第4話 勇者、魔王と戦う
「いや、我はれっきとした魔王だから。お願いだから信じて!」
「……はぁ……わかりました。とりあえず信じた事にしましょう」
「何やら上から見られている気がするが……信じてもらえたようで何よりだ」
溜め息を吐いて、とりあえず目の前にいる男を魔王として認めた。
男は紫がかった短髪に、細身だが鍛えられていると思われる筋肉を、これ見よがしに見せつけて来る。
と言うより、ブーメランパンツ以外何も来ていない為、見せつけられている状態だ……男の裸なんぞ見たくないんだがな……。
「して、そなたが管理職になりたいという人間か?」
「ええまぁ。……こんな魔王がいると知ってたら、ここに来ませんでしたけどね」
「そんな事言うなよ……へこむぞ?」
おっさんにへこまれてもな……。
魔王と名乗る男、アルベーリはこめかみの後ろあたりから生えている、二本の立派な角を手でいじりながら俯く。
角の大きさからすると、確かに魔族としての実力はあるんだろうな。
確か、魔族は産まれつき魔法が使え、角の大きさで魔力が決まる。
さらに人間の10倍程度の寿命があるんだったな……あーそう言えば、以前聞いた魔王国の200年程度続いてる王様の名前が、アルベーリだったっけ……さっき聞いた覚えがあると思ったのはそういう事か。
……という事は、目の前で落ち込んだふりをしてるオッサンは本物の魔王なのか……これで良いのか魔王国……。
「して人間、志望動機は?」
「……何となくですね」
アルベーリが落ち込むふりを止めて、真面目な表情で聞いて来る……面接かこれ?
志望した動機と言われてもなぁ……パーティに追放されて飲んだくれてた時、聞いた話に興味を持った、ただそれだけだからな。
勢いだけみたいのもんだから、目的も何も無い。
「ふむ……それもまた面白いな……それで人間、お前は戦えるか?」
「戦えるかと聞かれると、戦えますね。……どれくらいかは……わかりません」
今まで全力を出し切って戦った事が無いからな……。
パーティで動いていた時は、他のメンバーもいたし、俺が前に出て戦うと一瞬で魔物を倒してしまってたから、いつも俺はあまり前に出なかったし。
「わからないとな……それなのにこの国へ来るとは……中々胆力があると見た」
「はぁ……」
「以前は何をやっていたんだ?」
「勇者をやってました……追放されましたけど」
「勇者だと!?」
俺の言葉にアルベーリは目を見開き叫んだ。
どうしたんだ? 勇者に何か驚く要素があったのか?
……まぁ、世界に一人だけしか存在しないはずだから、希少と言う意味では驚くのかもしれないが。
「……本当に勇者だと言うのか?」
「ええ」
「そうか……その言葉、信じるに足るかどうか……試させてもらおう!」
「っ!」
言うが早いか、アルベーリは無駄にはためいていたマントを取り去って、俺に向かって突進して来た。
さすが魔王というべきなのか、おそらく魔法で身体能力を上げていると思われるその動きは、目で追う事が難しい程だ。
……だが、俺にとっては遅い。
「ふんっ」
「なっ!」
俺は拳を突き出して来たアルベーリを避け、体を横に移動させる。
突進して来た勢いのまま、俺の横を通過しようとしたアルベーリの角を掴んで、勢いを利用して投げる。
驚きの声を漏らしながら、執務机にぶつかるアルベーリ。
「くっ……こうも簡単に投げられるとは……しかし、これはそうもいかないだろう!」
アルベーリは、悔しそうに顔を歪めながら立ち上がり、俺に掌を向けて魔法を放つ。
「ダークヴァニッシュ!」
「ちょ、ここでそんな魔法を使ったら……!」
全力なのか、アルベーリの放つ魔法は人の頭3つ分程の大きさの球になり、俺に襲い掛かる。
全てを飲み込みながら動く闇の球を見た俺は、腰から剣を引き抜き顔の前で構える。
「サクションシールド!」
「何ぃ!」
剣の前に白い盾が出現する。
その盾はアルベーリが放った魔法を吸い込んで消滅。
後には、手をかざしたまま驚いてるアルベーリと、剣を構えてる俺だけが残った。
あ、本棚の半分が消滅してる……良いのか?
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