第14話 ニート、色香に負け労働を始める
「なあ、金が無いんだけど」
ホークスはある日の朝、食堂で会ったウララに対し開口一番に言った。しかし言われた当の本人は彼が言った内容が良く分からない。
「……ん?」
「だからお金くれない?」
そう言われても意味がまったく分からない。
「……は?」
「今日のランチ代も無いんだよ」
「……」
「ほら、最初に服をくれた時にさ、一緒に貰った財布にちょっと入れてくれてたじゃん。とりあえずあのくらいで良いからさ」
聞けば聞くほど頭が痛くなるウララは、ホークスにちょっと待ってと言わんばかりに手のひらを向ける。
「……あのー、ホークスさん……」
「何だ?」
「バイトでもやるって考えは無いのかしら?」
「え、何で?」
「何でって……あれ? あれれ? 私がおかしいのかな?」
「そりゃそうだろ」
「そりゃそうだろ?!」
「だって良く考えて欲しい。俺はお前に頼まれて大魔王討伐してる身なんだぞ?」
「いやいやいやいやいや。
いきなり知らない土地で、最初から路銀ゼロってのも心もとないと思って私にスパチャしてくれた分を換金して渡したの。
けど、食べるお金くらい自分で何とかしなさいよ。もういい歳なんだから」
「は? ニートなめんな。そんな気力あるなら最初っから誰が引きこもりなんてするか!」
「えー、逆切れですか……」
と、辟易としてきた所へマルネたちも食堂に降りてきた。
「おはようございます、ホークスにウララさん。って、何だか雰囲気が変ですがどうしたんですか?」
「聞いてくれよマルネ。金が無いのにウララがくれないんだよ」
「……ん?」
流石の天才少年のマルネも頭の中でロジックが上手く組みあがらない。
「えっと、その……ウララさんにお金を貸したり、何か立て替えたりしたんですか?」
「いいや?」
「えっと……どういう事なんです?」
「だからだな、俺は金が欲しい。でも、ウララがくれない。オーケー?」
マルネが返答するよりも早くウララが返す。
「何もオーケーじゃないわよ!」
ここまでの話を聞いていたエマもやはり意味が分からなかった。
「す、すみません。私も理解が追い付いていないのですが、つまり、ホークスさんはウララさんからお金を受け取りたい、という事なんですよね?」
「そうだよ?」
「なぜ、お金を受け取りたいと思ったのですか?」
「お金が無いからだよ?」
「……すみません……やはりちょっと良く分からないのですが……」
するとネーテが突然手を叩いた。
「わかりましたわ! つまり、ホークス様はウララさんのヒモということなのですわね!」
飛躍しすぎたネーテの思考に、今度はホークスが戸惑う。
「え゛……いや、そうじゃなくて――」
正そうとするホークスだったが、ネーテはそんなことよりもウララに詰め寄る。
「ウララさん! ホークス様には今どのくらいのお金をお渡しになっているのでしょう?!
というか、その権利をわたくしにいただけないでしょうか?!
わたくしが責任をもってホークス様を立派なヒモにしてみせますから!
ホークス様、今売買契約を――痛っ!」
と、ネーテの頭を背後からスリッパで叩く者がいた。
「お前らなあ、朝っぱらからどんな話してやがる」
「あ、ネブロさん良いところに!」
ウララを始めとして、マルネとエマが、ようやく話の通じそうな人が来てくれたと安堵する。
「ホークス、お前さんギルドに登録はしてないのか?」
「え、ギルドなんて有るんですか? でも登録した所でそれが何か?」
「ギルドの存在も知らないのか……今までどんな生活送ってきたんだお前は。
それはそうと、仮にギルドに入ってれば先日の魔族襲撃の際にそこそこ討伐してたんだろ?
一体につき千ヴァルートは最低保証されるはずだが」
「マジですか?!」
目の色が変わったホークスは、ウララにそっと耳打ちする。
「お、おい。千ヴァルートってどのくらいの価値なんだ?」
「十万円弱ってところかなあ」
「なに……?! た、確か230体近く倒したってことだからえーっと……に、にせんまんえん近く……」
指折り数えていたホークスは、思いもよらぬ大金に手が震えてくる。しかしネブロは言った――
「何の計算をしてるのか知らんが、ギルドに登録してない奴がどれだけ倒してもタダ働きだぞ?」
「……は? で、でも待てよ。そう言えばエマって千体近く倒してたんだよな? てことは、もしかして滅茶苦茶金持ちなのか?!」
話を振られたエマだったが、呆れたような顔で答える。
「私ですか? 私も登録していませんよ」
「なんで?!」
「私の剣はお金儲けの為にあるのではありません。全ては己を磨く為、今は修行中の身ですから。
そこに金銭が発生しては剣が曇ってしまいますので」
「バカなの?! アホなの?! 大金持ちになれたのに!
てか、エマだって食べて行くのにお金はいるだろ? どうしてるんだよ」
「学園に通うために、小さい頃からお小遣いを貯金していましたから」
やれやれといった感じでウララが言う。
「つまり、あんたとは根本的に違うってことよ。見習っておきなさい」
「……そういうお前はどうなんだよ」
「私は組織から給料出てるもの」
「マルネは?」
「ぼ、僕は魔法道具なんかの特許を少し持っていますので、日常生活が困らない程度には何とか」
「天才ってすげえな……」
一連のやり取りに呆れたネブロが。
「お前なあ……とりあえずギルドに登録でもしてきたらどうだ?
まあ、当分魔族は現れないだろうけど」
「俺は今日の昼飯代が無いんです……そうだ! ネブロさん、お小遣いください!」
「何で私がお前に小遣いやらなきゃならん」
「あ! でしたらわたくしが――ふがっ」
間髪入れずホークスにお小遣いを渡そうとするネーテの顔をネブロは片手で掴んで黙らせる。
「ネーテ、いい加減こいつを甘やかすのはやめろ。
どうだホークス、アルバイトで良いなら相談に乗ってやるぞ?」
「……俺に働けと?」
「労働をして対価を得ろと言っているんだ。何も間違ってはいまい。今日のランチ代くらいなら貸しにしてやる。それともずっと文無しで暮らすつもりか?」
「ぐっ……ち、ちなみにどんなアルバイトなんですか?」
「ああ、私の学生時代からの知り合いが商店街で魔法薬の店を出している。その為の薬草とかの材料の調達が大変なんだと日々ぼやいていてな」
ウララが納得する。
「なるほど、調達に行けば店が開けられず、店を開ければ調達に行けず」
少し考えてホークスも。
「薬草採取の納品か……そのくらいなら、まあ軽めのクエストだよな」
「よし、場所をメモしてやるからちょっと待ってろ。私からの紹介だって言えば大丈夫なはずだ」
「はあ」
そしてメモを受け取ったホークスは一人、食堂を出て宿舎を後にする。その背中を見送りながら、一同は心配だった。ウララがポロっと漏らす。
「大丈夫かしら、あいつ一人で」
「ま、まあ、薬草を取ってくるだけですもの。ホークス様でしたら楽勝ですわ!」
ネーテが自分に言い聞かせるように言っている傍で、エマがネブロの微妙な表情の変化に気が付く。
「ネブロさん? 少し顔が引きつっている気がするのですが……」
「だ、大丈夫だ。悪い奴じゃないんだ」
「……それは、ホークスさんが、ですか? それとも……」
「……」
だが、ネブロがその問いに答える事は無かった……
数十分後、ホークスは魔法薬の店「フレフロ」の前に来ていた。場所は路地裏に入った昼でも薄暗い行き止まり。薬屋と聞いていたので清潔感溢れる医療的、もしくは薬局そのものを想像していたのだが、どちらかと言うとボロボロで実験施設のようなゴチャゴチャした外観だった。至る所から生えたパイプを模した煙突からは煙が立ち上り、出窓からはいくつもの試験官やビーカーらしきものが管に繋がれ、怪しげな液体がゴポゴポと泡立っているのが見える。看板は小さくて簡素な板一枚に殴り書きされただけの物。鼻の奥をくすぐる匂いが建付けの悪そうなドアの隙間から漏れ出ており、周囲に充満している。
「よし、帰るか」
内心の不安をかき消そうと笑顔でそう言うと、ホークスは元来た道を引き返すべく振り返った。まさにその瞬間。
「ドカーン!!!」と大きな音がし、同時にドアが飛んできて押し倒されるようにして吹き飛んだ。
店の中からは濛々と煙が立ち上り、しばらくすると煙をかき分けながら「けほけほ」と咳をして、瓶底眼鏡を掛けたボサボサ髪で床まで引きずるローブを着た女性が現れる。
「う~ん、また失敗してしまっわ……何が問題だったというの?
……仕方ないわね。万物よ、己が在るべき姿を思い出せ。
と、修復呪文を唱えると見る見る内に建物は直っていく。もっとも、何度も修復呪文を掛けたからなのか完全には修復を行えておらずボロボロなのに変わりはない。
「やれやれ、もう一度やり直し――ん?」
その時、踏み出そうとした足が何者かに掴まれたのが分かる。彼女の足元から消え入りそうな声で頭から血を流すホークスが声をかけた。
「な、なに……しや、がる……」
「ひ、ひぃぃぃっ!
した、死体が喋ってるぅぅぅ!!!???
来るな来るな来るな来るなぁぁぁぁ!!!!」
言いながら、ホークスの顔面を掴まれていない方の足で思いっきり何度も踏みつけるのだった……
「こ、ここは……」
ホークスが目を覚ますと、そこは薬屋の中だった。所狭しと何かの液体が入った瓶や薬草らしき草花が並べられているのを見て察する。
「おお! 目が覚めたのね。良かったわ」
「えっと……何で俺、こんな所で寝てたんだ……?」
曖昧な記憶を抱えながら、何とか身を起こす。どうやら女性の膝の上に頭を乗せて眠っていたようだが意識が若干まだ朦朧としている。
「お姉さんは……?」
「わ、私? 私はここの薬屋フレフロの店主をやってるミル・ブラクミ。
あなた、記憶が?」
「ええ……確か店先まで来て帰ろうとした所までは覚えているんですが……」
ミルは彼に仕出かしてしまった事の記憶が無いのを良いことに、隠ぺいすることを思いつく。
「そ、そうね! きゅ、急に店先で倒れてたみたいでびっくりしたわ!」
「……そう言えば、何か爆発音が聞こえたと思ったら後ろから固いものが飛んできて……」
「うんうん、それでケガして気を失っちゃったみたいね。いったいどこの誰かしら? 危ない事する人もいたものよねー。幸い治療薬を持っていたこの私が治療してあげたわ! 感謝してね!」
「ありがとうございます……助かりました?」
とりあえず礼を言ってしまうホークスだったが、どこか釈然としない。
「まったく、うちが薬屋で良かったわね。あなた、頭から血を流してたのよ?」
「マジですか?! 危なかったんだな……」
「……」
かなり良心が痛んだが、ミルはこの秘密は墓まで持って行くと心に決めた。
「と、ところであなた、うちに用事があったの?」
「え? ……あ、そうだ。ここで薬草採取? のアルバイトが出来るってネブロさんに言われて来たんだ」
「?!?!」
ミルはネブロの名前を聞いた瞬間、蛇に睨まれたカエルのように固まってしまい、全身から汗がどっと溢れる。ホークスが心配そうに見つめていた。
「あれ? えっと……ミル、さん?」
「だ、大丈夫よ。そそそ、そう。ネブロが、そうなのなのね」
しまいには震えだし、どう見ても一目瞭然で様子がおかしい。
「全然大丈夫そうじゃないですけど……ネブロさんが言うに、学生からのお知り合いだそうで。でも、ひょっとして苦手だったとか?」
「けけけ、決して苦手なんかじゃないわ! どんなに頑張っても実技は勿論座学でも敵わなかったとか、私はちょーっとドジな所が多い性格だけど、その度にいつも心配してくれて肩身が狭かったとか、不良たちに目を付けられてて毎回助けてくれるのは良いけどその不良たちより何倍も彼女の方が怖かったとか――そんな事無いんだから!」
「そんな事だらけだったんですね……」
「……」
一通り言ったら少し落ち着いたのか、大人しくなる。
「……で、あなた名前は?」
「ホークス・フォウ・ベリンバーです」
「ホークス……変な名前ね、まあ良いわ。
改めまして、私はミル。それで、ここでアルバイトをしたいって?」
「あ、いや、その……」
正直やっぱり帰ろうとしたその矢先だった。
ミルはガバッと勢いよく両手でホークスの手を握ると、眼鏡を光らせて笑顔になって迫る。
「え?! あの、み、ミルさん?!」
手を見るつもりで視線を落とすと、意図せずミルの胸の谷間が見えてしまいドキドキしてしまうホークス。更に長いローブがはだけ、太ももが少し露わになる。さっきまでアレを枕にしていたのかと思うと、自然と唾を飲み込まざるを得なかった。だが当の彼女はそんな事は気にしている素振りなど微塵もない。
「ほ、本当に採取のアルバイト志望なんですね?!」
色香に惑わされたホークスに迷いなど存在しない。
「はい! お任せください!!」
態勢を整えた二人は、向かい合うように椅子に座り直していた。
「いやあ、助かったわ。これでも王宮に薬を卸してるから報酬はそれなりに払えると思うんだけど、あなたが着てる制服って……」
「ええ。この前ステイロ王立大学園に入学したばかりで」
「なるほど。なら薬草採取はそれほど危険も無いし打ってつけだと思う。薬草学の知識も身について一石二鳥よ。
一応歩合制になると思うんだけど、どのくらい欲しいの?」
「どのくらい……そうだなあ。とりあえず飯代と、たまに市場とかで買い物するくらいは貰えるんですか?」
「なんだ、そんな程度で良いの?」
「え?! じゃ、じゃあ超過した分はミルさんの体で――」
と、ホークスが調子に乗り始めた瞬間だった。ミルの口元こそ笑っているがメガネの奥の目は怒っているのが手に取るように分かる。
「私、さっきも言った通りドジな所があるので、極強酸性の薬品が入った瓶を誤ってぶち撒けても気にしないでくださいね?」
「すみませんでした、忘れてください」
即答だった。
「ふぅ、冗談はさておき。この前の魔族襲来でストックしていた薬は勿論、材料も底を付いてしまったの。だから大至急薬草とか採ってきて欲しいんだけど」
「どのくらい?」
「そうね、多いに越したことは無いんだけど、近場のマランダグオの森は戦闘で滅茶苦茶になっちゃったからちょっと遠くまで行かないといけなくて」
「な、なるほどー」
ホークスは自分が滅茶苦茶にした張本人だと言うのはやめておこうと思った。
「ただ、そうなると魔獣が出やすい谷まで行かないといけないの。あなた、戦闘経験は? 私は他にも薬の調合で忙しいからここを離れるわけにもいかないし」
「い、一応、この間の魔族の襲撃の時、多少戦って生き残るくらいはできたので魔獣くらいなら何とかなるかも?」
「凄いじゃない! へー、人は見かけによらないものね。そうだ、この強壮剤を持って行きなさい。一時的にだけど魔力を高めてくれるわ」
ミルは近場の棚から小瓶を三本程手に取るとホークスに手渡した。
「おおー! バフアイテム、キタコレ」
「バフ……?」
「あ、こっちの話です」
「そう。それと谷までちょっと距離があるけど、飛行魔術は使えるの?」
「いえ。まだ学校では習ってなくて」
「入ったばかりなら仕方ないか……良いわ、簡単だから後で教えてあげる」
「そ、空が飛べるんですか?」
「ええ。でも、くれぐれも悪用は厳禁ですからね?」
「勿論です」
「よろしい。じゃ、ちょっとリストとかごを用意するから待っててね」
約一時間後、ホークスは教わった飛行魔術を使用し言われた谷にやって来ていた。
「ほ、本当に飛べた……てか、めっちゃ疲れた……
一言に飛行魔術って言ってたけど、自分を浮かせつつ姿勢制御と速度制御して、尚且つ上空の冷気や日差しから身を守る防護呪文も発動させるとかかなり高度なんじゃねえのかこれ……どこが簡単なんだよ……ミルさん、か。あのネブロさんが目をかけてたみたいだし、かなり優秀な人なんだろうな。
さてと、そんじゃあ魔獣とか出る前にちゃちゃっと薬草採取して納品しますか」
などと、独り言を喋りながら薬草を採取し、持ってきたかご一杯になった頃。
「草ばっかりだけどこれだけ集まると重いもんだな……もし今魔獣と鉢合わせしようもんなら、ちょっとヤバいかも? でも戦闘する事になるならギルドに登録してから来てもよかった――ん?」
ふと岩陰を見ると、野兎程の大きさのモフモフした白い何かが蹲っているのを発見する。よく見るとケガをしたのか尾の付け根の部分から出血をしていた。
「こりゃ酷いな……この世界の小動物か?
えっと、確かネーテが……癒しの
と、回復呪文を真似して唱えてみるが何も起こらない。
「やっぱ俺じゃ使えないのか。うーん、仕方ない、連れて帰るか――」
こうしてケガをした小動物をそっと抱き上げてかごに入れたその時だった。背後に「ズシャ!」と重い何かが着地した音と共に衝撃波が飛んでくる。恐る恐る振り返ると、トンボのような羽をいくつも生やしたムカデが唸り声を上げながらこちらを伺っているのが目に入った。大きさこそスタンピア・ドラコの半分以下しか無いが、特筆すべきは「単体」ではなく「群れ」だったという事である。
「ひょっとして、お前らの獲物だったりした……? てか、これはさすがにヤバいのかな?」
その数ざっと百体前後が周囲を取り囲むのにそう時間はかからなかった。ホークスはムカデ達から目を離すことなく強壮剤の瓶のふたを引き抜くと、一気に三本まとめて飲み干した。
「ミルさん、遠慮なく使わせて貰うぜ」
そして刺激しないよう静かに杖を構え、ありったけの力を込めて――。
「
まばゆい光で全身を包み込む。敵が目を瞑り、顔をそむけたその瞬間を逃さない。
「からの!
飛行魔術を唱えると、「ドン!」と上空に向かって超高速で飛び上がった。そして瞬く間に垂直に飛び上がると、折れ曲がるように90度角度を変えて地面に対し水平に飛び出す。
「どうだ! ミルさんお手製のブースト効果だ。さすがに着いてこれないだろ?!」
ホークスが必死に逃げ出していたその頃。ミルも忙しそうに薬の調合を行っていた。が、ふと手に取った液体が入った小瓶に違和感を覚える。
「あれ? 何で強壮剤がここに……というか、ホークス君に渡したのって……あれー?」
ホークス君に渡した小瓶、それは調合前のただの果物の粉末を溶かしただけのジュースだった――。
「な、何て速さなんだよこいつらー!!!!」
巨大な空飛ぶムカデの群れに追われまくるホークス。空の上ではかつてないドッグファイトが繰り広げられていた。
「くそっ、このまま王都に戻って迎撃して貰うか? いやダメだ、流れ弾が俺にも当たりかねないしそうなったら薬草もパーだしこの子もただじゃ済まねえじゃねえかチクショー!」
そうこう言ってる間にも今にも食われそうな距離で突撃されては避けるのに精一杯というのを繰り返す。
「こうなったら……
意を決したホークスは戦闘を開始する。元より密集して飛んでいたおかげで数体まとめて倒す事が出来た。だがそもそもの巨体にそこまで致命傷を与えられる訳はなくまだまだ敵の数が多い。
「ちょっと無茶な飛び方するけど、我慢してくれよな!」
カク! カク! と変則的に軌道を変えて意表を付いて飛ぶと一番上まで高く上がった所で――。
「全力の!
全身に灼熱を纏うようにして一気に地表目掛けて落下する。そして三分の一近くを減らす事に成功。燃え落ちてくるムカデの破片を尻目に。
「バフ効果もあって、虫相手なら炎系がやっぱ効きやすいか。このまま薬の効果が切れる前に決着を着けさせて貰うぞ!」
そしてホークスは言うと、また勢いよく飛び立って行く――。
無事帰宅したホークスだったが、戦闘のおかげで学生服はボロボロになってしまっていた。出迎えたミルが慌てて修復呪文でそれを直す。
「なるほど、そいつらはリべイロ・ペンドロね。この子を狙っていたのか……何はともあれ、無事で良かったわ。まさかそんな危険な場所になっていたとはね」
すまなそうに言いながら例の小動物に軟膏を塗って治療し始める。
「でもこうして、採ってきてくれた薬草のおかげで薬を作ることも出来た。ありがとう」
「ほんと、こんなことになるとは思わなかったぜ」
「この子のせいなのか、それとも魔族の進行によって住処でも追われた影響なのか。詳しいことは調べてみないと何とも言えないけど。ほら、これで良しっと」
軟膏は見る見る傷跡に浸透して癒し、白い小動物はゆっくりと顔を上げて二人を交互に見た。
「で、こいつって何なんだ? あの化け物どもがこんな小さな奴食べて腹を満たそうとしてたとも思えないんだけど」
「そうねえ、見たところドラコの幼体みたいだけど、詳しい種類は私も分からないわ。学校に行って幻獣学の教授にでも聞いてみたら? ほら、あなたに懐いてるみたいだし。ひょっとしたら使い魔に出来るかも。ドラコの使い魔なんてそうそういないわよ」
ミルの言葉通り、ドラコ、ドラゴンの幼体と言われたそれはホークスの手に頭をこすり付けるとじっと顔を見上げてきた。
「……お前、俺と一緒に来るか?」
「キュイ!」
元気よく鳴くと、いっきに腕を駆け上り頭の上に乗る。
「ふふっ。その子もそれが良いって言ってるみたい。どう、名前でも付けてみる?」
「それなら実はもう考えてたんだ。お前は白き神焔、名前はシロでどうだ?」
「キュイキュイ―!」
「ふーん、変な名前だけど、どうやら気に入ったみたいね。よろしくね、シロ!」
「キュイ―!」
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