第8話 勇者、臭かった



「些事は置いておくのだ。まずはカーライルよ、西にあるレローンの町に行ってくれないか。あまり大きくはない町だが、そこでグリフォンが大量に発生していてな」

「アルベーリ様、レロンの町です。そんな何かを長い舌で舐めるような名前の町はありません」

「……レロンの町ですね……わかりました」

「それとだ、カーライル」

「はい?」

「我に畏まる必要は無いぞ。敬語や様を付ける必要も無い。ここで働く以上、我の部下と言う扱いにはなるが……もっとフランクに行こうじゃないか。我とそなたの仲だろう?」

「どんな仲だと言うんですか? つい先ほど会ったばかりですが」

「拳を交えた仲では無いか! 我をあれ程簡単にあしらう者など、他にはおるまい」


 確かに軽くあしらったけど……アルベーリも全力という程でも無かったんじゃないか?

 魔王なのだからもっと強いと思うが……。


「拳は交えてませんが……」

「細かい事は気にするな。とにかく我とお前の仲だ」

「はぁ……そちらがそう言うのであれば」


 仕方なく、了承しておいた。

 勇者とは言っても、特に立場の無い人間が一国の王様に対して普通に話して良いのだろうか、という疑問はあるが、本人が良いと言うのだから良いのだろう。


「それじゃ、えっと……アルベー、よろしくな」

「いきなりあだ名か!? それはさすがにどうかと思うぞ……アルベーリと呼んでくれ」

「我が儘だな……仕方ない。アルベーリ、よろしくな」

「うむ、カーライルよ、頼んだぞ」


 改めて、挨拶を交わすようにアルベーリと握手をする。

 鍛えてるだけあって、ゴツイ手だった。


「それでアルベーリ、その西にあるレロンという町は、ここからどうやって行くんだ?」

「レロンへは……そなた、馬は乗れるか?」

「馬? 一応乗れるが、走った方が早いからな。最近は乗った覚えが無い」

「……馬より速く走る人間……勇者というのは意味がわからんな……それはともかく、レロンの町はここからそれなにりに離れていてな。馬で1カ月だったか……」

「馬で1日です、アルベーリ様」

「そうだそうだ、馬で1日昼夜問わず走った先にある町だ。この城から出て西へ真っ直ぐ行けば着く事ができるだろう」

「その代わり、山と谷を越えなければいけませんけどね」

「ふむ……それじゃ早速走って行くか。真っ直ぐ行けば良いなら、迷う事も無いだろう」

「ちょっと待て、カーライル」


 馬で1日なら、俺が走れば半日も掛からないかもな。

 早速と部屋を出て行こうとした俺を、アルベーリが呼び止める。


「カーライル……そなた、風呂に入って行け。……近づくと結構……臭うぞ?」

「確かに……しっしっ!」


 そう言えば、パーティを追放されて余裕が無かったから、風呂に入るのを忘れてたな。

 しかしフランよ……一応上司になった俺に対して、鼻をつまんであっち行けと言うような仕草は無いだろう?


「……済まない……風呂は何処にある?」

「案内します。ですが……あまり近付かないで下さいね?」


 フランの優しくて涙が出て来そうな言葉を受けながら、俺は魔王城のだだっ広い風呂に入って数日間の汚れを落とした。

 風呂から出たら、西のレロンに出発だ。


 魔王城の入り口、馬に乗ったフランの横で屈伸をして準備運動。

 これから走っていくわけだから、入念にな。

 いきなり走って、足がもつれてこけたりしたら恥ずかしい。


「それじゃ、行くとするかフラン。これからよろしくな」

「はい、よろしくお願いしますね。部下として何かあれば言って下さい」

「あぁ、わかった。アヘアヘツィッカ」

「アヘアヘから離れて下さい! 名前も噛まないで下さい! フランって呼んで下さいよ、お願いですから!」


 フランが叫ぶ声を合図に、俺は西へ向かって走り出した。

 魔王城の城下町を疾走するのは気持ち良いが、もう少し町並みを見たかったな……まぁそれはいずれ機会があるか。


「ちょっと、カーライルさん! 待って下さい! うわっ、ほんとに馬より速い、追い付けない!」



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