第2話 初

お互いを好きになり、付き合うまでにそんなに時間はいりませんでした。


彼女は最初から僕に好意を抱いていて、僕自身も彼女のことがタイプだったからです。


それに、"付き合ってほしい"などといった正式な告白はした覚えが多分ありません。


ごく自然な成り行きでした。


次に会う約束はしたのですが、初デートに至るまでに2週間が過ぎ、その間毎日電話でいろんな話をしました。


お互いに仕事をしていましたのでかなり寝不足な日々が続き、何回かは電話中に寝落ちして、朝起きると携帯を握りしめたままのこともありました。




初デートはご飯を食べに行った後、少しドライブして湾岸沿いの夜景を見に行きました。


ご飯は柄にも無くイタリアンで、夜景は大阪港の橋の下で車を横付けできる場所でした。


二人でボーっと夜景を眺めながら近況を話し合い、家族や学生時代の話もしました。


お互いの自宅が車で20分ぐらいの所なので、高校の学区が一緒で共通点も多々有り、会話は弾みました。


そしてその日は健全に彼女を自宅に送って、また電話をすることだけ約束して別れました。


善は急げで、次の日彼女と電話をしようと思いポケベルを鳴らします。


すると5分後ぐらいに彼女の自宅から電話がかかってきたので、一回切ってこちらからかけ直します。


その頃の通話料はとても高かったので、携帯電話での会話に限らず、収入の多い僕の方がいつもかけ直していました。


彼女は気を使ってそれをとても嫌がっていましたが、僕が有無を言わさずそうしていましたので彼女も仕方無しにそれに従っていました。


その日の電話で次の遊園地デートの約束をし、二人で初めての日中デートなので「楽しみやね」"楽しみやな"と言いながら会話が弾み、その日もまた電話を持ったまま寝落ちしました。


そしてデートの当日、その日は快晴で絶好の遊園地日和でした。


自宅まで迎えに行くと、何か彼女がギョーさん荷物を抱えて出てくるので何やと思って聞くと、「ちょっと作り過ぎてん」と恥ずかしそうに言うので、まさかと思って、"もしかして弁当?"って聞くと、小さな声で「うん。美味しくないかも知れへんけど」と自信がなさそうに言うので、"マジで!ぜんっぜん大丈夫!お腹痛くなっても食べるから!"とデリカシーのかけらも無い言葉をかえす。


本当はメチャクチャ嬉しいのに、何か気の利いた言葉は無かったのか。


彼女は苦笑いしながらも「本当に?」と聞き返して、「本当にお腹痛くなるかもしれへんでっ」と僕のお腹をさわりながら悪戯っぽい目で見る。


手作り弁当に、ボディータッチ、これはヤバイ!僕は彼女のワールドにどっぷりハマってしまいそうだ!!


彼女の方が僕よりも一つ年下なのに。


気を取り直して?(理性を取り直して)遊園地に向かう。


遊園地に到着するとさすがに日曜日なだけあって人が多い。


でも幸せな二人にはそんなことは関係無く、乗り物の順番待ちの時間も楽しい。


そんな有意義な時間は過ぎるのもアッという間で、気づくともうすでにお昼の12時を回っている。


ちょうどお腹も空いてきたので、待望の手作り弁当タイムにすることにした。


春先で少しまだ肌寒かったけれど、心があたたかいのでそんなの関係無しに、芝生の上に彼女の用意してくれたレジャーシートを敷いて座る。


何もかも彼女が用意してくれて僕は座って食べるだけ。


殿様(バカ殿)気分だ。


あったかいお茶まで魔法瓶に用意してくれて、お茶も注いでくれる。


まさに王様(はだかの)気分だ。


並べられたお弁当を見ると色鮮やかで豪華、しかもおにぎりとサンドウィッチと両方ある。


なるほど!それで荷物がかさばっていたのだ!


「どっちが好きなんか分かれへんかったから」と彼女は少し困った顔で言う。


いただきますをして、"大丈夫!大丈夫!どっちも好きやから!"と僕は交互交互に頬張る。


「どう?」と彼女が心配そうに聞いてくる。


僕はもちろん"全部美味しい"と答える。


まだ全部食べてないけど。


「良かった」と彼女はにっこりと微笑む。


でも本当におにぎりもサンドウィッチも唐揚げもミートボールもタコさんウインナーも他も全部美味しい。


あっ、ひとつだけ、玉子焼きは甘かった。


それは彼女には内緒。


のちにどうしてこんなに料理が上手なのか理由を聞くと、彼女の家は自宅の1階で両親が印刷業を営んでいて、母親も夜遅くまで働いていることが多いらしく、よく妹と協力して家族の晩御飯を作っているからだと言っていた。


そんな女子力満載の料理をいただいて心もお腹も満足した僕は、食べてすぐに乗り物はキツイのでおばけ屋敷に彼女を誘った。


もちろん暗くて怖い所での多少の下心が無かったと言えば嘘になる。


彼女が本当に怖がりで、しかもコンタクトをしていて、視力が悪いというのも僕の下心に協力してくれた。


中に入ると時折彼女の顔が見えなくなるぐらい薄暗い場所もあり、足元も悪く、自然と二人寄り添うかたちで進んで行く。


すると急に足元が少し下がっていくような仕掛けがあり、そのあとガタンッという何かが外れるような音がして、彼女側の壁が光る。


そして突如として全身血だらけの女の幽霊が浮遊してくる。


彼女はおもいっきり驚いて僕の方へ寄りかかる。


僕は彼女に押されて反対側の壁にぶつかりそうになるのを必死に耐える。


彼女は本当に怖いらしく、さらに体を密着させて僕の服の袖をつかんでいる。


僕はそっと反対側の手でその彼女の手を持って、彼女側の手とつなぎ合わせる。


彼女は一瞬ビクッとしたが、大胆にも、もう片方の腕も僕の腕に絡ませてくる。


これで完全に腕も体も密着状態だ。


下心があったといえ、僕の心臓は激しく鼓動をうつ。


僕はそれに気づかれまいと心臓の位置をずらそうとするが、彼女の両腕にがっちりガードされて身動きがとれない。


変に体を動かそうとするものだから、彼女のオッパイが腕に当たって余計に鼓動が激しくなる。


僕は諦めて為すがままになり、そのまま先へと進む。


道中、彼女は仕掛けに驚いて奇声を発するわけではないが、仕掛けを通り過ぎるたびにビクッと体が反応するので驚いている様子は体からオッパイを伝ってわかる。


それぐらい彼女のものは膨よかなのだ。


僕はもうしばらくこの幸せな時間が続いてくれればいいのにと、よこしまな思いを巡らせる。


けれども、世の中そんなに甘くはなく、少し先に出口の明かりがチラつく。


マジかー、残念!


と声に出しそうになる。


そんな僕はおばけ屋敷の仕掛けなど上の空で歩いていたためか、最後の仕掛けに油断して本気で驚いてしまう。


彼女は怖さに少し慣れたのか、そんな僕を見てクスクスと笑っている。


情けない…。


おばけ屋敷を出てから気をとりなおして、フライングカーペットやジェットコースターにも乗る。


彼女はそっちの方は大丈夫らしく、キャッキャと少女のようにはしゃいでいる。


僕はどっちかというと、こっちの絶叫マシンの方が苦手で目をつぶってしまう。


「めーつむったらあかんでー」と彼女は僕をからかう。


僕は強がってるふりで、"めーにゴミ入っただけやけどー"とおどけて見せるしかない。


そんなアホなやり取りをしながら、ひと通り乗り物やアトラクションを楽しんで、日も暮れようとしていたので、最後に綺麗な夕景を眺めるために観覧車に乗ろうと二人で手をつなぎながら乗り場へ向かう。


観覧車は思ったより混み合ってなく、係員に案内されてすぐに乗れた。


最初はバランスを取る為に対面の席に座っていたが、僕が彼女の方へ座り直し、二人で見つめあうかたちで顔を窓の方へ向けて景色を眺める。


その日はよく晴れていて水平線の向こうに見える夕陽を二人でしばらく眺めていた。


僕はこの静かな二人だけの空間の中でマッタリと会話でもしようと思い、室内側へ向き直る。


すると彼女も「綺麗やね」と言いながら向き直り、僕に相づちを求める。


僕は「綺麗やんなぁ」と答え、彼女の方を見る。


その時、彼女の夕日に照らされたオレンジ色の瞳と僕の目が一瞬合う。


その瞬間、僕の男としての本能が今だ!と叫ぶ。


彼女の細い肩を持って自分の方へ引き寄せる。


そして頭を傾けて彼女の唇を奪おうとする…。


したけど、未遂に終わる。


彼女が顔を下の方へ向けて避けたので、僕は彼女の頭頂部の髪の毛にキスをするような間抜けな体制のままでお預けを食らってしまったのだ。


彼女はクスクスと笑っている。


僕があっけにとられ、次の動作をどうしたらいいのか分からず困っていると、今度はふいに彼女の方から僕の唇に軽くキスをしてきて、小悪魔のように微笑む。


僕はさらに動揺する。


まるで彼女の手の内で踊らされ、遊ばれているようだ。


僕の心は男の本能とプライドの狭間で揺れ動き、そんな状況が余計に欲情へと駆り立てる。


今度は少し強引に左手を彼女の腰に、右手を頬から首筋を伝いその後ろに回して身体全体を引き寄せ唇を奪う。


そして何度もキスをしながら腰に回した左手でどさくさに紛れて、さっきの仕返しのつもりで彼女の推定Eカップのオッパイを揉む。


唇と唇の隙間から彼女の切ない吐息が漏れる。


僕の理性はあえなく崩壊。


さらに欲情して、何度も唇を重ねながら今度は、彼女のオッパイの突起を刺激する。


彼女はそれに身体全体で反応し、「ダメっ」と一言。


それからあまりにも欲望がエスカレートし過ぎて、観覧車が一番下まで到着しそうなのに気付かず、危うく係員に見られそうになるところだった。


慌てて二人は離れ、係員が観覧車の扉を開けてくれたので、何事も無かったように外に出る。


彼女の方を振り返ると少し恥ずかしそうに髪をかきあげるようにしながら衣服を整えている。


すれ違いざまに係員がチラッと僕達を見たような、見ていないような、多分バレてただろう。


僕達の乗っていたゴンドラだけが少し揺れていたので。


それからすっかり日の落ちた遊園地を後にして、エスニック料理の店で夕食を食べ、今日はまだ2回目のデートなので続きは次回にということで彼女を自宅まで送って行った。


もちろん別れ際にキスをして抱きしめて、その余韻のさめやらぬまま帰宅の途についた。




つづく


*この物語は実話をもとにしたフィクションです。


*文中に登場する僕は筆者の友人Kでその彼女はHです。その他の登場人物はイニシャルか三人称で表記しています。

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