第18話
少しゆっくりの時間だったが、朝からキッチンテーブルの上には色鮮やかにおせち料理が盛られてあった。
昆布巻き、里芋の煮付け、田作り、車えびの塩焼き、椎茸のふくめ煮、鶏の唐揚げ。
金太は早く食べたくて何度も手を伸ばそうとしたが、その度に母親と姉の増美に睨まれるのだった。
やがて家族全員がテーブルに着き、新年の挨拶がすむと待ちに待った元旦の食事が賑やかにはじまった。金太は当然のこと最初にローストビーフに手を出す。父親はビールを片手にその様子を笑顔で見ている。母親は新年早々金太にダメ出しをする。
「金太、お肉ばっかじゃなくて、野菜も食べなさいよ」
「そうよ」
増美は自分の分がなくなるのを心配していう。
「わかってるよ」
金太はそういいながら、こんどは唐揚げに箸を伸ばした。
いつもよりゆっくりめの朝食がすむ頃になって、母親がお盆に載せたお椀を運んで来た。お正月には欠かすことのできないお雑煮だった。澄んだ汁のなかに小松菜と椎茸にかまぼこ、そしてほどよく焼き目のついたお餅がふた切れ入っていた。
「まだお代わりあるからね。慌てずにゆっくり食べなさいよ」
母親は、家族揃ってお椀をもつ姿にようやく新しい年が訪れたのを感じるのだった。
元旦の食事がすんでしばらくすると、父親が金太と増美をリビングに呼び、ふたりが楽しみにしていたお年玉袋を手渡した。早速ふたりは袋のなかを覗き込む。金太は喜びの表情を見せ、増美は微妙な表情で袋をポケットにしまった。山井家は親戚が多くないので、もし集金できるとしたら、母親の兄弟くらいしかない。それも正月のうちに会えるかどうかもわからないので、増美としては不服だったみたいだ。
正月といっても、朝から豪華な食事を食べ、お年玉をもらった以外は普段の連休と変わらなく思った金太は、リビングに移動すると、テレビを観ている父親の横に坐ってスマホを見はじめる。
「おかしいよな」
突然父親がテレビを観ながらつぶやいた。
その声に顔を上げた金太が画面に目をやると、ニュースで鉢巻をした少年が勝ち鬨を上げているところが写っていた。
どうやら、どこかの塾の主催で正月を返上してホテルに泊まりこんで受験勉強に取り組んでいるという報道のようだった。
「なにがおかしいの、トウさん?」
「いや、この受験生のニュースなんだけど、なんのためにこのニュースを流さなければならないか、ということだよ」
父親は少し怒ったような口調になっている。
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