りしている事自体が問題になりそうだが……魔王であるアルベーリが良いというのだから良いのだろう。
多分だが……溜まった鬱憤の原因はどこかおかしいアルベーリにありそうだしな。
というか、アルベーリが良しとしているのなら、それは認可済みと言わないか? まぁ、どうでも良いが。
「さて、部屋に戻って寝るとするか」
「カーライルさん、お風呂に入ってませんよね?」
王城に帰り、今日は早々に寝ようとしたところで、何故かずっとついて来ているフランに風呂を勧められた。
「面倒だ……明日にする」
「駄目です! お風呂は毎日入らないと! また臭くなりますよ!?」
フランに無理矢理浴場へと連れて行かれ、昨日に続き今日も風呂に入る事になった。
風呂自体は嫌いじゃないが、面倒な時もあるよなぁ、と考えながら脱衣場で服を脱……脱ぎかけたところで止める。
「おいフラン。いつまでここにいる気だ?」
「カーライルさんが、ちゃんとお風呂に入るかを確認するまでです。臭い上司の部下なんて嫌ですからね?」
「……いや、俺が脱ぐのを見るのか? それとも一緒に入るか? 背中流してくれよ」
「はぁ!? 嫌ですよ! 何言ってくれちゃってるんですか!?」
さすがに恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にさせたフランが脱衣場から出て行った。
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