第20話 幽霊少女からのラブレター

「えーっと、何々?

 背景、ホークス・フォウ・ベリンバー様。

 突然のお手紙失礼いたします。先日の魔族襲来の際あなたは覚えていないかもしれませんが、助けていただいた者です。

 私はその時からすっかりあなたに惹かれてしまいました。つい先日街中でお見かけした時も声をかけたかったのですが、勇気が出ず、こうして手紙でお礼を言う事をお許しください。

 追伸。家族もぜひ夕飯くらいご馳走したいと言っておりますので、もし宜しければ私の家までお越しください。住所と簡単な地図を同封させていただきます。

 ファン・ヴェンジャントより。

 ……ん? これってひょっとして――」

「ら、ラブレターですわ!」

「どどど、どういう事なのよホークス!」

 食堂での夕食中、ネブロから手渡された手紙を読み上げたホークスは勿論、他の者たちも驚いていた。特にネーテとニアがかなり食い気味である。

「へー、あの時人助けなんてしてたんだ。やるじゃない」

 ウララも素直に驚いていた。だが、肝心のホークスには全く身に覚えがなかったのか、首をかしげている。

「はて? どうだったかなあ……あの時はとにかくバカ王子と競う事だけ考えてて、それに夢中だったからなあ」

 エマが頷きながら同調する。

「確かに、助けたとなれば戦場での事だったのだろうと思いますが、あの戦いの中で誰かを気にかける余裕は無かったとしても無理はありません」

「僕らも闇夜の監視者マルーノ・ク・ザーヴァントでホークスの事は見てたけど、正直、明確に人を助けてる所は見なかったかなあ」

 と、マルネも思い出したように言ったが、ネブロが割って入った。

「まあ、人知れず助けてしまうなんて戦場じゃよくある話だ。大方、魔族に襲われそうになってる所を助けたりしたんだろう」

「さすがですわ! ホークス様!」

「あはは。照れるなあ。そうか、ファンさんって言うのか……やっば。ラブレターなんて生まれて初めて貰ったぜー。いやあ、何て言うか心躍る良いもんですなあ!」

「キュイ―!」

「お、シロも分かってくれるか!」

「キュイキュイ!」

 夕食を食べ終えたシロがホークスの頭の上にやってくる。満腹になって機嫌が良いらしい。そんなシロの喉元をネブロが撫でる。

「それで、夕食に誘われてるみたいだが行くのかい?」

「ネ、ネブロさん! ちょっと待ってくださいまし!」

 ネーテは何やら納得いかない様子だった。

「ん?」

「確かに相手方のご厚意には甘えるべきかもしれませんわ。ですが、ホークス様はそれはもう、とてもお忙しい身。そんな事をしている余裕はございません!」

 必死にこれ以上女性と親しくなるのを止めようとする。更にニアまで。

「そ、その通りよ。そもそも命の恩人に夕食だけで済まそうだなんて甘い考えの持ち主とは関わるべきじゃないわ」

「との事だが、行かないのか?」

「行きますとも!」

 即答だった。

「せっかく誘ってくださってると言うのに! 行かないなんて失礼にあたるでしょう!

 ていうか、お前ら絶対付いてくるなよな。誘われてるの俺だけなんだから!」


 そう言って後日、ホークスはとある街外れにある森の中の洋館の前にいた。

「……何で皆で来てるんだよ」

 シロが相変わらず頭に乗っているのは良いとして、ホークスの言う通り傍らにはウララ、ネーテ、エマ、ニア、そしてマルネも同行していた。だが、魔族であるニア以外は皆どこか表情が引きつっている。

「そ、そりゃこんなのにラブレターなんて送る、もの好きを一目見ようと。ていうかネーテが行くって言うし」

 と、ウララが素っ気なく言うとネーテはホークスを心配するように。

「わ、わたくしはホークス様が変な女性に引っかからないように監視をしに」

 エマは腰から下げた魔法剣の柄に手を掛けながら答える。

「街の入り口から片道一時間。何が出るか分かりませんので道中の護衛に」

 そしてニアはさも当然のように言った。

「ホークスが行くところはどこだって着いていくわよ。何か問題でも?」

「キュイー」

「お前らなあ……」

 困った顔をしながらも皆がいる事にどこかホッとするホークス。それもそのはずだった――。

 目の前に立っているのはは元は立派だったであろう、三階建てのそれなりに大きな館。ネーテの実家程ではないにせよ、良家だという事は分かる。

 しかし不思議な事に夕食前だというのにどこにも灯りはついておらず、そればかりか窓ガラスなど所々割れており、外壁も剥がれ落ちたり崩れていたり。つる植物には浸食され、この状態を簡単に言うなればそう、廃墟その物だった。

 マルネがブルブルと震えながらホークスに確認する。

「ね、ねえホークス。本当にここであってるんですか……?」

「……あ、やっぱりそこ気にする?」

「当たり前じゃないですか! だってどう見たっておかしいでしょ!

 誰がどう見たって廃墟その物です。人間が住んでるようには見えませんよ!」

「でででもさ、この辺りに家なんてここにしか無かったし――」

 そう言いかけた時だった。突如ウララが冷や汗をダラダラと垂らしながらホークスの肩を叩く。

「っ?! ホホホ、ホークスさん……! に、二階の隅の部屋の窓の所、今誰かこっち覗いてなかった?!」

 一同が彼女が指さす方を見る。が、誰もいない。

「だ、誰もいないみたいだぞ? ウララの見間違いじゃないのか……?

 うん、そうだよ。きっとそう」

「そ、そうよね! あ、あはははー。私ったら疲れててるのかしらねー」

「も、もー。嫌ですわウララさんったら――」

 ネーテも内心怖くて仕方なかったのか、気が付けばホークスの袖をしっかりと掴んでいた。だが次の瞬間、エマが抜刀と同時に大きな声で「誰です!?」と言ったものだから一同ビクッとしつつホークスを中心に抱き着いていた。ニアは何が怖いのか分からなかったが、とりあえず皆が抱き着いているのでどさくさに紛れて抱き着いていたが……

 エマはしばらく辺りの様子を探ると、「き、気のせいでしたか」と納刀する。

 怖さを紛らわせる為に、ホークスは前向きに考えようとした。

「じ、実は、ひょっとして魔法でカモフラージュしたサプライズ……的な?

 廃墟に見えて本当はピッカピカのお家で、中では愉快なご家族が夕食を作って待っててくれて―、みたいな?」

 だが、マルネがそれを否定する。

「そそそ、そんな魔法聞いたことがありませんよ。せいぜい植物系の魔獣何かが幻覚作用のある匂いをまき散らしたりとかが関の山です」

「今はそんな現実的な話はいらん!

 俺だって分かってるわ! どこの世界にサプライズで恩人にお化け屋敷提供するホストがいるってんだよ!

 ちょっとくらい夢見させてくれたっていいじゃねえか!」

「す、すみません……」

「あれだな、そうだな、うん、よし、帰ろう。帰って街の食堂で何か食べて帰ろう。

 前から気になってた入り口近くの居酒屋みたいな店が――」

 そう言いながらホークスが踵を返そうとしたその時だった。

「ぎぃぃぃぃぃぃ……」

 と、館のボロボロの玄関の扉が開く。

「!!」

 一同は驚きつつも、固唾を飲みながらその向こうを覗き込む。だが、真っ暗で何も見えない。

「た、建付けが悪いのかな? いやあ、困っちゃうなあ」

 精一杯の強がりでホークスはやり過ごそうとし、ネーテもその案に乗っかった。

「そそそ、そうですわね。ひょっとしたら風が吹いていたような気もしますし」

「ですよねですよね!」

 ウララも割と限界だった。もう一分一秒とてここにはいたくない。しかし人一倍気配に敏感なエマは空気を読まず……

「え、風ですか? 私は特に感じませんでしたけど――」

 その時だった。


「……ヨウコソ、オ待チシテオリマシタ」


 突然、背後から彼らを呼び止める声が聞こえる。

「?!?!?」

 ゆっくりと振り向くと、目の前に血色の悪い幼女がそこに浮かんでいた。黒く長い髪に前髪で目元は隠れ、表情ははっきりとは読み取れない。皆が皆それを声の主と認めるまで数秒を要し、そしてその時初めて風が吹いた――。

 風は少女の前髪をそっと寄せると、そこには血眼ちまなこという表現がぴったりの、「ギンっ」と見開かれた真っ赤な狂気の瞳があった。

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁ!! でででででででで、出たあああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 溢れんばかりの奇声と涙、そして鼻水に冷や汗。ホークスたちは平然と立つニアの背に一瞬で隠れ、距離を取った。

「どうしたの?」

 ニアはニアで、皆がなぜこんなに怖がっているのか分かっていない。

 少女がそんなニアを見つめて言った。

「オマエハ、他ノ人ト違ウ匂イガスル……」

「匂い? 何あなた匂いフェチなの?」

 普通に少女と会話するニアにホークスが恐る恐る尋ねた。

「に、ニア。その子が言ってるのはそうじゃないと思うよー。というか、怖くないのか……?」

「怖い? ただの幽霊の女の子じゃない」

「やっぱりー!!! なんまんだぶなんまんだぶ……」

 疑惑が知りたくもなかった確信に変わってしまい、思わずお経を唱え始めるホークス。

「そっか。こっちの世界の住人は幽霊って怖いんだ。魔族には縁遠い感覚ね」

「マ……ゾク……」

 魔族という言葉に少女が反応する。

「ん? そうよ、私は魔族のニア。あながファン・ヴェンジャント?」

 しかし少女の様子はどこか変だった。ニアの問いかけに答える事なく頭を抱えて苦しそうに呻きだす。

「マゾク……マゾク……マゾクゥゥゥ!!!!」

 歯を剝き出しにして怒り狂う。

「な、何よ!」

 突然の豹変っぷりにさすがのニアも戸惑う。

「お、おいニア。あんまり怒らせるようなことしないでください!」

「知らないわよ! 私何か気に障る事した?」

 幽霊の少女から放たれた瘴気がオーラのように視覚化され、まるで嵐のように荒れ始める。

「グガアァァァァァァァァッ!!」

「あらら、反抗期かしら? 仕方ないわねえ」

 瘴気が数多の触手となり襲い掛かって来るのを「パシッ」「パシッ」とハエを追い払うように軽くあしらうニア。それがまた少女の癇に障た。

「コロス……マゾク、コロシテヤル!!!」

「穏やかじゃないわね。やれるもんなら、やってごらんなさい?」

 いつまでも余裕でいるニアだったが、ふとした瞬間に霧と化した少女に驚く。

「え?!」

 そしてあろうことか霧はホークス目掛けて突進し、目から鼻から口から耳から、ありとあらゆる隙間からあっという間にホークスの中に入り込んでしまった。

「ほ、ホークス?!」

「ぐ、ぐげ……ぐげげげげげげげ!!」

 今度はホークスが不気味な笑い声を上げ、様子がおかしくなってしまう。

「取り憑かれた?! みんな、ホークスから離れて!」

 ニアの掛け声に一同ホークスから距離を取る。

 そしてマルネが何かに気が付いた。

「まさかこれが狙いだったのか!」

「どういう事ですの?!」

「あの幽霊の様子を見るに、魔族に異常なまでに恨みを持っている様子でした。

 恐らくご家族をかつて魔族に襲われて亡くされたのでしょう。

 そしてその魔族に復讐する為、どこかで強力な魔力持ちのホークスを知った彼女は彼を呼び出して取り憑き、その体を自分の物にして意のままに操り使用する事を思いついたんです」

「ホークス様のお体を?! 何て羨まし……ゲフンゴフン……じゃなくて、何て酷い事を!」

 エマが青ざめる。

「ま、まさか、ホークスさんの力を使って魔族に復讐するとでも?

 仮に大暴れでもされたら、最悪王都の人間も無事では済みません!」

「そ、そんな。ホークスが乗っ取られるなんて……まずいわね。これは誤算だった……」

 事の重大さにウララが焦り始める。ホークスがこのままでは魔王討伐どころでは無くなってしまう。仮に取り返しのつかない被害を出そうもんなら始末書では済まされない。

 そして皆の心配が現実となって取り憑かれたホークスが白目をむき、ニア目掛けて暴れ始めてしまう。

「ぐぉぉぉぉ!!」

「ホークス! 目を覚まして!!」

 瘴気と魔力の合わさった力がニアを、そしてウララ達に牙をむく――。

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 夜の森の中を所狭しと闇の光弾が飛び交い炸裂し、木々を薙ぎ倒してクレーターを形成していく。一同は逃げ惑うのに必死だった。

「ま、まずいわね。除霊スキル持ってる人なんてここにいないのに! マルネ、あなたの知識で何とかならない?!」

「む、無茶言わないでくださいウララさん!」

「うわーん!」

 しかしそんな中、エマだけは冷静に館の屋根の上に登ってその様子を見降ろしていた。

「相手が幽霊でないなら、何も迷う事はありません」

 そう言うや否や、屋根を駆け降りるようにして飛び出し、剣の柄に手を伸ばす。

「エマさん! まさか、ホークス様諸共?!」

 ネーテの心配をよそに、エマは躊躇なく抜刀する。

「叩き出します!  いかづちよ、我が剣に宿り導け! 雷光斬ドルー・モ・ルティ!!」

 雷光と雷鳴による一閃が迸った次の瞬間、ホークスの体が宙に舞う――。

 舞って……攻撃をかわしていた。

「エマの攻撃を避けた?!」

 ニアもこれには驚く。魔法も使わずに普段のホークスがエマの技を避けるなど身体的に不可能だったからだ。

「そんな……」

 当然エマにとっても意外で、完全に仕留められると思っていた。

「ぐがぁ!!」

 そして間髪入れずにエマを仕留めようとホークスの光弾による攻撃が繰り出される。しかし巨大蜘蛛化したニアが間に割って入り、魔法による防壁を張って難を逃れる。

「危ない!」

「ニア! どうして……」

「友達を守るのに、理由なんていらないでしょ?」

「とも……だち……」

 思わず繰り返してしまったエマだったが、今は感傷に浸っている場合ではなかった。ニアがホークスからの攻撃を防いでくれているが、徐々に押され始めている。

「まったく、ほんっと敵に回すと厄介な男ね。

 エマ、あいつの注意を私が逸らすからその隙を狙って!」

「りょ、了解です! でもどうやって……」

「簡単な事よ」

 そう言うと手の平から放出した糸で一時的にホークスを絡め捕り、蜘蛛化を解きつつネーテの隣に移動して、一言「ごめんね」と誤った。

「?」

 次の瞬間、爪でネーテの服を粉々に引き裂いてしまう。

「……へ?」

 その豊満は胸は勿論、一糸纏わぬ姿となったネーテが硬直する。

 ウララはそっとマルネの顔を手で覆う。

 そしてホークスは見事、罠に引っかかった。ネーテの姿に見惚れ、ガン見して動かなくなってしまう。心なしか鼻息が荒い……

 自分の置かれた状況を理解し、「きゃあぁぁぁぁ!」とお約束のような悲鳴を上げながら体を隠して屈みこんでしまうネーテ。

「今よ!」

 と、ニアが合図した時には既にエマは動き出していた。電光石火の速さでホークスの背後に回り込む。

雷光斬ドルー・モ・ルティ逆打さかうち!」

 逆袈裟斬りを狙い、勢いよく放たれたその一閃は蜘蛛の糸だけを斬る。体には傷一つ付けないながらも、強力な稲妻が一瞬遅れてホークスの足元から脳天に向かって駆け上る。

「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 見事に攻撃を食らったホークスは、黒焦げ一歩手前の重傷を負ってその場に倒れ込む。

「ホークス様!」

 今すぐにでも治癒魔法を掛けるため駆け寄りたい心境を堪えながら、ネーテは見守るしかできない。

「大丈夫、急所は外しています。それよりも……」

「幽霊少女はどこ行ったのかしら。ひょっとして昇天しちゃった?」

「いえ、そこまでの手応えはありませんでした。しかし、ホークスの体からは出て行ったはずです」

「ふぅん、という事はどこかに隠れてるって事ね。

 お嬢ちゃん、姿を現したらどう? さもないと思い出のお家を粉々にしちゃうわよ~?」

 ニアはいたずらな笑みを浮かべながら蜘蛛化すると体の前に力を溜め始め、屋敷に向かって放とうとする。すると――。

「や、やめてー!!」

 どこからともなく立ち込めた霧が収束し、先程まで鬼のような形相だった幼き少女は無垢な姿で現れ、両手を広げて家の前に立ち塞がった


 やがてネーテはニアの糸によって作られたバニーガールのような際どいドレスを着せられて赤面し、ホークスも無事に意識を取り戻した。そして目の前には泣きじゃくっている幽霊の姿が――。

「ひっく……ひっく……」

 皆で彼女から事の次第を聞き、マルネも納得する。

「成程。つまり、50年前に魔族に襲われ、その際にキミたち家族は命を落とした。そして魔族憎しで今日までキミは怨念となり、家虎視眈々と復讐の機会を伺っていた……」

「はい……」

 ウララもハンカチ片手に涙ながらに聞き入っている。

「人知れず残されたこの家と両親との想い出を守りながら今まで……何て悲しい運命なの」

 ニアは元凶となった元を推測する。

「恐らくあなたの家族を襲ったのは調査も兼ねた先遣隊ね。まったく、これだから血の気の多い連中は。余計な事をしてくれたものだわ」

 マルネが続ける。

「そして先の魔族襲撃のエリアからもここは近い。その際にホークスの魔力を感知して彼に目を付けた。ホークスの力なら魔族ともやり合うに十分だと」

「はい……」

「やれやれ、とんだラブレターだったぜ」

「ご、ごめんなさい……」

「えっと、ファンちゃんだったっけ?」

 未だ泣き止まない少女の前に視線を合わせる感じで屈み、頭に手を乗せる素振りをするホークス。

「?」

「確かにやり方は良くなかったけど、ちゃんと謝れるなんて偉いじゃん!」

「ホークス……」

 意外な優しい一面を見せた彼に、ウララが珍しく感心する。

「最初はちょっと怖かったけどさ、俺は許すよ。良い物も見れたしな」

 そう笑顔でほほ笑むと、チラッとネーテの方を見た。

「ほ、ホークス様!」

 思わず両手で胸元を隠すネーテ。

「だから安心しろ。ファンちゃんの仇は必ず俺が取ってやるよ! なんたって、俺ってば超強いんだぜ?」

「ホークスさん……」

 ようやく安心したのか、ファンは泣き止む。それを見届けて立ち上がるホークス。

「あ、あの……でもどうして、その……そっちのお姉さんは魔族……ですよね?」

「私?」

 いきなり話を振られたニアはきょとんとする。

「私はホークスの妻になる女よ」

「妻?!」

 そう聞いて今度はファンが驚き、ネーテが割って入る。

「あ、抜け駆けはずるいですわ! わたくしが第一婦人です!」

「だ、第一……?」

 ホークスは片手で自らの顔を覆うと、指の隙間から目を覗かせて怪しく笑う。

「ふっふっふ、聞いて驚け幼子よ。

 我が名はホークス・フォウ・ベリンバー。またの名を神焔のゴッドバロン。

 やがて大魔王を内倒し、ハーレム王となる男だ!」

 良くわからない自身をたっぷりに、「バッ」と両手を広げて宣言する。呆れたウララがさすがに突っ込んだ。

「こんな小さな子になに変な事吹き込んでんのよ」

「そういうタイミングだったかなって」

「まったく、あんたって男は」

 自然と一同に笑いが湧き起こる。

「そんなわけで忙しいんだ。大魔王倒したらまた報告に来るからさ」

 帰ろうとするホークスに、ファンが詰め寄る。

「あ、あの!」

「ん?」

「ほ、ホークスさんの「はーれむ」ってまだ空きは有りますか?! 幽霊でも大丈夫でしょうか!」

「……はい?」

 突然の提案にホークスは勿論、他の者も揃って鳩が豆鉄砲を食ったような顔になってしまう。

「あ、あの、ファンちゃん? ハーレムの意味分かって言ってる?」

 ウララも流石に止めに入る。

「分かってます! お父さんもお母さんにシバかれながらそんな事言ってましたし!」

「ええ……ど、どうするのよホークス……」

 ウララに問われ、しばらく考え込んだホークスは答えを出す。

「……勿論いいぜ。なんせ、俺が目指してるのはただのハーレムじゃない。

 ハーレムの中の王、だからな! 老若男女も魔族も幽霊もどんと来いだぜ!」

「!!」

 思いもよらない懐の広さを見て、一同は少しホークスに対する見方を改めたのだった。

「ホークスさん、大好きです!」














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