渡り鳥

田土マア

渡り鳥

 「今日から君たちと一緒に過ごしてもらう転校生が来ました。」と先生の紹介。

それに対して「こんな時期に転校生?」と

ヒソヒソと囁くクラスメイト。


そんなことは叶奈には聞こえていない様だった。叶奈は黒板に自分の名前を書いた。

「百瀬叶奈(ももせかな)と言います。よろしくお願いします。」と簡単に自己紹介した。


 叶奈は越してきたばかりでまだ地元のなまりが抜けていなかった。


 転校生ということもあってか最初はみんなにちやほやされていた。が一週間もすると誰も相手をしてくれなくなった。そればかりか多くのクラスメイトからはいじめを受けるようになった。

とても辛く毎日布団で泣きじゃくった。


 そして学校を休むようになった。三回目休んだ日家へ拓匠(たくみ)がやってきた。

「拓匠くん…だよね。どうしたの?」

「いや、さ。叶奈今日も学校休んだじゃん?だがらどんなふうしったんろうなぁって思ってや」

聞き覚えのある言葉遣いだった。


「もしかして拓匠くんってさ…」

戸惑いながら口に出す。

「うん。多分同じ場所がらこさ来たんや。」

なぜか安心と懐かしさを覚えた。

「俺も叶奈どおんなじ理由でハブがいでるし、友達もいねぐっての。叶奈が唯一近い存在がな。って思って。だがら先生さ家の住所聞いで来てみだな。」


 話のざっくりした所はそんなものだ。



 これから仲良く学校で生活をしよう。と拓匠が言ってくれたが叶奈はそれに首を振る。

「もう、無理だんよ…確かに拓匠くんが一緒にいでくいだら嬉しいし楽しいあんよ?けど…私前の学校でひどいことしたんだよ。」


「だがらなにや。それは今の叶奈さ関係ねぇろ?叶奈は今新しい生活を送ってんなんさげそんげ心配すっこどねぇろや。」


「…違うの。私がいじめられてる理由ってね。前の学校で私がいじめる側に回ってたからなの。それでその子3日4日行方不明になって…そして首を切ったの。近くにいた警察が急いで近くの病院に搬送して一命はとりとめたみたいなんだけどさ。それでいじめの主犯格は私だって。みんなに責められて、先生すらいじめた側の意見なんて聞いてくれなくって…だから居場所がなくなって。家には学校の連絡網を使った悪戯いたずら電話が毎日かかってきて…これはもうここに居られないってなってここに来たの。」


「叶奈…それって本当なの…?」


「…うん。本当のこと。」


「そっか。それでその噂を聞いた奴らが叶奈をハブりはじめたんだ。でも叶奈がいじめの主犯格だったとしても周りのやつらもそれに便乗してその子いじめてたんじゃないの?だったらそれは叶奈ばっかりが責められるのも違う気がするな。」


「でも私…もうどこにも居場所がないよ。どこに行っても多分同じ。いじめっ子だって見られるだけだよ…。」


「なら一緒に居場所作ろうぜ?」


「え…?何言ってんの?」


「だから、叶奈の人生やり直し計画俺も手伝うってこと!」


「確かに叶奈はひどいことしたかもしれないけどそれを失敗したって思うならまだやり直しは効くって!」


「そうかな…」


「うん。絶対。だけど叶奈、その後悔を忘れちゃダメだからね。」


「どうしても辛くなったら少し休もう。そしてまた頑張ろう。そうやって人って大きくなってくんじゃないかな。」


 その時の彼らの会話になまりは姿を表さなかった。


その日を境に拓匠と叶奈は仲良くなり、二人で学校に通うようになり、暇さえあれば話していた。たまに休むこともあったけどそれでもまた学校に来ていた。


 そうしていると周りは次第に暴力や暴言などを辞め二人をど田舎カップルと林たて噂した。が素直に二人に仲良くしてくれる子たちも増えてきた。そのうち叶奈と拓匠は居心地が良くなっていっていじめていた側が少数派へと移った。


 いつからか叶奈は拓匠のことが好きになっていった。もちろん拓匠も叶奈のことが好きだった。


 しかしお互いそれは口にしなかった。



ーそんなある日、拓匠が引っ越すということを担任から朝の会で伝えられた。

残された日数は明日を含め2日間。

明日の夕方にはこの町を出ていくらしい。

どうしてこんな急に伝えられなくてはいけないのだろう。

拓匠は何も叶奈に言っていなかった。

叶奈に話すと叶奈はすごくショックを受けてしまうと叶奈のことを思いやった決断だそうだ。


 次の日お別れ会を学校で開いた。

叶奈はそのまままっすぐ拓匠を見送るためにバス停へと向かった。


 夕方の5時半、空は綺麗な黄昏色に染まっていた。地平線が見えるバス停で拓匠と最後のお別れをする。


「ごめんの。あど少しで卒業だんさ。」


「大丈夫だよ…。あっちに行ってもその方言のまんまの拓匠でいてね。」


 別れの言葉というものを事前に考えていてもいざ別れるという時になんと声をかけていいかわからず上手く言葉が出てこなかった。


「来年のこの時期まだこっちさ来っから!絶対に。そん時まだ会おの!」


そう言って拓匠はバスに乗り込んでいった。


その後クラスの友達から聞いた話によると拓匠は転勤族の子供らしい。

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渡り鳥 田土マア @TadutiMaa

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