第8話
だが、そのときすでに河合老人は金太の胸の内を把握しきっていた。しかし老人はなにもわからないといった顔で金太の話を聞いてやった。
① 自分の進む道をいまから決めておかなければならないのか。
② どうしたら苦手な教科を克服できるか。
③ 最短の時間でみんなに追いつくにはどうしたらいいのか。
④ これまで仲良しだった友だちは受験勉強を境に離れ離れになってしまうのか。
これは金太が河合老人に相談したかったことを箇条書きにまとめた文章である。
金太の相談を聞いて河合老人がしたアドバイスは、「当たり前のことだけど、ここまで来たらできることをするしかない。だから、焦ることなく、毎日少しずつ勉強時間を延ばすようにする。それと、友だちはいつまでたっても友だちなんだから、もし学校の勉強のことで知りたいことがあったら、格好つけずに聞いてみたらいい。『聞くは一時の恥、聞かぬは末代の恥』っていう諺があるだろ、それでこそ本当の友だちというもんだよ」というものだった。
その後も学校のことや勉強について話したり、男の子の遊びについて話しているとき、河合老人は意外なことを口にした。それは、ニューヨークに金太と同じ年の涼介という男の子と優芽というふたりの孫がいるということだった。さらには9月になって一家揃ってニューヨークから戻って来るという。金太はそれを聞いて、益々河合老人に親しみが湧くのだった。
河合老人の前では素直になれる金太は、しっかりと老人の言葉を耳に刻み、毎日少しずつ勉強する時間を増やすようにし、わからないことはノッポやアイコにメールを送って問題解決するようにした。
河合老人のアドバイスのまま半信半疑で机に向かうようになった金太は、なぜいままで気づかなかったのだろうと思うくらいスムースに取り組むことができた。
ある日そのことを河合老人に報告しようと河合邸まで行ったのだが、何度インターホンを押しても反応がない。いつもならすぐにお手伝いさんが迎えてくれるのだがこの日ばかりは違った。諦めて出直そうと思ったとき、通用口のところに幅1センチほどの細長い紙がだらりと下がっているのが目に入った。
金太は何気なく手にすると、それが自分宛の伝言であることに気づいた。
『金太くんへ スイカツラノウレイヲアヤマチトヤメバウシコサワグ 1.0CM』
だが、1度読んだだけではなんのことかまったく理解できなかった。河合老人が金太に宛てた暗号に違いない。
金太は日陰を探して座り込みもう1度ゆっくり読み返してみる。だが、さっぱり意味がわからない。今度は逆から読んでみる。ますますわからない。諦めた金太は、その細長い紙を丁寧に折りたたみ、自転車に跨った。
家に帰ってゆっくり解読しようした金太だったが、ポケットから紙を取り出したとき、がっくりと肩を落とした。丁寧にしまったつもりだったが、折ったため余計に皺が増えますます読み辛くなっていたのだ。
自分の部屋に籠ってなんとか解読しようとするのだが、頭のなかが堂々巡りしてしまいなかなか前に進まない。思いついたことを次々にインターネットで検索してみるのだが、まったく文章になるような言葉は見つからなかった。
どうしても解読したい金太は、夕飯のときに暗号のことを家族に話すのだが、両親も姉の増美も頭を捻るだけで、結局解読することができなかった。
悩んだ金太は、自室に戻るとノッポ、アイコ、ネズミに救援のメールを送る。
「勉強の間にこの不可解な文章を解読して欲しい」
それを読んだメンバーは、毎日代わり映えのしない問題に取り組み、いいかげんうんざりしていたところに金太からのメール。早速ノッポからの返信に胸のつかえが取れた金太は、いつもの土曜日に集合をかけた。
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