第3話 勇者、魔王国へ行く



「ここが魔王国内か……」


 ロラント王に魔王国へ行く事を伝え、他にお世話になった人達に挨拶をして、一路魔王国へ。

 王様を始めとして、皆俺が国外へ行く事に驚いていたが、俺の一生を掛けた我が儘として押し通した。

 ロラント王国にいたら、どこにいても勇者パーティとして活動してた頃の事を思い出してしまうからな。

 ルイン達の事はもう思い出したくも無い。

 唯一味方をしてくれたリィムは、格闘の師匠である親父さんの所へ帰るらしく、笑って見送ってやった……あんなパーティや、俺と一緒にいるよりも、親元に帰った方が幸せだろうからな。

 関所を抜けて、目の前に広がる景色を見渡して、国境を越えた事を実感する。


「……あまり変わり映えしないな」


 関所を越えてすぐの場所だから、隣であるロラント王国と景色が変わらないのも当たり前か。

 北にあるから、ほんの少しだけ気温が下がった気がする程度だ。

 魔族の住む魔王国だからと、荒れ果てた大地があるわけでもないしな。


「さて、と……まずは魔王城だったな」


 俺が乗る事にした魔王国での管理職募集の話。

 詳細は魔王城にてとの事だったので、直接行く事にした。

 勇者の力を使えば、長距離移動も苦じゃ無いからな。


「それはともかく……そろそろ腹が減って来たな……お、ちょうど良い所に……」


 魔王城を目指して移動中、腹が減って来た時に見つけた魔物……グリフォンだ。

 空を飛ぶ魔物だが、良い具合に地上に降りていた。

 腰に下げていた剣を鞘から抜き、その場で一閃。

 剣から不可視の刃が飛んで、グリフォンの体を真っ二つにした。


「こいつの肉が美味いんだよなぁ」


 グリフォンの体を手刀で解体しながら、魔法を使って切り分けた肉を焼いて行く。

 適当に肉を焼いて、持っていた調味料を掛け、それを食べながら魔王城への移動を再開させた。

 ……やっぱ美味いな、グリフォン……確か兵士20人くらいで対応する魔物だったか……さすが魔王国だ、強力な魔物がそこらへんにいるなぁ。


「ここが魔王城かぁ……」

「何用だ! 人間……?」


 魔王城に着いて、その景観を眺めるように見上げる。

 さすが、数千年続く国なだけあって立派な城だ。

 しかし、ロラント王国の王城と違って色が黒いのは、魔族だからなのか?


「あぁ、警備の方ですか? ここで管理職を募集してるって聞いたんですけど?」

「何? あれはお触れを出してまだ数日だぞ。そんな短期間で人間がこの王城に来るとは……」


 城を見上げていた俺に話しかけて来た、小さい角の生えた警備兵に、ここへ来た目的を伝える。

 魔族は生来魔法が使えるうえに長寿だ、それを示す証である角は誇りの象徴だと聞いたのは誰からだったか……。 

 警備の人は人間がこんなに早く来た事に驚きながら、中に通してくれた。

 城内は広く、豪華な調度品などが並んでおり、さすがは王城と言った風情だ。

 俺は城を見学に来たお上りさんのように、キョロキョロとしながら案内してくれる警備兵について行く。


「アルベーリ様、例の件に志願する者を連れて参りました」

「……入れ」


 王城の奥、大きい扉の前で止まった警備兵は、ノックをして中に声を掛ける。

 中から低い男の声がして、扉が開いた。

 この話の責任者っぽい人の名前は、アルベーリって言うんだな。

 ……あれ、どこかで聞いた覚えのある名前のような……?。

 警備兵をその場に残し、俺だけが中に入る。


「よくぞここまで来た人間よ。我はラデルニ魔王国を統べる王にして魔族の王、つまりは魔王。我はアルベーリ・ビレコフェインであるぞ!」

「……失礼しました」

「おいおいおい! 待たんか人間! どうして我を見て帰ろうとするのだ。何だ? 我に恐れをなしたか?」

「確かにある意味で恐れをなしましたが……さすがに、ブーメランパンツで真っ黒なマントを羽織ってポーズを決める変質者が魔王なんて信じられませんので……」


 部屋の中に入って尊大に声を掛けて来た魔族は、ブーメランパンツ以外の服を着ず、執務机っぽい大きな机の上に仁王立ちし、どこからか吹いて来る風にマントをはためかせていた。

 ……俺、来る場所を間違えたかも……。



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