3-13
「魔女……」
「そう。魔女リリス。それが、前世での私の名前よ」
ここでその名前が出てくるとは思わなかった。魔女の遺体は、二度とその魂が蘇らないように、教会の手により厳重に葬られた筈だからだ。
「ふふ。どうしてって顔をしているわね? 教会が信仰する白の神は、私達の祈りや願いは聞き届けてくれないのよ? ……白の神は、悪戯好きな小さな子供のような存在なの。 気まぐれに他の世界から魂を連れてきて、この世界に放り込んでは、国がグチャグチャになるのを見て愉しんでいるだけ。反対に、黒の神はいつも私達の幸いを願っていて、祈りを聞いてくれるのよ? けれど、その代価には……」
「……生贄が、必要」
「ええ。そのとおりよ? ……この身体に弾かれた本当の愛し子は、きっとスカーレットさんの事だと思うの。彼女の魂は、この世界の者ではない、変わった形をしていたから。ルルティアさん、貴女の魂も同じ様に、不思議な形をしているのよ? だから、貴女が別の世界の人間だってわかったの」
「シルビア、ちゃんが……」
この世界に連れて来られた者は、怨嗟に塗れた穢れた魂の持ち主だって、マリアは言っていた。なら、シルビアちゃんは、生前辛い目に遭ってきたのだろうか……? 何かを恨まざるを得ないぐらい、酷く苦しむ思いをしたから、白の神に目を付けられて、この世界に連れて来られてしまったという事……?
それじゃあ私は? 私は、どうしてこの世界で生まれ変わったのだろう? 生前、家族とうまくいかなかったけれど、それでも恨むだなんてしていないし、人を助けたせいで、結果死んでしまったのだって、相手が生きていてくれて良かったと思っただけで憎んではいない。
「……ごめんなさい。ルルティアさんが、どうしてこの世界に来たのかはわからないの。でも、何か意味はある筈だと思うわ?」
私が悩んでいるのを察したようで、マリアは元気づけるように言ってくれた。どうやら、気を使わせてしまったらしい。
「ううん。 ……でも、ここに来れて、良かったって、思っているよ? 私にも、友達が出来たし、家族は優しかったもの。それにね、最近、気づけたんだ。昔、大事だった人の事を、私、すごく好きだったんだって。 ……ずいぶん時間が掛かったけど、やっと、自覚出来たから」
「まあ! 貴女にも好きな人がいるのね? 私の大好きだった人は騎士だったから、もし今でも続けていたら、昔よりも、ずっと偉くなっていると思うの。 ……きっと、昔以上に私とは身分が違うのでしょうね」
恋する乙女のように頬を染めながら、楽しそうに語っていたマリアだったけれど、現状を思い出したからか、その語りは徐々に落ち込んでいった。
魔女だった時の彼女の姿と、今の姿は全く違う。気づいてもらえるかも難しいのに、それどころか相手は身分のある男性らしい。
私が知っている騎士の男性は、ウェル様のお付きをしていた人物しか知らない。今思えば、王子の護衛騎士であろう彼なら、身分も高いんじゃないだろうか。
魔女の恋人の騎士は、当時若くして叙任したという話だった筈だから、年齢としては合うけれど。
……まさか、ね。
「どうしたの? ……もしかして、怪我が痛む?」
考え過ぎて黙りこくってしまった。
急に喋らなくなった私に、具合が悪くなったと思ったのだろう。マリアが心配そうに話しかけてくれた。
「ううん、平気。なんでもないの。喋っていたら、少しだけ、楽になったから。 ……ねえ? マリア、さんは、その恋人だった人に会ったら、どうしたい?」
聞かれるとは思っていなかったのだろう。彼女は驚いた顔をしていた。それから目を伏せて、ポツリと小さく囁いた。
「私は……彼に、謝りたい。母の言う通りにしていたとはいえ、知らなかったでは済まないもの。その結果、彼を手酷く裏切ってしまったから。 ……もし、また彼に出会う事が出来たなら。それが出来たら私、もうこの世に未練は無いわ?」
「そっか……マリアさんなら、きっと会えるよ。だって、私の事を、助けに来てくれるぐらい、優しいんだもの。優しい人の元には、良い事が起こるんだよ? ……絶対に」
「ルルティアさん……ありがとう」
マリアは、一瞬泣きそうな顔をして、それから少し嬉しそうに笑った。瞳が潤んでいたような気がするけれど、見なかった事にしておかなくちゃ。
ふいに、遠くの方で騒ぎのような音が聞こえた。金属のぶつかり合う激しい音と、男性の言い合う声が聞こえたような気がする。
「……ホーエン先輩達が来てくれたみたい。ルルティアさん、もうすぐここから出られるからね?」
「うん……!」
私とマリアは顔を見合わせ頷きあった。
お互いを、励まし合うかのように。
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