第22話 勇者、次の仕事を引き受ける



「そんな事よりカーライルさん」

「なんだよ……」

「アルベーリ様が待っています。早く来て下さい」


 あぁ、そう言えば今日の昼にアルベーリの所へ行く事になってたんだっけ。

 魔王との約束を寝坊ですっぽかす勇者……中々できる事じゃないな。


「遅かったな、カーライル」

「なんでこの時間でもその恰好してるんだ? ……寒いだろ」

「もちろん寒いぞ。だが、何となくこの姿でそなたを迎えないといけない、と思ってな」


 フランに連れて来られたアルベーリの執務室では、何故かブーメランパンツしか履いていない、むさ苦しい男がポーズを決めていた。

 その姿で迎える事に何の意味も無いから止めて欲しいんだが……。


「は……は……ブエックッショーン!」

「クッション? ……はぁ……汚ねぇなぁ……こっちまで唾が飛んで来たぞ……ってか寒いなら服を着ろよ」

「うむ、服を着よう」


 クシャミで俺に飛んで来た唾を拭いてる間に、アルベーリはいそいそと服を着始めた。

 最初っから着てろよな……デザート屋の時は着……着て無かったな、そう言えば……慣れて来たからそこに注目するのを忘れてた。


「さて、カーライル。よく眠れたようだな」

「あぁ、おかげさまでな。まぁ……寝坊して予定の時間から遅れたのは、すまなかった」

「いや、気にするな。我もその時間は寝ていたからな」

「私も寝てました。昨日はカーライルさんが、暇つぶしに付き合ってくれなくて……遅くまで踊ってたので」

「全員寝てたのかよ……そんなんで大丈夫なのかこの国は……」


 服を着たアルベーリに謝ったのは良いが、全員寝てたなんてな……謝って損した気分だ。

 フランが何か踊ってるとか言っていたが、今回は無視してやる。

 突っ込まれなかったのが予想外だったのか、寂しそうな顔をしてるフランは置いておく事にした。


「とにかく、仕事の話だな。次の魔物だが……ふむ、そうだな。あそこに行ってもらおう」

「あそこですか、アルベーリ様?」

「あぁ、そうだ。あそこだ」

「あそこはちょっと……」

「嫌がっても、あそこにはいずれ行かないといけないだろ? あそこはあそこであそこだからな」

「あそこあそこうるせぇよ! 一体何処だよ!」


 いい加減、二人があそこを連呼するもんだから突っ込んじまったじゃねぇか、なんだよこの茶番。

 あそこで突っ込むとか……って、変な事を考えそうになっちまった!

 ……おい、嬉しそうな顔をするな、フラン。


「んんっ! 次の場所は、この魔王城から南東にある村だ。ロラント王国との関所から東に行った場所だな」

「ロラント王国に近いのか。それで、そこにはどんな魔物がいるんだ?」

「そこにはな、鏡がある……いや、いる」

「鏡?」

「そうだ鏡だ」

「「……」」

「おい、鏡の説明は無いのか?」

「おぉ、そうだな」


 なんか疲れて来たな……寝起きなのに、もう疲れているのは何故なのか……。


「鏡と言うのはだな、魔物の事なのだ……」

「鏡の魔物か、初めて見るな」

「魔王国でしか発見されていないそうだ。その鏡が問題なんだがな」

「何か特殊な能力を持ってるのか?」

「……魔法を跳ね返すのだ」

「魔法を……そりゃ魔族の天敵じゃないか」


 アルベーリのように、肉体を鍛えている、というわけでも無ければ魔族には対処できない魔物だろう。

 魔法を跳ね返すんじゃ、魔法が戦う術のほとんどを占める魔族にとっては、難しい相手だな。


「それで、他にその魔物の情報は?」

「以上だ」

「は?」

「以上だと言っている。それ以外には無い」

「何か無いのか? どうやって攻撃して来るかだとか、どう倒せば良いのかとか……」

「何もして来ない魔物だからな。強いて言えば……鏡の部分を割れば死ぬ、それだけだ」

「……それ、俺以外でも何とかなるんじゃないか?」


 魔法を跳ね返すんだったら、魔法を使わず近付いて力任せに叩き割れば良いんじゃないか?

 アルベーリの言う魔物は、魔族の天敵になるどころか、敵にすらなっていない気がした。



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