第1話 インキャラです。
『これであなたもヨウキャラデビュー!!』
「なんだそれ」
そう言いながら目の前の23.8インチのモニターにうつった広告と睨み合っている。
パソコンのファンの音だけがする薄暗い部屋で一人“俺”こと佐藤悠斗は学生時代万年インキャラ生活に終止符をうつため、とある葛藤にさいなまれていた。
小さいころからあまり人と喋るのが得意ではなかった俺は友達ができることもなく息を殺して学生生活を送ってきたのだ。
知的好奇心といえどもこの広告を押してしまえば今更ながら自分がインキャラであること認めてしまうようなもの。一人前なインキャラである自分とそれをなかなか認めたくないの自分とが脳内で熾烈な戦いをしているのだ。
約15分の末、相反する自分の脳内の死闘は決着がつこうとしていた。
「万年インキャラの俺がそう簡単にヨウキャラになれると思うなよ。」
謎の自虐ネタを言い放ちながら広告を押すことに決めた。
広告をダブルクリックするとMMOの登録画面のようなものがでてきた。身長、体重、容姿は目、鼻、耳の色、形、位置、輪郭、髪型のなど極めつきはほくろの位置まで細かすぎなほどにいろいろ設定することができた。もっと下にスクロールするとMMOには珍しく性格や趣味までも設定することができた。
「へー、割と作りこまれてんな」
こういうのって普通かっこよくしたりするものだと思うが設定が、細かすぎて容姿を考えるのも面倒くさくなり、結局、毎朝鏡の前で見慣れた自分の顔面とまったく同じアバターを作ることにした。
名前 ユート
身長 166cm
体重 57kg
性格 ひねくれ者
趣味 人間観察
「これでおしまいっと」
すべて入力を終え、利用規約は必ずお読みくださいというご丁寧な忠告を当たり前のように無視し、一番下までスクロールする。
「ちょっと怪しいけど まぁ、大丈夫だろう」
厨二病を少しばかりこじらせていた頃にはよくやっていたようなゲームだ、と自信満々な様子で『確定』の文字を意味もなく力強くダブルクリックする。
その瞬間、時が止まったようだった。鋭い閃光が8畳ほどの部屋全体を覆いつくす。
鋭い閃光は俺のすべての感覚神経の情報を奪って去っていった。意識が朦朧としていく。
その閃光が消えた時、この部屋には誰もいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます