『桜の咲く頃にはいつも思いだす…』

scene

第1話 出逢い

僕が彼女と出会ったのはその年大阪でちょうど桜の開花宣言がなされた頃だった。


僕はその頃、高校を卒業して、とある建設会社に就職して2年が過ぎていた。


ある日、その会社の二つ後輩の男子Nから休み時間に突然、「Kさんって今彼女とかいてるんですか?」と聞かれる。


僕は少しドキッとして、"俺、男の趣味はないぞ"と心の中で思いながら、"そういう意味ではないか"と思い直し、少し間を置いて、"今は彼女はいてへんなぁ"と答える。


「今は彼女は」って何ですか?とNはすかさず聞き返す。


僕はこいつ鋭いなぁと思いながらも、"よく遊んだりする娘はお前も知ってる通りいてるけど、彼女はいてへんっていうことやな"と苦笑いしながら答える。


「Kさんって遊び人やもんなぁ」とNはにやにやしながら僕を見る。


"お前ほどじゃないわ"と僕もすかさず言い返す。


僕もビジュアル的には悪くなく、女の子の友達はたくさんいる方だが、Nはジャニーズ系の顔で特に女の子受けが良く、僕が知っているだけでも4、5人は彼女らしき娘がいるはずだ。


それを濁すようにNが話を元に戻す。


「それよりKさん、ひとりちょといい感じの娘がいて、その娘と会ってみる気ないですか?」といつものふざけた調子で僕に問いかける。


僕もNと合コンにでも行くかのようないつものノリで、"その娘、かわいいんかいな?"と聞き返す。


「えっとですね〜、芸能人でいったら、ジュディマリのYUKIに似てますね〜、あとは〜背がちっちゃくてKさん好みですよ」と僕の好みのタイプの基本のキ、小柄な娘という所を突いてくる。


したたかな後輩だ、と思いながらも少し興味の色を隠せずニヤけてしまう。


僕の頭の中でジュディマリの曲が流れる。




心の中でジュディマリのYUKIを想像してみる。


かわいいけどあまり好みではない。


どっちかというと清楚系女子の方がなどと贅沢な思案をしながら、まあ彼女もいないし行ってみるかといういつもの軽いノリで、"いいけど、いつや?"とNに問いかける。


「明日です!」とNはすかさず平然と答える。


"はい??"と僕は少し声が裏返り気味で疑問を投げかけ、"えっらい急やなぁ?"と普段の声で聞き返す。


「そうなんですよ〜。彼女、Hって言う娘なんですけど、Kさんの話したらすぐにでも会いたいって言って、急いでセッティングしたら明日になってしまいました。」と気まずそうにNが答える。


僕は"それで何で明日やねん"とツッコミたい気持ちを押さえて、"しかし、こいつ彼女に俺の事何て言って紹介したんやろ?"と疑問を抱きながら、"明日やな!何時から?"と平常心を装おって時間を聞く。


「仕事終わってからなんで、(PM)7:30に店予約してまーす。」


何と準備のいいことで、僕が断ったらどうするつもりだったのか?


"段取りいいなぁ!(PM)7:30からやな。"と苦笑いしながら僕は答える。


そして、"そろそろ昼飯終わりやな"と腕時計を見て、Nに目配せし、共に昼からの仕事へ足どり軽く向かう。


明後日、いつもNと合コンに行く日と同じように、朝からNと共に前倒しで段取り良く仕事をこなして、終業の30分前には作業を終えて片付けをし、定時には上司の「お前らまた合コンか?」というしょーもない絡みを無視して、そそくさと二人で帰宅した。


自宅に帰り、シャワーを浴びて身なりを整え、少しいつもよりオシャレな服を着て、早めに自宅を出る。


店の場所はあらかじめ聞いているので確認済みだ。


少し早いかなと思いながらも待ち合わせ時間の30分前に店の前に到着する。


店内のエントランスに入り、一応あたりを見回す。


当然Nはまだ来ていない。


かなり大きなビアレストラン風のお店で、エントランスも広々としている。


入口を入った右手の一番奥にレジカウンターがあり、その反対側の奥は多分トイレになっている。


トイレの入口付近には男女のカップルがイチャイチャと、その斜め向かいには女の子同士の3人組が何かキャッキャと楽しそうに話している。


そしてレジカウンターの斜め前ぐらいにポツンと小柄なセミロング女の子がひとり。


もしかしてあの娘かなと思い、気づかれないように観察していたところ、入口から知らない男が入って来てその娘に声をかけた。


僕は思わず、"違うんかい!!"と声に出してツッコミそうになるのをおさえて、更にあたりを見回す。


すると、さっきの彼氏持ちの女の子の更に奥、ちょうど受付カウンターの真向かいになるところが柱で少し窪みになっているのか、チラチラと赤いスカートの裾と茶色のロングブーツが見え隠れしている。


僕はその相手が見えてなおかつ変に思われないようなポジションに何気なく移動して、自然な感じで相手に悟られないように目線を向ける。


白いセーターに先程見え隠れしていた赤色のミニスカートと茶色のロングブーツ、髪は少し茶髪で肩より少し下で前髪ぱっつんのロリータ系、顔は確かにジュディマリのYUKIといえばそう。


でもどちらかというとジュディマリのYUKIよりはこの娘の方が好みのタイプ。


どストライクとまではいかないが、背も150cm有る無しで言うこと無しだ。


ここまで彼女の事をリサーチするのに4、5回はチラ見したが、まだ一度も目は合っていない。


それは緊張しているのか、退屈なのか、少し彼女がうつむきかげんだからだ。


それから、さすがに見ず知らずの人に声かけたらナンパと間違われるので、Nが入って来るのを待つことにした。


そして待ち合わせギリギリの7:30前にKが入って来て、「おつかれ様です!」と悪びれもせず元気良く挨拶をする。


"お前はゆとりか!"と心の中で叫ぶ。


Kはそんな僕の胸の内に気づくわけもなく、さっきの柱の影の彼女に真っ先に駆け寄る。


「Hさん!ごめんね、待った?」と彼女の名前を呼んで、かわいらしく手と手を顔の前で合わせる。


僕に対しての態度とえらい違いだ!


まあ、今日は女の子を紹介してもらうのだから我慢するけど…。


しかも彼女、結構タイプやし。


彼女こと、HさんはKの問いかけに、これまたビジュアルにマッチしたアニメ風のかわいらしい声で、「ううん、少し早く着きすぎてん」と大阪弁で答えて、にっこり笑う。


笑顔もかわいい。


Nは「じゃあ喉もかわいたし、いきまひょかっ」とHと受付カウンターへ向かおうとして、付け加えたように「Kさんも」と僕の方を見る。


"俺はごまめか!"と言いそうになるのを僕はおさえて"そやな"と一緒に向かう。


ウェイトレスのきれいなお姉さんが席まで案内してくれる。


店内は吹き抜けの天井になっていて開放感があり、インテリアや備品はどことなく南国の雰囲気をかもし出していて中々オシャレでいい店だ。


さすが、遊び人のNだけあって、いい店を知っている。


僕は最近のトレンドやこの手のことがあまり得意ではないので、こういったことだけはNの尊敬できるべきところだ。


他は人としてどうかと思うが。


僕達は席に着き、まずは飲み物の注文を聞かれる。


Nは「生2つ」とまずは即答で答え、「Hさんは?」と彼女に聞く。


少し考え、「私も一緒で」とHはNとウェイトレスの両方に笑顔で答える。


ウェイトレスは注文を復唱して立ち去る。


その後Nは、やっと僕をHに紹介してくれようと「とりあえず紹介しますね」とお決まりの言葉を切り出す。


僕は"遅っ"とツッコミたくなるのを我慢して、好青年風のキャラクターと外見を作り上げる。


Nは「こちらがKさんで、こちらがHさんです。」と二人を紹介する。


そして僕とH二人同時に、はじめまして◯◯ですと言おうとした瞬間に、隣の席でガシャーンかバシャーンかよくわからない音がして床がビールびたし?になり、二人の挨拶はかき消されてしまいました。


その後は隣の僕達まで立たされて、店員が4、5人来て床のガラスの破片やこぼれたビールを片付けていました。


満席で他の席が無いこともあり、数分間立ちっぱなしで呆然と見ているだけでした。


席も元通りに片付いて、その後、NとHが行きつけのスポーツジムで知り合ったとか、お互い芸能人の誰それに似てるとか話しましたが、実は最初の騒動が頭の中でぐるぐるスローモーションで何度も蘇ってきて、あまりにもインパクトが強いため、肝心な話の内容を覚えていません。


ただ、Hの自宅の電話番号とポケベルの番号を聞いて、自分の携帯とポケベルの番号を教えたのは覚えています。


もちろん別れ際に次に会う約束もしました。


これが僕と彼女との波乱に満ちた恋話のはじまりでした。



つづく



*尚、この物語は実話をもとにしたフィクションです。


*文中に登場する僕は筆者の友人Kでその彼女はHです。その他の登場人物はイニシャルか三人称で表記しています。


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