第17話 王の間と試験勉強と
ニアの襲撃の翌日、ホークスはジュヴェーロ王国の中央に聳え立つ王城は王の間に正座していた。
床も柱も何もかもが大理石で出来た空間に真紅の絨毯が敷かれ、それを囲むようにして鎧兜を着込んだ衛兵たちが十数名程直立不動で立っている。目の前の玉座には当然の如く国王グランツォ・グロー・ジュヴェーロと王妃のリグロ・グロー・ジュヴェーロが座っていた。そして黄金の鞘に収まった王の大剣を預けられたレクトが傍に控えている。
本来であればフォルターも同席するはずだったが、試験前という事もあり学業を優先して現在は登校していた。
そんな荘厳な間でホークスはと言うと、本人は試験の事が頭でいっぱいになりながらもニアに終始抱き着かれており逆に困惑中。更に慣れない場所と言う事もあって冷や汗が止まらない。
王が大きく咳払いをして話始めた。
「ホークス・フォウ・ベリンバー、今日来てもらったのは他でもない。貴公ほどの男ならば察しもついているとは思うが、その魔族の事だ」
「はい……」
「私ともあろう者が、昨日はついその場の雰囲気に流されてしまったのは不徳であった。だがそこの魔族は我らの敵であり、この国、ひいては人間界全てを滅ぼさんとしている。
よって断罪せねばならぬ。さあ、情が移る前にその者を差し出せ」
そう言うと立ち上がり、レクトが無言で大剣を差し出した。これを受け取り鞘から引き抜く。
誰もが王には逆らえない。そのような場所でニアだけは違った。
「ふーん。その剣であなたが私を斬るって? グランツォ王、あなたじゃ私は倒せないのは昨日で分かってるはずだけど?」
「やってみなければ分からんだろう?」
王はしっかりと両手で柄を握りしめて構えるも、ニアはヘラヘラと笑ってのける。
「昨日戦ってみてはっきり分かったことがあるんだけど、言っても良い?」
「申してみよ」
「この国で私を倒せる可能性があるとすれば、それは並外れた魔力を持ったホークスだけ」
「何?」
「あなた達人間には感知できないようだけど、魔族の眼には相手の魔力の量と質がはっきり見えるし肌でも感じるのよ。
王宮の兵士達が寄ってたかって傷一つ付けられなかった私が、何で急にホークスに傾倒したか考えたことはあるのかしら?」
「……」
「彼の魔力量はね、魔王にすら匹敵する。それもこの若さで。ひょっとしたらその内大魔王すら超えるかもね?」
「ば、馬鹿な……?!」
グランツォ王を始め場内がざわつき、ここまで沈黙を守っていたレクトも「まさか……」と口を開いた。そんな中ホークスは大げさに照れて見せ棒読みで発言する。
「ええー、俺ってそんなに凄いのぉ? いやー、まいったなあ。
(てか、俺はただの魔法使い? ってことだし、魔力で大魔王越えないと倒せないっつーの……)」
しかしニアは釘を刺した。
「だーけーど」
「だけど?」
「知っての通り、私たち魔族はその膨大な魔力を蓄える為に姿形もそれに比例して大きくなる。ただの人間がそれだけの魔力量を抱えていたらどうなるか……ちょっとワクワクしない?」
そう言われて急に青ざめるホークス。
「え……」
「ひょっとしたらある日突然爆発しちゃうかも」
「まじで?」
「あくまでも仮定の話よ。でもその辺も含めて私は彼に興味を持ったってわけ。それに大魔王様より話も通じそうだし、ならこっちに着いてみるのも有りだなって」
そして王の視線がホークスに向く。
「貴公、今の話が本当だとしていったいどのようにしてそれ程強大な魔力を身に着けたのだ?
生まれつきというわけでもあるまい」
「え……えーっと……(まさか、わりと生まれつきだったみたいで、転生した際にさらにブーストされたとか言っても分かってもらえないだろうしなあ……よし)
い、以前故郷の方で真夜中になると出てくる怪物がいまして。それに襲われそうになった時に覚醒した……みたいな? その後もその怪物の親玉を倒すために一年近く仲間や色んな人達と協力して頑張ってたら、何か実は世界を滅ぼそうとするくらい強いやつだったみたいで。結果、最終的には力が着いてた……という感じで」
と、お得意のゲームの話で切り抜けようとするホークス。
「なんと! 大魔王の他にそのような輩まで……しかしそうか、既に一度世界を救っていたのだな。ホークスよ、貴公が類まれなる才能の持ち主であることは良く分かった。
だがその魔族を匿い王の命に背くという事は国家反逆罪に値し、投獄の後死罪と言う事も免れん」
「ちょ、ちょっと待ってください王様。俺は――」
「しかし私とて鬼ではない。今ならば、お主の手でその魔族を倒せば、その罪を免責としよう」
ホークスはニアと顔を見合わせながら困ってしまう。昨日は宿舎の中こそ遠慮して貰ったが、その他は常に付きまとわれてボディタッチをしてくる。元々人に慣れていない上に童貞の彼にとって篭絡されるのは時間の問題どころか秒単位で足りていた。おまけにニアは下半身さえ蜘蛛にならなければスタイルも顔も良くとても好意的だ。なので正直、昨日の帰路の途中で情は移っていた。
と、その時王の隣から口を挟む者が現れる。
「何が免責ですか。元々はあなたの招いた不祥事でしょ?」
「り、リグロ……?」
王妃リグロだ。長い髪を上品に束ね、王より一回り小ぶりな冠を被ってはいるが気品と風格に溢れている。一見優しそうな眼をしているが、その奥は全てを見透かすかのような眼光が確かに存在していた。
「それにさっきから聞いていればなんです。そこのお嬢さんを逃したばかりか一国の王として仕留め損なった。違いますか?」
「いや、その、違いはしないというか……だ、だがこれは――」
昨日の戦いでは先陣を切って誰よりも勇ましかったグランツォ王。常に威厳で溢れ、兵の誰からも信頼が厚かった王。それが突然しどろもどろになる。
「王とは責任を取る為に居るのです。それが上に立ち、国を治める者の責務。それをこのような前途有望な若者に一切押し付けるような真似をして。恥ずかしいとは思わないのですか?」
「いや、あの……」
このままでは王の沽券に関わると、見かねたレクトが間に入る。
「リグロ王妃、王は何も全ての責任をホークスに押し付けようとしているわけでは――」
「あなたは黙っていなさい」
「申し訳ございません!」
一連のやり取りを見ていたホークスとニアは何となくこの王室の力関係を理解した。思わずはもってしまう。
「「なーるほど」」
そう、このグランツォ王は恐妻家なのだ。王は数分前までピンと伸びた背筋をかがませ、今は蛇に睨ませたカエルのように及び腰になっている。普通に立っていれば圧倒的に王の方が大きいはずなのに今は誰よりも小さく見えた。
「リグロ、しかしこの魔族を放っておくわけには……」
「魔族の定義を言ってみなさい」
「そ、それは……超常なる力を持って人々に害を成すモノ……」
「害を成していますか?」
「成そうとしておっただろう! ホークスを我々の手で殺めようとしていたのだぞ?!」
「しかしそうは成らなかった。昨日の戦闘に於いても皆怪我こそすれ、誰一人殺されてすらいない」
「誰かが殺されてからでは遅いと言っている!
それにこの国に来るまでに他の国で何人も殺めてきておるのだ!」
王にビシッと指を指されたニアはきょとんとする。
「私、この前魔界から派遣されて出てきたばかりだし、まだ誰も殺してないわよ?」
「ま、魔族の言う事など信用できるか!」
一度剣を抜いたからには後には引けないと奮闘する王だったが、王妃の話はまだ終わってはいない。
「はぁ、ジュヴェーロ王国の王ともあろう者が情けない。あなたの眼は節穴ですか?」
「……ど、どういうことだ?」
「あの子の眼を見てごらんなさい。あれが何人も人を殺してきた魔族の眼に見えますか?」
それを聞いて、一同がニアの眼を覗き込む。
「あれはね、ただの恋する女の子の眼です。そこに人間も魔族も関係あるものですか。ね?」
自分の状況を客観視され暴露された上に、王妃にやさしく微笑みかけられ、思わずニアは赤面してしまった。
そして王妃は今度はホークスと向き合う。
「ホークスと言いましたね。うちの夫が失礼しました。この人、決して悪い人じゃないんだけどね? たまに頑固になっちゃう時があって。許してあげてくださいな」
「は、はあ……」
「さて、お話は以上です。わざわざ学校をお休みしてまで来てくれて悪かったわね」
「いえ、そんな」
勝手に話を終わらせようとする王妃に、王は食い下がった。
「ま、待て待て! まだ私の話は終わって――」
「いいえ、終わりです。これ以上何を話すというのですか? そうでなくとも広場の修繕などで公務は目白押し。今日中に終わらせなければならない仕事が他にも山の様にあります」
「それはそうだが……」
「そうですねえ、ではホークス」
「は、はい!」
「その子は常に目の届く所に置いておくこと。学校と宿舎には私から話を通しておきます。
ただし、もし何かあった場合は私自らがあなたを処刑しましょう。それでよろしいかしら?」
「……はい……」
「やったわねホークス! 王宮公認になっちゃった! これでずっと一緒にいられるね!」
「そ、そうだな……あはは……」
もし次に何かあったら今度こそ市中引き回しの上本当に殺されるな、と若干引いているホークスに対し、ニアは一人ではしゃいでいた。
そして王は王妃の機嫌を伺うように……
「あ、あのー、リグロ……さん? そんな勝手に決められても――」
だが聞く耳は持っていなかった。
「レクト、そういう訳ですので取り急ぎこちらのお嬢さんに許可証の仮発行と、この二人を城外まで送ってきなさい。それから大臣は次の案件の準備を」
「「承知致しました!」」
ようやく城の外に出たホークスは思いっきり背筋を伸ばす。
「う~ん、はぁ……あー、緊張した」
「ホークスお疲れ」
「ニア、何て言うか無事に済んで良かったよ。今朝はいきなりネブロさんに叩き起こされて城に連れて行かれたと思ったらこれだもんな」
微笑み合うホークスとニア。そこへレクトもやれやれという面持ちで肩の力を抜いて言った。
「今日は済まなかったなホークス。王も普段はああではないのだ。今日の失態は忘れてくれると助かる」
「そうするよ。俺も「王様」のイメージ壊したくないし」
「ははは。そう言えば、我が愛しの妹は元気にやっているか?」
「ああ。毎日元気に学校に通って――って、そうだ、試験!」
これまでの一連の流れでいつの間にか忘れていた事が一気に脳内を書き換えていく。
「そうか、そろそろ中途試験が始まる時期だったな」
「ニア悪い。俺、試験勉強しないといけないんだ。捕まれ、学校に急ぐぞ」
「はいはい。人間も魔族みたいに学校があるのね」
「じゃあな、レクト。また!」
「ああ、またな」
ホークスは差し出した手をニアが握るのを確認すると、飛行魔法を唱えて颯爽と飛び去って行った。
「相変わらず詠唱無し、か。魔王に匹敵する魔力量の持ち主……あいつがいれば、もしくは……」
そう呟くと、レクトは踵を返して城内へと戻って行った。
ホークスたちが学校に着くと丁度ランチタイムだった。先日の騒ぎでニアの事を知る者が数名いたので少々ざわつきもしたが、食堂に入ると先に食事をしていたウララ、ネーテ、エマ、マルネと出会う事が出来たので事の経緯を説明する。
「どういうことですのホークス様! わたくしという者がありながら、あまつさえそのような魔族を同伴させるだなんて!!」
「エルフのお嬢様だけじゃ満足できないらしいわよ?」
不満を漏らすネーテを面白がってからかうニア。
「なっ?! し、仕方ありませんわね。ホークス様はオモテになりますもの……ではわたくしが第一婦人、ウララさんが第二でエマさんは第三。あなたは第四と言う事で手を打って差し上げますわ」
一人で納得するネーテに対し、ウララとエマが待ったをかける。
「だからいつから私がホークスに入れ込んだって言うのよ!」
「わ、私も同感です! ニアが第二で良いでしょう」
「あら、ありがと。後から格上げして欲しいって言って来ても遅いわよ?」
「「言いません!」」
彼女らのやり取りを乾いた笑いで見ていたマルネ。
「良いんですかホークス?」
「もう好きにしてくれ……学校に連れてきた時点でややこしくなるとは思ってたし」
「それはそうと、試験勉強全然出来てないのはちょっと心配ですよね」
「そうなんだよ……この前知識の精霊には触れたけど、文字以外はあんまり覚えられなかったし。なあマルネ、俺に勉強教えてくれないか?」
「う~ん、僕もそうしたいのは山々なのですが特急魔法の授業が思いのほか大変で」
「だよなあ。かと言ってこいつらもそこまで頭いいわけじゃないし……」
悩む二人だったが、マルネが何やら思いつく。
「そうだ、ネブロさんに頼んでみるって言うのはどうでしょう?」
「たしかに! あれでも特待生だったんだもんな。帰ったらダメ元で頼んでみるか」
「お忙しいかもしれませんが、面倒見は良い方なので」
「だな! マルネ、ありがとな」
「いえいえ」
ホークスの勉強の算段を立てている間も、ずっと三人の女性陣はあーだこーだ序列の話をしていた――。
夕方、宿舎に戻ったホークスは早速ネブロに状況を話して相談してみることにした。
「なるほどそういう事か。良いだろう、教えてやるよ」
と、二つ返事で了解を得られる。
「ありがとうございます!」
これでちゃんと勉強出来れば試験も何とかなりそうだと安心したホークス。
「良かったね、ホークス」
「ですわね!」
だが右腕にニア、左腕にネーテががっしりと抱き着いて離さない状況なのを除いて……ネーテにはニアという明確なライバルが出現してしまった事でこれまで以上に執着するようになってしまっていた。学校から帰る間ずっとこの調子で、ホークスは今の状況をいつレクトに見られるんじゃないかと内心ビクビクしながら帰宅した次第でもある。
見かねたネブロが左右の二人に声をかけた。
「お前らは邪魔だから離れろ」
「ニアが離れればわたくしも離れますわ」
「私もネーテが離れれば離れる」
「そのままじゃホークスが書き物はおろか、勉強に集中できないだろうが。お前らホークスを落第させたいのか?」
「そ、そういうつもりじゃありませんけど……」
そういうネーテも頭では分かってはいるが、先に手を離せばこちらが何かに負けた気がして出来なかった。ウララが疎ましそうに見ながらつぶやく。
「こんな元ニートのどこが良いんだか」
「ほっとけ」
そして、にっちもさっちも行かない状況に業を煮やしたネブロが、ニアとネーテの顔を掴むと無理矢理二人を引きはがして軽々とぶん投げた。悲鳴を上げる暇もなく床に尻もちをつかされる。
「きゃっ。痛いですわネブロさん」
「ったく。ニアは王妃様からの手紙によると途中編入になるから今回の試験は免除されるらしいが、ネーテも試験勉強はしておいた方が良いんじゃないのか?」
「そうですけど……」
「さて、それじゃあ私はニアを部屋に案内したり夕食の準備したりで忙しいからな。
ホークスは夕食の後部屋で勉強見てやるから、準備して待ってろ」
「りょ、了解っす」
夕食は夕食で誰がどこの席に座るか揉めたりで色々と大変だったが、とりあえず試験勉強の時間は確保することができた。ネブロは約束通りホークスの部屋に訪れていた。
「良いかホークス、もう試験まで時間が無い。明日と明後日の休みはぶっ続けで勉強するからな」
「お、押忍!」
「更に試験期間は四日間続くので、その間も学校から帰ってきたら翌日の対策を行う。一夜漬けという最悪の状況こそ免れそうだが、今からやったとしても所詮は付け焼刃。そこは理解しておけ」
「押忍!」
「良い返事だ。じゃあ、まずは魔法基礎学の復讐から行うとしよう――」
こうして無事試験勉強が始められたホークスは久々の集中した勉強を行う事ができた。
――やがて夜も更け数時間ほど経った時、部屋の扉の前で聞き耳を立てていたネーテは背後から忍び寄る足音に気が付いた。
「ニアさん?!」
「しーっ。大きな声上げたら気付かれちゃうでしょ」
「ど、どうしてニアさんがここへ?」
「ネブロの帰りが遅かったからちょっと様子見に。部屋にいても暇だったからね。あなたこそどうして?」
「決まっていますわ。ネブロさんと言えども所詮は女。男と女が一つ屋根の下、密室に何時間もいれば何も起こらないわけもなく……」
「なるほど、目的は同じだったってわけね」
そう言うと二人して扉に耳をくっつけて中の様子を伺う事にした。すると声が聞こえてくる。
「――ね、ネブロさん……もう休ませて……」
「何言ってるんだホークス。若いのに情けない」
「こっちは連日のイベント続きで疲れてるっての」
「誘ってきたのはお前の方だろ? ほら、この私が付き合ってやってるんだから。その手に握った物をしっかり立たせろ」
「はい……」
ネーテとニアが顔を見合わせて互いに頷く。
「間違いありませんわ」
「そのようね」
するとそこへ眠い目をこすりながらウララがやってくる。
「ちょっとネーテ、いつまでも帰って来ないと思ったらやっぱりこんな所に」
「ウララさんまで?! やっぱりウララさんもホークス様の――」
「だからちがうー。私はあなたのお兄さんからお目付け役で来てるんだから。
何かあってからじゃ遅いからこうして迎えに来たのよ」
「わ、わたくしなら大丈夫ですわ。そそそ、それよりも今、中でいかがわしいことが行われている真っ最中ですのよ?!」
「え゛、本当に?」
ちょっと興味を持ちつつも疑うウララだったが、ニアも頷く。
「間違いないわ。私も確認したもの」
「……」
そして改めて三人が耳をひそめる。
「――ったく、あーあ。こんなに出しやがって……めっちゃこぼれてるじゃねえか」
「だってネブロさんが急かすから」
「しょうがねえなあ。今日はあと五回やったら解放してやるよ」
「そ、そんなにぃ?!」
「男だろうが。よし、じゃあ上手く行ったらご褒美をやろう」
「?! が、頑張ります!」
「頑張らないでくださいましー!!」
我慢ならなかったネーテが扉をこじ開け、無理矢理中に入ってきた。
「ね、ネーテ?! それにウララにニアまで……」
「どうしたんだお前ら?」
突然の来訪者にキョトンとするホークスとネブロ。
「……あれ? あれれ?」
当然のように勉強机に向かっている二人を見て、ネーテは頭の中の整理が追い付かない。
「ど、どうなってますの?」
「どうやら私たちの勘違いだったみたいね」
拍子抜けしたようにニアが肩をすくめる。
「勘違いって、何を勘違いしたんだ?」
状況が理解できず、ホークスも首をかしげる。
「やれやれ、こんな事だろうとは思ったわよ」
ウララも何かをちょっと期待していたのか残念そうにぼやく。
「だだだ、だって「その手に握ったモノをしっかり勃たせろ」とか――」
顔を赤らめながら言うネーテの言葉に、ペンを持った手を見せるホークス。
「ああ、さっき寝落ちしそうになってペンを倒したから、そんな事も言われた気がするけど」
「ネブロさんが急かしてこぼれる程出したとか、まだまだ五回も「ヤる」とか!」
今度はネブロが参考書を持って聞く。
「寝ぼけてこいつがインクの瓶の中身を机の上にぶちまけたから床にまで零したり、この過去問の部分をあと五回やろうかとは言ったが……」
「!!」
ネーテは自分の勘違いに気が付き、赤い顔を更に赤らめる。
「わ、わたくしったら何てはしたない事を?! ち……ちちち、違いますわ! 違いますわー!!」
そう言うと両手で顔を覆い、脱兎のごとく部屋を出て行った。
「あ、ちょっとネーテ! 階段危ないわよー!」
ウララも彼女を追うべく走り出す。
「やれやれ、それじゃ私も帰るわね」
あくびをしながらニアも出ていく。
残された二人が目をぱちくりとしながら顔を見合わせる。
「な、なんだったんでしょう?」
「さあな……」
等々、多少のすれ違いやアクシデントはあったが、ホークスは無事に試験に挑むことが出来る程度には勉強をする事ができた――。
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