第6話 告白
彼女が悪夢にうなされた夜から数日が経ち、その内容は未だに知らないままだ。
あえて深く追求しないようにしているが、やはり気になる。
一体何だったのだろうか?
そして今日、彼女は友達の誕生日パーティーで出かけている。
昨夜のおやすみ電話で、
「終わったらポケベルを鳴らすね。」
と元気よく言っていた彼女。
「OK!楽しんできーや!」
と僕も元気よく送り出した。
「疲れてたら、連絡いいで。」
と気を使った方が良かったのだろうか?
自問自答しながらも、結局彼女からの連絡が気になる。
今の時刻は午後11:30をまわったところ。
シンデレラならそろそろ帰り仕度をしなければならない時間帯だ。
何度もポケベルを確認するが反応はない。
終電に乗り遅れたりしてないだろうか?
何かトラブルでもあったのではないだろうか?
事故などに巻き込まれたのではないだろうか?
いろんな想像が頭の中を駆け巡る。
人を好きになった時におちいりやすいあの症状だ。
相手の事が頭から離れない。
あまりにもいろんな事をいっぺんに考え過ぎたせいで、少し眠くてウトウトしていると、ポケベルの着信音で目が覚める。
時間を見ると既に日付けは変わり、夜中の1:00をまわったところだった。
それよりメッセージの内容だ。
「遅くなってごめんね、もう寝てるよね?」
「もしまだ起きてたらお願いがあるんやけど。」
「今から逢いたい。」
「ごめんなさい。嘘、無理やんね。」
僕は今から?と思いはしたが、しばらく考えて返信する。
「どしたん?何かあったの?とりあえず今から行くけど、どこにいてんの?」
すぐに返事が返ってくる。
「今、家に着いたところ。」
理由は返ってこない。
僕もすぐに返す。
「わかった。じゃあいつもの公園に今から30分後に行くから。」
すかさず返事が返ってくる。
「ありがとう。本当にごめんなさい。待ってる。」
それには返信せずに、身じたくを整えて10分後には車を走らせる。
真夜中の府道はガラガラでいつもより早く待ち合わせの場所へ到着する。
車を停めて、辺りを見回すと、助手席側から人影が近づいてくる。
彼女だ。
車のロックを解除して彼女を招き入れようとするが、ドアの前で立ち止まったまま、中々乗り込んで来ない。
どうしたのかと思い、窓を開けると、そこには半べそをかいてまぶたを腫らした彼女が立っていた。
僕は何て声をかけたらいいのかわからず、車から降りて助手席の方へ回り、彼女の手をつかんで、とにかく座席に座らせる。
僕も再度運転席に座り直し、彼女の様子を伺いながら、
「どないしたんかわからんけど、ちょっと落ち着いてからでいいから聞かせて。」
と優しく声をかける。
彼女は再び感情が込み上げてきたのか、何度も
「ごめんね。」
と言いながら泣きじゃくる。
僕は彼女の頭をなでながら、
「大丈夫やで。」
としばらくの間声をかけ続ける。
すると彼女は少し落ち着いたのか、大きなため息をついた後、涙声のまま話しはじめる。
「本当に今日はごめんね。」
「何から話したらいいのかわからんねんけど。」
「私、ずっと言わなあかんって思ってて、言えなくて、どうしたらいいのかわからんくなってて……。」
「私ね、本当は3年ぐらい前からずっと付き合っている人がいてるねん。」
「だけど、その人とはもう1年前ぐらいから好きとか嫌いとかそういう感じじゃなくて、何か家族みたいな感じやねん。」
「そんな時にある人と出会って告白されてん。」
「でも彼氏いるからってずっと断ってたんやけど、その人、じゃあ友達として付き合おうって言ってくれてん。」
「それからご飯行ったり、色々相談とかにのってもらってて……。」
「その人すごくいい人で、会っているうちに何となく私も好きに、なってしまって……。」
「その事を彼氏に言って別れて欲しいって言ったら、お前の気持ちがちゃんと俺の所に無いのは全部自分の責任だから、気持ち取り戻せるように頑張るからって泣きながら言われて。」
「私、もうどうしたらいいのかわからんくなって。気持ちは新しい人の方に行ってるんやけど。でも彼氏は本当に私のこと思ってくれてて……。どっちかに決めなあかんのに決められへんで。」
「それで、K君と出会うちょっと前にこんなんじゃ私最低だと思って、どっちかに決めるの無理やから両方に別れて欲しいって言ってん。」
「でも結局二人とも嫌だと言って別れてくれへんくて、私どうしたらいいのかわからんくなっててん。」
「もう何もかも決められへんし、そんな自分の事も嫌になってた時に、N君から仕事の先輩に面白い人いるねんけど気分転換に会ってみーひん?て言われてK君を紹介されてん。」
「ごめんね。何か私の話し、意味わからんやんなぁ。」
「でも私の今の正直な気持ちはK君とずっと一緒にいたいって思うから、今日彼氏に会ってその事話して、別れて欲しいって言ってきてん。」
「そしたらまた彼氏泣きだして、私も泣いて、もうどうしたらいいのかわからんくなって、でもK君に連絡するって約束したから何も解決しないまま帰ってきてん。」
「新しい人にはこないだ電話で話してわかってくれたと思うねんけど……。」
「私最低やんね……。」
「ずっと黙っててごめんなさい。」
そう言って彼女はまた泣きだした。
僕は彼女の話しを聞いて、内容がわからなかったわけではないが、少し頭の中で整理する時間が欲しかった。
「うーん。」
「……。」
「とりあえず、ちょっと考えさせて。」
そんな言葉しか出てこない。
泣いている彼女をまずはフォローするのが大人の男なのだろうけど、この時の僕はまだ余りにも未熟過ぎた。
ただ一つ、あの夜の彼女のお父さんの言葉がよみがえる、
「あっ、こんばんは!まあ、がんばってなっ!」
それは、彼女の恋愛事情を全部知った上での激励の言葉だったみたいだ。
つづく
*尚、この物語は実話をもとにしたフィクションです。
*文中に登場する僕は筆者の友人Kでその彼女はHです。その他の登場人物はイニシャルか三人称で表記しています。
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