第10話 勇者、町に到着



「ふぅ、ちょっと飛ばし過ぎたか」


 魔王城を出発してから数時間後、レロンの町に到着したが、思ったよりも早く着いたのは、新しい仕事だと張り切ってしまったためか。


「しかし、ここまで来たのは良いが……どうすれば良いんだ?」


 考えてみれば、この町の近くにグリフォンが大量に出ると聞いただけで、何処に出るかまでは聞いていなかった。

 さすがに町からすぐの場所に出て来るわけでも無いだろう……グリフォンがそんな場所に出るようなら町に被害が出るからな。


「ちょっとカーライルさん、私を置いて行かないで下さいよ!」

「お、フラン。早かったな」


 俺の走りに遅れる事少し、馬に乗ったフランが到着した。

 あれ、ここって馬で昼夜問わず走り続けて1日の距離じゃなかったか?


「馬に乗って来た割には早かったな」

「頑張りました。おかげでこの馬はもう使えません」


 フランは馬から降りて、そのまま手綱等を外して馬を逃がす。


「元気でやってくんだよー」

「いや、飼育されてた馬が野生に帰れるわけないだろ。それこそグリフォンに食われるのが関の山だぞ?」

「……はっ!」


 はっ! じゃねぇよ。

 いきなり知らない場所に連れて来て、そこで放されるとか馬にとって悪夢でしかないだろ。


「とりあえず、町に入るか」

「そうですね。こちらに私達が来るのを待ってる方がいるようです」


 馬を連れ戻したフランが、町の入り口で厩に連れて行き、引き渡しを済ませる。

 全力以上で走ったせいで足がガクガクしていた馬だが……この先どう扱われるのだろうか……。

 それはともかく、俺達を待つ人ね……。


「今日魔王城に着いてここまで来たのに、俺達を待つ奴がいるのか?」

「あぁ、カーライルさんがお風呂に入ってる間に連絡しておきました。魔法を使えばこれくらいの距離を通信するくらいできますよ」


 さすがは魔法を使う魔族、と言ったところか。

 ロラント王国と違って、魔法が使えるのが当たり前の魔族達が住む国だから、魔法技術が発達してるのだろうな。


「フランツィッカーさんですか?」

「フランツィスカですよ! もう名前ネタは飽きました!」


 町に入ってすぐ、俺達に声を掛けて来る一人の魔族。

 角の大きさは中くらいか……兵士くらいの強さのようだ。

 そういえば、フランの方は……デカイな……アルベーリ程じゃないが、結構な大きさの角が頭に二本生えている。

 ……ボケたり叫んだりと忙しいこいつも、それなりの強さという事か。


「も、申し訳ありません!」


 ズザーッという音がしそうな勢いで、声を掛けて来た魔族が土下座した。

 五体投地に近い勢いだが……こんな簡単に土下座とかするもんなのか?


「おい、どうするんだ。土下座してしまったじゃないか」

「知らないですよ。人の名前を噛んだり間違えたりする方が悪いんです」

「はぁ……ええと、どなたかは知りませんが、怒ってないので大丈夫ですよ。起き上がって下さい」

「ありがとうございます。……私はこの町を任されている町長です。私が、町長です」

「……この町で一番偉い人ですか。しかし、何故二回言ったんですか?」

「……一度言ってみたかったんです」


 町長を往来のど真ん中で土下座させたぞ、俺達……ほら、行き交う魔族達が注目してるじゃないか。


「フランツィスカよ、フランと呼んで。今度こそ間違わないでよ」

「は、はい。それでフラン様……こちらの方が?」

「そうよ。さっき話した管理職のカーライルさん……私の上司ね」

「よろしく」


 一応、町長に礼をしておく。

 言葉少なになるのは仕方ない、俺はこんなに注目されてる状況の中、平気な顔をして会話なんてできないからな。

 ……よくフランは普通にしてるな。


「それで町長、話しにあったグリフォンの発生状況はどうなってるの?」

「そうですね……」


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