第9話
秘密基地に早くから向かった金太は、メンバーと久しぶりに会うことで小屋の周囲の雑草を刈り取り、小屋のなかを奇麗に掃除してメンバーがいつ来てもいいように準備をした。
やがて全員が揃い、いざ暗号の話になったとき、みんなの元気が一気に消滅してしまった。誰一人として解読できなかったのだ。
金太は思った。自分より勉強のできるノッポやアイコでも解読できなかった問題が自分に解けるはずがないと、落胆の色を隠せなかった。
そんな金太の姿を見た優しいアイコが、「金太が悩んでる姿は見たくないから、みんなで協力して解読しようよ」と提案をしたことで、ふたたび気持ちをひとつにして暗号に取り組むのだった。
結局そのときは解読にいたらなかったのだが、父親から思いがけない提案があった。
「もうみんな大きくなって一緒に行動することもないから、家族でジャンボプールにでも行こう」といい出したのだ。金太はどっちでもよかったのだが、母親と姉はいい返事をしなかったため、ふたりだけで行くことになった。
ところが、プールに行く車のなかで父親が金太にすごいヒントをくれた。
暗号のいちばん下に書いてあった「1.0CM」っていうのはひょっとしたら1センチという意味じゃないか、といったのだ。だが金太はそれがどういう意味を持ち、どういうふうに上の文章に繋がるのかまったくわからなかった。
しかし、それがあとになってすごいヒントだということがわかる。
後日メンバーが金太の家に集まることになった。夏休みも残り少なくいた。
開口いちばんノッポが意外なことを口にした。
「金太のメールを見て、『暗号 直径』で検索してみると、『スキュタレー』という言葉がヒットしたんだ」
ノッポの話を聞いていたほかのメンバーは、なんのことかさっぱりわからないといった顔をする。
みんなが首を捻ったスキュタレーというのは、古代ギリシャの頃から使われていた暗号伝達方法で、いくつも文字が書かれてあるのでそのまま読んでもまったく意味がわからないのだが、決められた直径の棒状の物に巻きつけると、必要な文字が隣りどうしになってちゃんとした文章になるという暗号解読方法なのである。
書かれてあった暗号を解読すると、書かれてあったのは『愚公山を移す』という故事からの引用で、同じような意味で、よく知られた諺に『ローマは一日にしてならず』というのがある。
河合老人が金太に伝えたかったのは、「信念は山をも動かすことができる。でもそれはすぐにはできない」ということと、友だちと協力して物事を進めるようにわざと難しい言葉を択んだことがうかがえる。
なんとかみんなで協力し合って暗号を解読することができ、中学最後の夏休みも思い出を残して過ぎ去った。
(第3話「夏休みの約束」に収録)
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