第2話 勇者、国王に謁見する



「カーライルさん、大丈夫なんですかい?」

「あー? 大丈夫らって!」


 呂律が上手く回らない。

 宿からルイン達に追い出された後、俺は一人で酒場に来て飲んだくれていた。

 ……リィムは酒を飲まないからな。


「ちくしょう……ルインの奴……んっ……ゴクッゴクッ」


 愚痴るように声を出した後、不透明で安物のガラスでできたジョッキを煽ってエールを飲み干す。

 金もほとんど持っていない俺は、安酒で気分を落ち着かせるしかない

 マイアに預けていた金はそのままになってしまったが、多少の金は懐にしまっていた。

 とは言っても、ここでの酒代に消えるんだがな。


「おい、知ってるか」

「何だよ、もう酔ってるのか?」


 エールを飲んでテーブルに突っ伏した俺に、他の客の会話が聞こえて来る。

 楽しそうな奴は良いよなぁ。

 あんな追い出され方をして、あのパーティに戻れるとは思わないし、戻りたくもない。

 ルイン達が今後どういった活動をするのか知らないが、俺は一人になって人生出直しってとこだ。


「まだ酔ってなんかいねぇよ、そうじゃなくてよ、面白い話を聞いたんだ」

「面白い話? どうせまた与太話だろ?」


 面白い話ねぇ……俺がパーティを追放されたという話がもう広がってたりするのか?

 いや、あれはついさっきの事だ、それでここの客が知ってるのはおかしいな。

 酔ってテーブルに突っ伏したまま、二重に見えるジョッキを眺めながら、近くのテーブルで話してる客の声に耳を傾ける。


「魔王国、あるだろ。この国の北にさ。そこでなんでも管理職を募集してるんだってよ。しかも何故かこの国から」

「はぁ? 魔王国っつったら魔族の住む国だろ? なんだってこの国で人を募集するんだ?」

「詳しくは知らねぇよ。でもよ、国交があるとはいえ、仲が良いとは言えない人間の国にまで募集をするんだぜ? いよいよ魔王国の終わりが近づいてるんじゃないかって話だ」


 魔王国で人材募集ねぇ……確か、このロラント王国から北に行った所にあるお隣の国だ。

 人間とは違う、魔族ってのが住んでる国らしいが、行った事は無い。

 勇者である俺は、国王から魔王国に対する最終手段と教えられたが……今は戦争をする程、国同士の中が悪いわけでも無いからな、俺の出番は無い。


「魔王国で管理職かぁ。パーティも追い出されて金も無いしな……働かないといけないんだよなぁ」


 ぼんやりと、中身の空になったジョッキを見つめながら、その管理職とやらに興味を持ち始めていた。



「おぉ、カーライル。よくぞ来た。しかし今日はどうした? 他のパーティメンバーもいないようだが……?」

「あぁ、パーティから追い出されたんですよ。リィムだけは庇ってくれましたけどね。そのおかげで一緒に追放されましたけど」

「何だと!? カーライルを追放だと? 何を考えているんだ!」 

 

 翌日、酒の抜けないままに、ロラント王国の王城にて、国王であるエヴェル・フォン・ロラント21世と謁見していた。

 夜通しここまで移動して来たから、少し疲れたな……。

 目の前には、俺の言葉に驚いて叫ぶ王様。

 勇者の役割を授かった時から、何度か話した事はあるが……相変わらず元気な爺さんだな。


「知りませんよ、あいつらが何を考えてるかなんて」

「……そうか……して、カーライルはこれからどうするのだ? その相談のために余を訪ねて来たのか?

「いえ、どうするかはもう決めました」


 俺は昨日酒場で聞いた話を調べた。

 勇者パーティとして活動していたこの国で生きて行くより、思い切って他の国に行って見るのも楽しいかもしれない、と考えた俺はその話に乗ろうと思った。

 ルイン達にどこかで会うのも嫌だからな。


「ほぉ、既に決めていたか。して、どうするのだ? お前ならどんな事でもできるだろう。何なら、王軍で取り立てても良いぞ?」

「お言葉はありがたいですが、軍に入るつもりはありません」


 俺がどうするのか興味を示して聞いて来る王様に、俺は国外へ出る事を伝えた。


「俺、魔王国に行って、魔王のもとで働きます」



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