第10話 恋路を賭けた(?)防衛線

「げっ、生徒会長が何でこんな所に?!」

 驚くホークス達の前に現れた生徒会コンビ。

「何でって、二人の男が女の子を取り合って勝負するだなんて。

 こんなカビの生えたような王道かつ面白そうな事……ゲフンゴフン……

 じゃなくて、我がステイロ王立大学園の生徒たる者、一度受けた申し出を断る道理はありません」

「その通りですよ、会長!」

 とことんアマスは生徒会長のミリアを持ち上げて甘やかす。それはこの非常時でも変わらなかった。

「ふふん。それに相手は曲がりなりにも魔族です。

 本来は行くのを止めるべきなのでしょうけど、男の子というのはこういう注意って聞かないのでしょう?

 生徒会長、という事で世間ではお堅いイメージを持っている人も多いかもしれませんが、意外と私は融通が利くのです。ですので男同士の勝負、邪魔が入らないよう全力で応援ますよ!」

「素敵です!」

 と、勝手に盛り上がっているミリアとアマスとは正反対に冷め切っているホークス。

「あ、いえ俺は別に。すぐにでもシェルターに避難したいと言うかランチ食べたいなって――」

 だが同調する人間が一人いた。

「おお! さすが分かっているな、生徒会長!」

「……このバカ王子……」

 そう、このバカ王子フォルターである。

「何か言ったか?」

「いや何も?」

 と、ミリアが指示を出す。

「アマス、例の物を」

「はい会長。どうぞこちらを」

 そう言ってどこからともなく取り出した鞄を開くと、二つのてんとう虫の様な物体が飛び出してくる。

「うわっ、な、なんだこれ?」

 驚いたホークスの問いに誰よりも早くマルネが興奮気味に答えた。

「最新の軍事偵察用魔道具、闇夜の監視者マルーノ・ク・ザーヴァントですよ!

 僕、実物って初めて見ました!」

「へえ、良く知ってますねー。

 本来は敵陣なんかに飛ばして様子を伺うのに使う物なんだけど、今回はあなた達の戦績を確認するのに使用させて貰いましょう」

 そして手を伸ばすと、またもやアマスが鞄から前の見えない兜のような物を取り出す。

 これをスッポリと被るミリアだが、少し大きいようで水平にかぶれる様に一生懸命調整してみる。

「よっと……あれ? ちょっとズレちゃうかなあ……」

「やだあ、兜ズレてるー。ちっちゃい会長、超ラブリー!」

「ち、ちっちゃいって言うなー!」

 しかしただただアマスはからかっているだけではなく、ちゃんと自分が兜を押さえて水平にして支えてあげた。

「はいはい。ほら、これでどうです?」

「おお! ばっちりよアマス!」

 よく分からないネーテが尋ねる。

「あの、それでは前が見えないのでは?」

「そんなこと無いわ。この兜の裏側に魔道具の見た様子が投影されているの!」

「まあ!」

 どこかで聞いたことのある仕組みにホークスは手を叩いた。

「(ああ、なるほど! VRのドローンって事か)」

 ミリアが兜の側面を少し触ると、闇夜の監視者マルーノ・ク・ザーヴァントはそれぞれホークスとフォルターを自動的にターゲットするようになった。だが、マルネには疑問に思う事があった。

「けど、こんな物がなぜ学校に? 授業で使うにしてもオーバースペックなのでは……」

 その指摘にミリアが肩をビクッと震わせた。

「さ、さささささ最新の魔道具に触れる事は、きょ、教育上必要なことにゃにょ!」

「あ、噛んだ」

 こういう隙をウララは見逃さない。ミリアは汗をかきながらも弁明を続けた。

「が、学園を卒業したら部隊の最前線に配属される子だって沢山いるんですからね!

 なら、今の内からこういうのに触れていた方が何かと重宝されるってもんでしょ!」

「確かに」

 納得するフォルターだったが、ホークスも何か引っかかった。

「具体的に何の授業でそれについて学べるんだ? 俺も後学の為に是非選択したい。

 ていうか、どうして生徒会がそんな貴重品を所持しているんだ?

 そもそもいくら学校とは言え軍事用って普通に手に入る代物なのだろうか――」

 矢継ぎ早に質問され、頭がショートし始めてしまうミリアはとうとう怒りだしてしまう。

「……う、うるさいわね! 今はどうだっていいでしょそんなこと!」

「いやでも――」

 尚も食い下がろうとしたホークスと慌てふためくミリアを見て、アマスは意地悪そうな笑みを浮かべて言った。

「生徒会のお小遣いで買ったんですよねー? おかげで今期はカツカツなんですよねー?」

「あ、アマス! あなた、裏切ったわね?!」

 思わず兜を脱いで抗議するミリア。

「あぁん! ちょっと涙目になってる会長ってば最高!」

 悶えるアマスだったが、下唇を突き出して本格的に泣きそうになるのをグッと堪えるミリアを前に、ちょっとやりすぎたかと平常心を取り戻す。

「実は会長のお父様は軍事系魔道具の開発機関のトップで、それを無理言って格安で譲ってもらったんです。本当はそれも違法なんですけどね? 親ばかってやつです。会長のこの可愛さの前には仕方ないですよね。ウフフ」

「……ま、まあ、偵察する程度の魔道具なら良いのか?」

 納得しかけるホークスだが、やっぱり違法で手に入れた物、という事は引っかかった。

 そんな様子を察してか、笑顔で釘を刺してくる。

「あ、ちなみにこれでも学校の備品なので、誤って攻撃当てて破壊しようものなら弁償して貰いますからそのつもりで」

「マジかよ、理不尽すぎる……」

 げんなりとするホークスだったが、フォルターは前髪をかき上げて余裕の表情だった。

「ふん、舐められたものだ。この俺様がそんなヘマをするわけがない。それともホークスは自信がないのか?」

「そういうわけじゃないけど……」

 アマスに涙を拭いてもらい、何とか機嫌の直ったミリアは再び兜を被って言った。

「ち、ちなみに。魔道具も大切ですがあなたたちの命の方が遥かに大切です。

 魔族はかなり強大な力も持っているので、危ないと感じた時は全力で逃げてください。

 最悪の場合、私とアマスも救援に向かいます」

 ホークスは腐っても生徒会長なんだな、と少し感心する。そしてフォルターも。

「ふっ、生徒会のお墨付きとは有り難い。

 撃退数を誤魔化されでもしたら事だからな」

「そんな事しねえよ。ていうか、アマスさんって生徒会長の付き人か何かなんですか?」

「私? 私はただの副生徒会長なだけで、見ての通り会長の補佐を担っているだけです」

「補佐ってレベルじゃない気がするけど……」

「けどそうですね、今回の活躍次第では私もあなた方のどちらかに惚れてしまうかも?」

「……え?」

 上目遣いでちょっとはにかんだ感じでこっそり言ってくるアマスに、ホークスは完全に勘違いしてその可能性を妄想してしまう。

 本人にそんな意思は全くないのに、思ってもいないことを平然と言ってのける。アマスはホークスが今回の勝負に乗り気ではなかったのを最初から分かっていた。だが自分の愛する会長が彼らの勝負を見たい、と言ったら何を犠牲にしてでもそれを見せる。これこそがミリアが信頼を寄せるアマスの補佐っぷりだった。

 完全に気を取り直したミリアが自慢げに話す。

「アマスは凄いんだよ? 一人で会計も書記もぜーんぶこなしちゃうんですから!

 さあさあ、そんな事は良いので魔族を倒して女の子をゲットしましょう!」

 ガッツポーズを繰り出すミリア。すると「あの、その事なんだけどちょっと待って――」と、ウララが何か言いたげにしていた。しかしどこかでスイッチの入ったホークス。

「何か趣旨が違って来てる気もするけど、ここで引っ込んだら男が廃るってもんだよな。よーし、こうなったらいっちょやってやりますか!」

「手加減はせん。貴様も全力でやれ」

「ああ、お前も逃げ出したりするなよ?」

「言ってくれる! おい、皆の者。ちゃんとシェルターに避難しておくのだぞ!」

「じゃあな、お前ら。会長、俺の雄姿しっかり確認しておけよな!」

 そう一方的に言うと二人は走り出して行ってしまった。一時的に兜を脱ぐミリア。

「よしアマス。彼らが現場に到着するまで私たちは非難する人たちの誘導をしに行くわよ!」

「はい、会長!

 皆さんも地下体育館に急いでください。そこで合流しましょう!」

 そう言い残して行ってしまう二人。

 いつ間に入ろうかと様子を伺っている間に取り残されたウララが叫ぶ。

「って、勝手に景品にされてる私の意志は?!

 ねえ、無視ですかー?! 無視なんですかこのやろー!!!」


 そして、いざ戦場に――。

 戦場に立ったホークスは内心怯えており、正気に戻っていた。いや、立ちはしたが現在全力疾走中。ほんの数日前まで平和ボケ大国の片隅の一室に閉じこもっていた、そんな人間にとって今の状況は常軌を逸していると言っても過言ではない。

「くっそー! 何が「いっちょやってやりますか」だ俺のバカー!」

 背後には数十体の魔族を引き連れてそれらから逃げ出そうと駆け回っている。しかし森の中がこれほど走り辛いとは知らなかった。ただでさえ体力は無いのにどんどん奪われていくのが分かる。

 ここは前線の兵士達が食い止められなかった勢力のやってくるエリアとなっていた。二足歩行の巨大な魚の戦士、魔法を唱えてくる三つ首の骸骨の魔導士、蝙蝠のような羽がはえた鳥、下半身が蜘蛛のムカデなど様々な魑魅魍魎が迫っている。

「よく考えてみたら、ちゃんとした魔法なんて習ってないし! 森の中で確かに薄暗いけど、霊光マイス・ティラーモ程度で何が出来るってんだよ!」

 そう言った瞬間光る杖。勿論唱えたつもりじゃないが杖が反応してしまったようである。

「って、呪文の名前言っただけで光るんかい! ……今の光りで何か更に追手が増えたような?」

 実際ホークスの不安は的中しており、ただただ自分の居場所を魔族に教えただけのようだった。

「まともな魔法って炎系の肉弾戦用仮魔法しか使ったことないから、こんな森の中で使おうもんならそれこそ大火事間違いなしだし……

 やっぱ、とどのつまり詰んでんじゃねえかー!!

 せめて違う属性の攻撃さえ使えればなあ……そう、例えば、氷……とか……」

 言っていて気が付く。ホークスは足を止め、辺りを見渡した。いつの間にか周囲を包囲されている。だが同時に何か突破口を掴んだ気もしていた。

「そうだよ、別に俺は炎属性ってわけじゃないし、そもそも仮魔法だって何となく出来たんだ。ならさあ――!」

 その場でそれっぽく杖を構える。

「頼むぜ相棒。お前と俺のコンビネーション、見せてやろうぜ!」

 大きく息を吸い込むと、詠唱っぽい事を口走りながら魔法を発動させた。

「我、凍てつく龍騎士と契りを結ぶ者なり。我、全てを切り落とせし汝の力を解放せん者なり!」

 杖が光を増すのを確認してから、体をその場で大きく回転さえながら言い放つ!

氷龍騎士円斬フロスト・ドラグーンソード!!」

 それはホークスを中心に放たれる、鋭利な回転のこぎりのような円形の氷の刃。触れた者を瞬時に凍らせ、同時に切り裂く巨大な刃。周囲の木々諸共魔族を一網打尽にしていく。


 避難所となっていた体育館の片隅。魔道具を通じて一連の行動を見ていたミリアが驚嘆する。

「アマス、アマス! 今の見た?!」

 そしてミリア同様の兜をアマスの他、ウララとネーテ、そしてもマルネも被っていた。

「ええ。最初は逃げ回っているだけかと思いましたが、まさか逆におびき寄せていたとは」

「そしてあの見たことも聞いたことも無い氷の魔法で一気にやっつけちゃった!」

「ホークス・フォウ・ベリンバー……一気に26体も稼いでしまいました。これまた凄いルーキーが入学してきた物です。あのバカ王子が決闘を申し込むだけはありますね」

「そうね、人を見る目だけはあるのかも。私たちが助けに入る余地は無さそうね」


 そんな噂をされているとは思いもよらず、一番驚いていたのは当の本人だった。

「……まじかよ、本当に出来た……こいつ《ドラゴニックカイザー》のおかげなのか?」

 しかし安心するのも束の間。まだ空を飛んでいる魔族は一体も倒せていないし、周囲を一掃したおかげで身を隠すこともできず敵から丸見えになっていた。何なら背が低くて氷の刃が当たらなかったり、上半身だけ斬られただけでは死ななかったムカデのような蜘蛛のような敵もまだ残っている。だが一度調子に乗ったホークスは止められない。

「やれやれ、敵から丸見えかもしれないけど、逆に俺からも丸見えってことなんだよな!」

 そして次なる魔法を思いつく。

「こういうのでどうよ? 唸れいかずち、我が意思に従いて敵を貫かん!

 雷光乱舞ライトニング・レーザー!!」

 高々と掲げた杖から放たれる無数の電撃。真っすぐ進むだけではなく、乱舞の名の通り途中で折れ曲がり目標に自動追尾して次々と餌食にし、消し炭となっていく。

「勝った……っ!?」

 油断したその時だった。足元に大きな影が広がり、頭上に気配を感じたその時にはもう遅い。身の丈と同じくらいの長さの爪を持つ道化師のような姿をした敵が、彼を切り刻もうと落下してくる。

「しまっ――」

 だが、彼の喉に爪の切っ先が触れたまさにその瞬間。

聖閃砲サンク・タル・カナーノ!!」

「?!」

 突如横から伸びてきた光の柱の中に消えていく道化師。

 そして魔法の主、フォルターが寄ってくる。

「フォルター……お前」

「まったく鈍臭い奴だ。怪我はないか?」

「あ、ああ」

「そうか。どうやらもうこの周囲に魔族はいないようだ」

 フォルターは周囲を見渡しながらため息をつく。

「にしても、この惨状はお前がやったのだな? 魔族との戦闘の犠牲とは言え、この辺り一帯は我がジュヴェーロ家の領土なのだ。あまり破壊してくれるな」

「ご、ごめん」

「何、気をつけてくれればそれで良い。

 ……ん? どうした、俺様の顔に何か付いているか?」

「どうして俺を助けてくれたんだ?」

「は? 変な事を聞く奴だな。

 確かに貴様とは勝負をしている最中ではあるが、あの学園に通う以上我が国の財産でもある。王子たる俺がそれを守るのは当然の事だろう?」

「……フォルター、お前……」

「何より勝負を持ちかけたのは俺様の方だ。こんな形で決着が付くのはルールとは違う」

 ホークスは少し自分が恥ずかしかった。この男、普段の態度こそアレだが根は民を思うちゃんとした王子なのだと確信した。

「さて、まだまだ前線では苦戦している兵士がいる。俺様は助けるついでに点数を稼ぎに行くが、貴様はどうする?」

「……行くさ!」

「それでこそ我がライバル。では行くぞ!」

「ああ! ……ライバルじゃないけどな」

「なにっ?!」


 四時間後、魔族は戦力の半分以上を失い状況が不利と悟って撤退。ホークスとフォルターもへとへとになりながら、兵士達や他の戦士、魔法使いらと共に王都に帰還した。

 盛大な歓迎をする民衆たちで溢れかえった街の入り口。そこの門を潜り、しばらく行った所で生徒会長、ミリアを戦闘とする一同と再会する。ネーテが一目散に駆け寄ってきた。


「ホークス様! ああ、こんなにお怪我を……今すぐ回復の魔法を。

 王子様もこちらへ」

「かたじけない、エルフの娘よ」

 そして治療を始めるネーテ。続いてミリアが声をかけた。

「二人ともよくやったわね。まずはお疲れ様でした」

「へへ、どうよ。伊達に入学式に遅刻したわけじゃないだろ?」

「そうね。結果確認された魔族の総数は約一万二千。その半数を打ち破れたんだから大金星よ」

 その数を聞かされてホークスは勿論、フォルターも驚く。

「そんなにいたのか?!」

「通りで、倒しても倒してもキリがないと思った……」

 と、アマスが前に出る。同時にホークスの欲望も前に出始める。

「あ、アマスさん……(やばいやばいやばい。ひょっとしてこれ、アマスさんのガチ惚れ来たんじゃね?! ひょっとしたらひょっとしちゃうんじゃね?!)」

「本当に想定以上でした。では、ここでお二人の結果発表といきましょう」

 二人とも同時にゴクリと鍔を飲み込む。

「結果、ホークスさんが232。王子は233となりました」

「……なん……だと? い、一体差?!」

 ホークスがウララの方を見るも、腕を横に広げて手のひらを上に向け首を振る。

 方や喜びで打ち震えだすフォルター。

「つつつつまり、お、オレ様……オレ様の――」

 と、その時だった。二人の背後から遅れてやってきたエマが声をかける。

「ふぅ、皆さんお疲れ様です。今回は流石に疲れました……

 お二人とも怪我などありませんでしたか?

 私も善戦したと思うのですが、お恥ずかしい」

 こんな状況でも謙遜をするエマ。そんな彼女に声をかけたのは意外な人物、アマス。

「善戦だなんてとんでもない。

 エマさん。あなたが今回一番の功労者ですよ」

「え?」

 戸惑うエマに対し、アマスは遠慮なく続ける。

「エマ・プルアンドロさんの討伐数、その数なんと文句なしの1049体! よって今回の勝負、エマさんの勝利とします!」

 エマは勿論、ホークスも面食らう。

「は?」

「オレ様の勝利――え、今何と?」

 いまいち理解できないでいる三人を前に、ミリアが改めて言う。

「えー、生徒会より申し上げます。

 今回の勝利者、エマ・プルアンドロ!

 そりゃそうでしょ。あなた達二人を合わせても倍近くの戦績を上げてるんです。

 よって、景品は彼女に贈呈されます!」

 今まで大人しくしていたと思ったウララが照れながら前に出てくる。

「エマ……だ、大事にしてね」

「……は? ウララ? え、景品?」

 何一つ状況が理解できないエマに寄りそうウララ。

「あの、ちょっと……どういうことですか?」

 カオスな状況を見守るしかないホークス。だが、ちょっと安心している自分もいて複雑な気持ちだった。

 そして一番納得のいっていない男、フォルター王子が嘆く。

「な、何故だ! そこの彼女は勝負に参加していないというか、俺様が申し込んだのはホークスのはずだ!」

「女々しいですよ王子様ー。

 個人同士としては四倍以上の差が出ている状況で何がどう勝利になるのか……ちょっと生徒会としては勿論、一人の女としても容認しかねますねー」

「な、何故だ―!!

 そ、そうだ。ウララさん、ウララさんはどうお考えなのか?!」

「あ、私ですかー? 私はほら、見ての通りもうエマの物なのでー」

 棒読みで言いながらエマと腕を組んで見せつける。誰がどう見ても演技のはずだが、フォルターの脳を破壊するには十分の絵面だった。

「うわぁぁぁぁぁぁん! 嘘だー! 頑張ったのにー!!!」

「あ、王子様まだ治療が――」

 そして泣きながら王子はどこかへと全力疾走して行ってしまう。治療途中で残されたネーテが声をかけようとするも、その頃には小さくなった背中が群衆の中へと消えて行った後だった。

「やれやれ、騒がしい一日だったぜ……」

 と、一息ついたホークスの前にミリアが立つ。

「どうした?」

「何、終わったみたいな雰囲気出してるんですか?」

「は?」

「ホークスさんは現在生徒会への丁稚奉公帰還なのです。

 よって、これより負傷した兵士や戦士たちの皆さんの手当及び炊き出しの準備のお手伝いをしていただきます」

「え……あの……俺も今日は頑張ったんだけど……」

 戦ってきた人間を更に使い潰すかの如く言い放たれた言葉に絶句してしまう。

「では行きましょうか。ウララさんとマルネさんも良いですね?」

 そっと場を去ろうとしていた名を呼ばれた二人が動きを止める。

「……はい」

「ま、任せてください」

「良い返事ですね!

では行きましょう。さあ、今日は忙しくなりそうです!」

 げんなりとしてホークスが呟く。

「……もう好きにしてくれ……」

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