第17話 勇者、部下に案内される



 急にお涙頂戴的な内容の話を始めたフランは、アルベーリの一言で終わらせられた。

 何か頭痛がして来た……この小芝居には付き合わなければいけないのか?


「冗談、冗談ですって、カーライルさん。ほら、本当の報酬はこれですよ」

「……はぁ……」


 溜め息を吐きながら、フランが自己主張激しいお胸の谷間から袋を取り出す。

 そこは収納袋だったのか……。


「……今度は確かに金貨があるな」

「ちょっとしたお茶目ですからね? あわよくば私が頂こうとは思ってませんからね?」

「……これからを見て、信じるか決めよう」


 フランがもし報酬をちょろまかすような考えなら、付き合い方を考えなければいけないからな。


「報酬の話は落ち着いたな。それで、次の魔物なのだが……」

「それは良いが……今日はもう休んで良いか? 小芝居に付き合って疲れたしな」

「ふむ……そうだな。考えてみれば、まだそなたはこの国に来たばかりだったか。仕方ない、仕事を始めたばかりで休暇というのも剛毅なものだが、存分に休め。部屋は用意しておいてやる」

「ありがたく」


 まぁ、本当に疲れたわけじゃないが、この国に来てから……来る前からも色々あったからな。

 ゆっくり休む時間は欲しい……昨夜は宿に着いたら風呂に入って寝るだけだったし。


「では……そうだな、また明日の昼にでもここに来てくれ」

「わかった」


 アルベーリの部屋から出て、ひとまずフランの案内で用意された部屋へと向かう。

 部屋から出てすぐに、後ろからアルベーリの盛大なクシャミが聞こえて来たが、気にしない。

 ……ずっとブーメランパンツだけでいるから、寒いんだろう……風邪引くなよ。



「カーライルさーん。こっちですー」

「あぁ、わかってるよ」


 用意された部屋に案内された後、俺はフランに連れられて城下町に出る事になった。

 俺は部屋でゆっくりしていたかったんだが、フランが案内するって聞かなかったからな。


「ここです。私お勧めのお店ですよ」

「……何だこの店は……いや、店なのか?」


 フランに連れて来られた場所は、城下町の端にある一軒の家。

 いや、家と言うのもおこがましいくらいぼろぼろな建物だ。

 窓も割れてるし、扉なんて下半分が無いじゃないか……どうしてこれで店なんて言えるのか……。

 壁も所々に穴が開いている。


「おばちゃーん、いるー?」

「おばちゃんなんて呼ぶんじゃないよ! お姉様と呼びな!」


 フランは俺が建物の様子に戸惑っている間に、扉の下を潜って中に入り、誰かに呼び掛けている。

 ……あの扉は下から入るものなのか……あぁ、蝶番が壊れて開かないんだな……もう板が張り付けてあるようにしかなっていない。

 仕方なく、俺も先に入ったフランを追うように扉を潜って中に入った。


「……お姉、様?」

「何で疑問形なんだい。麗しいお姉様だろう?」

「あっはっは! 冗談きついですよばばぁ」

「ばばぁなんて呼ぶんじゃないよ!」


 中に入ると、フランの前にはお婆さ……お姉様がいた。

 フランが言った言葉に、そのば……お姉様はフランの頭を鉄の棒ではたいた。

 

「痛いじゃないですかぁ!」

「アンタが悪いんだろう」


 フランが悪いとは俺には言えないが……頭は大丈夫なのか?

 いや、中身も確かに疑問に思うところがあるが、鉄の棒ではたかれたのに痛いだけで済むものなのかどうか……結構、力の入ってた音がしたんだが。


「そこの男はなんだい? ついにアンタにも良い人ができたのかい?」

「この人は私の新しい上司です。それにば……お姉様、私にも選ぶ権利があるんですからね。失礼な事は言わないで下さい」


 随分な言われようだな……。


「何だい、あんたの上司はアルベーリ様だったろう? クビになったのかい?」

「私がそんな事になるわけ無いですよ。こんなに優秀なのに」

「頭のネジが緩んでるアンタが、優秀なわけないじゃないか」


 俺もば……お姉様の言う事に賛成だ。

 アルベーリも大概だが、フランもな……国の最高権力者がいる部屋に、窓から入って来る奴を優秀という基準を俺は知らない。



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