11話・マリの迷い

わたしはなぜか、いきなり抱きしめられていたのであった。

ブスな私は、小学校のころに母が亡くなってから誰かに触れてもらった事が無かった。

 ニキビだらけの顔も、身体も気持ち悪いと言われてきた。それは常にでもなく、数年に一度派閥の標的にされた時に起こることだった。父親にだっこされた記憶もない。ましてやキスされるなんて、初めての経験だった。

 私は思わず、汐里くんから体を離そうとした。

だめだ。と言いたかった。

 わたしがこんな事していたら、汐里くんは私と同類になる。そしたら、汐里くんは耐えられなくなる。離れてしまう。

 私は離したかった。

でも、汐里くんは、そうしなかった。

 宝くじを買ったのは。

わたしは、わたしを手に入れたかったからだった。新しいわたしの未来を手に入れたかったからだった。


 整形もできる。引っ越しもできる。

アルバイトでためたお金もあるけれど、もう少し欲しかったのだ。


 でも、そんなわたしを見られて。

知られて。ずっと好きだった人に抱きしめられたのに、私は逃げたしたくなってしまったのだった。

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