第19話
「……」
「だってそうだろ? なんで受験生がホテルに泊まって勉強するのをわざわざ報道しなきゃなんないんだ」
「報道しちゃだめなの?」
金太は口を尖らせて父親の顔を見た。
「いけないことはないけど、おそらくこれには大人の事情が多分に入ってるんじゃないかな。トウさんはそう思うね」
「大人の事情って?」
金太は、益々意味がわからないという顔をする。
「だって、これを見せてほかの受験生に奮起させようというふうには思えない。ほかに考えられることは、民間のテレビ局は広告料で番組の制作をしているから、塾生を集める手助けをしているとしか思えないな」
「そうなの?」
「まあ、そうだとは断言できないけど、そういう可能性もなくはないということ。あんまり気にしなくていい」
父親は、そこまで話してつと自分の子供が受験に立ち向かっていることに気がつき、急にトーンを落とした。
「うん」
金太はそのニュースを別な角度で観ていた。
(あんな露骨に交戦を挑むやつらに負けてたまるか!)
沸々と競争心がたぎりはじめた金太は、黙って自分部屋に向かった。
いまの金太は、以前の金太とは違う。これまでは数学の「数」という字を見ただけでアレルギー反応を起こしていたのだが、それもあまり気にしないまでになっている。
ところが机に向かって数学の参考書を開いてみたものの、さっぱり頭に入って来なくて、これ以上は無理だと考えた金太は、スマホを手にしてベッドに転がった。
しばらくネット検索していたが、それも飽きた金太はノッポにLINEを送った。
《明けましておめでとう。いま福岡なんだよネ。そっちはどう、寒い?》
新年の挨拶は昨日送っているのでその必要はないのだけれど、なぜかそう打ち込んでしまった。
昨日と違ってすぐに既読され、1分と経たない内に返事が来た。
《おめでとう。こっちもやっぱ寒い。毎日が忙しくてあんまりのんびりできん。久しぶりに帰ったけん親戚への回りが忙しか。明日は小学校の同級生と会うことになっとう。みんなで行く初詣、楽しみにしとうよ》
どうやらノッポは友だちと再会できるのを待ち望んでいるようだ。金太は、ノッポからのトークを読んで羨ましく思った。なにか自分だけ置いてけぼりにされているようで、スマホを投げ出すと、強く目を瞑った。
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