第9話 元勇者パーティの人々
カーライルが魔王城を出発した頃、ロラント王国のとある森の中。
「何だってんだくそっ! 魔物が倒せねぇなんてことがあるのかよ!」
「ちょっとルイン、しっかり魔物を押さえていてよね。私のメイスじゃ何もできないわよ!」
「魔法を放つから、少しだけ離れろ! ……くそっ、外れた!」
「わー、こっちに来たなのよ!」
森の中では、カーライルを追放した勇者パーティの残りのメンバーが魔物と戦っていた。
しかし、ルインは剣を弾かれ、ミオリムはメイスで何とか魔物の爪を防ぎ、ムオルナは魔法を放とうとするが、誰かに当たらないようにする事に時間を取られている隙に避けられて、命中していない。
マイアに至っては、持ち前の素早さを使って逃げ回るばかりだ。
「くそっ! このやろう!」
「グギャギャギャギャ!」
やけくそとばかりに、剣を魔物目掛けて振るルイン。
だが、魔物は気持ちの悪い叫びをあげながら、ルインの剣を手でつかんで折る。
「剣が!」
「あれ高かったなのよ! どうするのなのよ!」
「あぁ、ムオルナ!」
「ぐぅ!」
ルインの折られた剣に気を取られてる間に、魔物は魔法を使うムオルナを狙って爪を飛ばす。
その爪を避けられなかったムオルナは、くぐもった声を出してうずくまる。
傷を癒すためにミオリムが近づくが、それを見た魔物は、先程ルインの剣を折った手を力任せに振る。
「きゃあ!」
「ミオリムっ! くそぉっ!」
魔物の手に当たって飛ばされたミオリムは、木にぶつかって崩れ落ちる。
「ルイン、撤退なのよ! このままじゃ全滅するなのよ!
「くそっ! この俺が魔物から逃げるだと? そんな事……」
「そんな事を言ってる場合じゃないなのよ!」
マイアに言われたルインは、悔しそうに唇を噛みながら、ムオルナを回収してその場から駆け出す。
マイアもミオリムを回収、その場から離脱した。
「ぎゃっぎゃっぎゃ」
ルイン達が逃げ出した後には、追い掛けもせず、あざ笑うかのような魔物の声が響くだけだった……。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……ミオリム、もう少し痩せるべきなのよ」
「……うるさいわね……ゴホッゴホッ」
「つぅ……」
森の外まで逃げだしたルイン達は、近くに魔物がいない事を確認してその場に座り込む。
ミオリムだけは、魔物に殴られた自分を治癒の奇跡で癒していた。
「……ミオリム……次は俺を頼む」
「わかってるわよ……その前に刺さった爪を抜いておきなさいよ」
ムオルナに答えながら、魔物に打たれた部分を癒すミオリム。
それを見ながらルインは忌々しそうに舌打ちをする。
「ちっ……あの程度の魔物相手になんだってんだ……今まで簡単に狩ってた相手じゃねぇか……」
ルイン達が倒せず逃げ出した魔物、マンティコアと呼ばれる魔物で、顔は人間に似ていて、尻尾はサソリ、体はライオンのような大きさをしている。
鋭い爪を飛ばし、尻尾には毒針、人間に似ている顔の口には人を食いちぎる牙がある。
本来なら、10人以上の職を持った人間が連携をして討伐する魔物だ。
ルインの言うように、以前は簡単に討伐していた相手なのだが、それはカーライルという万能勇者と、リィムがいた時の話。
何でも極めた強さを発揮するカーライルのサポートと、打撃と素早さで相手を翻弄するリィムがいたからこそできた事だったのだ。
「……やっぱり、カーライルとリィムがいないとなのよ……」
「うるせぇ、あいつらの事を言うんじゃねぇ! 今は俺が勇者パーティを率いてるんだ!」
「ルイン、思ったよりムオルナの傷が深いわ。どこか休める場所を探さないと」
自分を癒し終わってムオルナの様子を見ていたミオリムが、マイアに怒鳴り散らすルインに言う。
「ちっ、役に立たねぇ奴らだぜ」
ルインの苛立たし気な声を聞きながら、元勇者パーティのメンバーは、森から離れて近くの村へと向かったのだった……。
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