第20話

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 この3日間がとてつもなく長い時間に思えた金太は、朝から落ち着かなかった。

 集合時間は10時と決めたのだが、早く家を出たくてしかたなかった。

 稲田神社まではそれぞれが向かい、神社の入り口で落ち合うことになっている。

 この前の秋祭りのときには、デーモンが妹を連れて来たので歩いて向かったのだが、今回はデーモンひとりだというので、自転車で行くことにした。

 やはりいちばん先に神社に着いたのは金太だった。15分も前に着いてみんなを待っている間中、LINEが入らないかと思いずっとスマホを握りっ放しだった。

 しばらくして次々にメンバーが集まりはじめ、そのたびに結社の決まりである「ボラーァ」という挨拶が飛び交った。

 神社はいつもと同じように入り口あたりから屋台が並び、食欲をそそるような甘い匂いが風に乗って流れて来る。参道もそれほど広くないので、両側に屋台が並ぶとなかなか歩きにくい。

 本殿までは結構な石段を昇らないと行けない。参拝客が連なっているので、足元の石段さえ見ることができない。もし見ようものなら、前の人のお尻に額が当たってしまう。

 それでもなんとか石段のいちばん上まで辿り着くと、そこもやはり人の海だった。でもさすが正月ということもあって、奇麗な着物姿が目立つ。まさに春の海だ。

 なかなか本殿に近づくことができなくて、気がつくと全員がばらばらになっていた。

 なんとか金太はお参りをすませ、社務所で合格祈願のお守りを購入したあと、高くなっている場所からメンバーの姿を探した。しばらくして、ノッポもアイコもデーモンもネズミも、みんな人の波に揉まれて疲れ切った顔で集合した。

 お参りをすませて石段を降りるのだが、またそれもひと苦労で、上りと同様に足元を見ることができない。無理に見ようとすると頭から落ちて行きそうだった。

 ほうほうの体で神社を出た金太たちは、あまりの人出に大きく溜め息をつきながら振り返る。何件もの屋台が軒を連ねているが、とてもゆっくりと覗いていられる状態ではなかった。

 そこで金太が提案する。

「なあ、みんな、久しぶりに全員が揃ったことだし、そこの駄菓子屋に行かないか?」

 そういいながら金太は自転車の鍵を外して歩きかけていた。別に反対する者もいなかったので、そのままメンバーは自転車を押しながら駄菓子屋に足は向いていた。

 店の前で自転車を停めると、金太を先頭にして店のなかに入っていった。

 どこにでもある普通の駄菓子屋なのだが、お好み焼や大判焼きも拵えている。さすがに冬なのでカキ氷の機械はビニールがかけられてあった。

 店のいちばん奥のベンチ型の椅子に並んで坐る。正面には丸型の石油ストーブが赤々と燃え盛っている。上には少し大きめの薬缶が湯気を噴いていた。

 あまり愛想の良くないおばちゃんに大きな声で注文する。金太とアイコは大判焼きを、ネズミはタマせんとコーラ、デーモンはジョージのことを思い出したのかカップラーメンのとんこつ味、そしてノッポはオレンジジュースをそれぞれ頼んだ。

 注文の品が揃うまで雑談をはじめた。いちばん先に話題になったのは、やはりお年玉の金額についてだった。みんなのなかでいちばん回収率の高かったのは、いうまでもなくデーモンだった。

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