第18話 勇者、魔王国の裏の顔を見る



「それで、今日はまたいつものかい?」

「ええ。お願いします」

「いつもの?」

「ふっふっふ、きっとカーライルさんは驚きますよー?」


 いつものとは一体何なのだろうか。

 フランの笑いを見ていると、そこはかとなく不安になるんだが……。

 お姉様が床にしゃがみ込み、足元の床板をべりっと剥がす。

 その下には階段が続いていて、地下に通じてるようだ。


「こんな建物に地下だと……?」

「ついて来な」


 お姉様が先に階段を降り、俺とフランはそれについて行く。

 階段を降りた先は短い廊下になっていて、その先には分厚い扉があった。


「厳重だな」

「秘密を守るためですよー。カーライルさんは特別に教えてあげますからね。ふっふっふ……」


 さっきから、ほくそ笑むようにしてるフランが少しうざい。

 お姉様が分厚く重そうな扉を開けると、中から騒がしい音や声と、光が漏れ出て来た。


「何だ……?」


 中に入ってみると、そこには10人程度の魔族が各所に置かれたテーブルにつき、カードのような物を持っているのが見えた。

 魔族達は、そのカードで何かの勝負をしてるようだ……さっきから銅貨や銀貨、金貨なんかが飛び交っている。

 勝負に負けたと思われる魔族が一人、お金を隠してないか確認のために服を脱がされ、裸にされた後に崩れ落ちた。


「……賭け事か?」

「賭博場になってるんですよ」

「……国の認可は受けて無いがね」


 俺が聞くと、フランとお姉様が答えてくれたが……賭博場で国の認可を受けて無いって……不法じゃねぇか!

 アルベーリの部下だったらしいフランが、こんな場所に出入りしてて良いのか!?


「こっちだよ」

「もうすぐ、カーライルさんの驚く顔が見れますねぇ……」


 お姉様が、設置してあるテーブルの隙間を縫ってその先へ。

 横でほくそ笑んでいるフランと一緒に、その後をついて行く。

 ……不法賭博という時点で既に驚いてるんだが……これ以上何かあるのか?


「ここだよ」


 不法賭博が行われている場所の端、そこには先程ここに入って来た時よりもさらに厳重な扉があった。

 何か、この先に行ったら魔王とか出て来そうな分厚い扉だな……あ、魔王はアルベーリか。

 お姉様がその扉を全身を使って開ける……重いんだろうな。

 ゆっくりと開く扉から、光が眩しい程に漏れて来ていた……。



「どうですか?」

「……驚いたには驚いたが……ここは一体何なんだ?」

「もう、カーライルさん、見てわからないんですか? デザート屋ですよ。ここのデザートは、この国でも屈指の美味しさなんです!」

「デザートかよ! なんでこんな地下でデザート屋をやってんだよ! しかも不法賭博までしてやがるし! というか何で不法賭博の先に店を構えてるんだ! 店の入り口が何であんな分厚い扉なんだよ! 恐ろしいもんでも出て来るかと思って身構えたじゃねぇか!」

「……カーライルさん、あんまり叫んでると他のお客さんに迷惑ですよ?」

「……はぁ……はぁ……はぁ」


 一息に突っ込みを終えた俺は、息を整えつつ椅子に座る。

 店の中には数十人くらいの魔族達がテーブルについていて、美味しそうなお菓子を食べて微笑んでいる。

 もう、何から突っ込めばいいのかわからない……。


「まぁ、落ち着けカーライル。ここでは美味いデザートを食べてまったりするのが一番だぞ?」

「はぁ……もう疲れた……この際だからしっかり店のデザートを味わって……や……る?」

「ん? どうした、カーライル?」


 息を整えた俺を落ち着かせようとする声で、少しだけ自分を取り戻した俺は、突っ込む事を諦めたのだが……隣に座って声を掛けて来た男を見て愕然とした。

 そこには確かに恐ろしい何かがいたからだ。


「って、アルベーリ!? 何でここに!?」

「何でも何も、ここは我の憩いの場だぞ? 常連と言うやつだな」


 魔王であるアルベーリが、国の認可が無い賭博場とその先のデザート屋に来ている。

 しかもそこの常連だと言っている……もうやだ、何なんだこの国……。



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