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 ……そうだ。全ての元凶は、この祖父の存在だ。

 祖父のせいで、ルルティアは……ううん。”私”は、いずれ死ぬ。


 ……ならば、祖父を止める事が出来れば、私に待ち受ける死の運命から逃れる事が出来るのではないだろうか……?


 お父様に言えば……! いや、だめだ。

 お父様は、実の父である祖父の事を信頼している。

 それに現時点で、私は祖父に会った事などない。

 こんな幼児の戯言など、誰が信じてくれるというのだろうか。


 …………思考が暗くなってきた。一旦深呼吸して気持ちを落ち着けよう。なんせ前世の私は、とにかく明るいで評判だったのだから!


 ……まあ、なぜか怒られる事が多かったけれど。

 空気は読めている筈だ。今思い返してみてもちょっと腑に落ちない。


 ……うん。だいぶ気持ちが落ちついてきたようだ。


 これなら大丈夫。暗い思考のままだと、悪いモノを引き寄せてしまう。

 人生楽しく気楽に!

 世の中、明るく楽しく生きたもん勝ちだ。


 とにかく、こんな時は前世で読み漁ってきた知識が役に立つ筈だ。


 ……そう……!

 思い出せ、数々の物語の先輩達(悪役令嬢)を。

 国に留まり戦っていく彼女達の生き様を……!



 ……そうだ!

 だれか、信用のおける者に全てを話して協力を仰ぐ?


 ……いや、ダメだ。

 自分でいうのもなんだが、私には人望など存在しない。

 確実に頭のおかしい令嬢として吹聴されるに違いない。



 ……将来に備え、自分だけ脱出できるよう没落後の足元を整える?


 いやいや、家族見殺しやんけ!

 冷遇されているならいざ知らず、現状ものすごく好意的に接してくれているのだ。没落するのがわかっていて自分だけ助かるとか鬼畜すぎる。

 絶対良心の呵責に苛まれる。


 仮に一緒に連れて行ったとしても、前世で庶民をしていた私ならいざ知らず、貴族の彼等では苦しい生活になる筈だ。

 なんせ、ここでの仕事は肉体労働が多いと聞く。

 貴族の頃にしていた仕事とは180度違うものになるだろうし、訳ありの者がつける仕事は、誰もがやりたがらないような過酷な仕事しか残っていない。


 早朝から働き、仕事が終わるのは深夜を回る頃。賃金だって満足に出ない筈だ。


 それに、身体に染み付いた優雅な所作は無意識にでてしまうのだ。その異質さにすぐ気づかれるだろう。


 いくら領民の為を思い行動していても、中には完全に王や貴族を許していない者もいる筈だ。

 ただでさえ、魔女の事件で貴族に対する評価は一度地に落ちている。


 冷遇されそうな気がしてならない。

 身体を壊してしまうだろうし、きっと彼等では、生きていけないのでは無いだろうか……



 ……それともこのまま何もせず過ごし、学園内では主人公に関わらないようにして、決して嫌がらせを行わない?


 う〜〜〜ん……………………いや。幼少期から、将来に怯えて過ごすのは相当なストレスだと思うのよねえ。

 常に心労を抱えて過ごす訳だから、絶対身体に悪いはず。

 シミ、皺、白髪が増えたらどうしてくれる。

 こっちの世界にはビタミン剤とかないんだぞ!(怒)


 しかも、敵対するかもしれない相手に、カルト教団の残党がいるのだ。

 前世での宗教勧誘だって、居留守を使って躱してきたのだ。

 対峙するなど無理に決まっている。


 そう考えると、残った悪役令嬢達は皆、度胸と根性があると思う。なので私には無理ですせんぱぁぁい!!!!


 ……それにもう一つ、恐れている事がある。

 実は悪役令嬢の話には続きがあり、処刑が行われた後日、悪役令嬢の専属侍女が、主を止められなかった事を気に病み続け、良心の呵責に苛まれた後、最期は自害してしまう。


 私の専属侍女と言ったら、ナナしかいない。

 彼女が死ぬ可能性を残したまま、ここに留まるべきではないのだ。


 それならいっそ、この家を脱出するのはどうだろう。

 私が誘拐されたという事にして、“犯人は祖父だ”とメモを残し、容疑の矛先を向ける事ができたなら。

 そうすれば、祖父の屋敷内を捜査せざる得ないのではないだろうか……?


 もしそこで、カルト教団の信者である事を証明する、何か物的証拠を見つける事が出来たなら、祖父を連行する事ができる筈。


 “聖灰”とは、十中八九、麻薬で間違いないと思う。


 そんな危険な物を、いずれ手にする可能性がある祖父なら、私じゃなくても誰か他の人間を利用しそうでならない。


 ……いや、もしかしたら、現時点で既に所持している可能性すらある。

 祖父は魔女を崇拝していたのだから、信者である彼自身も麻薬を服用しているのではないだろうか。


 私がいなくなったその後で、万が一、家族の誰かに矛先が向かっても困るのだ。

 やはり、祖父はなんとしてでも切り離さなければならないだろう。


 ……それにもし、だ。

 強制力なんてものが存在していたり、私と同じように転生して、話の筋書きどおりに進めようとする者が現れたとしても、物語の要となる悪役令嬢がいなければストーリーは破綻する筈。


 最悪、祖父の屋敷から麻薬が見つかった事で、我が家が処分を受けるかもしれないが、没落する事は無いだろうし、私自身も死ぬ事はない。


 ただ、唯一の心残りはウェル様だ。


 彼は、私がいなくなった後も、変わらず過ごせてゆけるだろうか? カルト教団の娘を娶らされてしまわないか心配だ。


 ……ううん。彼ならば、きっなんとかするだろう。

 今だってまだ幼いのに、自分の意思で行動してきた人だ。

 私がいなくなっても、彼なら、自身に見合った素晴らしい女性を婚約者に迎えられるに違いない。 ……でも。

 彼が戻ってくるまで待っているって、約束したのに。

 ウェル様…… ごめんね……


 ジクジクと感じる胸の痛みに気づかないふりをして、そっと心の奥底に沈める。小さく息を吐きながらペンを置き、もう一度、最初から便箋に書き連ねてきた内容に目を通した。


 ……うん。我ながら、いい作戦ではないだろうか。

 問題は、この狂言に付き合ってくれる者の存在だ。

 協力者なくしてこの計画は成功しないだろう。


 誰か、いないだろうか……?

 若くて、できれば身寄りの無い。そんな誰かが……


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