第6話

 金太たちの学校が夏休みに入った。

 こうなると、もう彼らの好奇心は留まるところを知らない。

 いつものように江戸の町を歩いていると、大きな声で瓦版屋が客を集めているところだった。そんな光景を目にしたことのない金太たちは、急いで瓦版屋の下に駆け寄ると、瓦版屋は、数ヶ月前に捕まった鼠小僧次郎吉の処刑の日が決まったことを知らせている。それまで江戸の町を賑わせた盗人なだけに、瓦版を求める町人は半端じゃなかった。

 だが、よく話を聞いていると金太たちが知っている、恵まれない人々に盗んだ金を分け与えていた鼠小僧次郎吉とはずいぶんと違っていた。どうやら鼠小僧次郎吉は盗んだ金のすべてを博打と女性と酒に費やしていたらしい。

 江戸の滞在もそこまではよかったのだが、おはるの母親に連れられて浅草の観音さんをお参りしておはるの家に帰ったとき、大事件が起きたのだ。

 肝心な携帯電話がなくなってしまったのだ。金太は真っ青になってあちこち探し回る。あれがないと2度と令和に戻ることができないのだ。メンバー全員はもちろんのこと、おはるまでも巻き込むことになってしまった。みんなして探しに探したのだが結局携帯電話は出て来なかった。

 しかたなくおはるの家にひと晩泊めてもらうことにし、明くる日もう1度頭を冷やして考えることにした。しかし問題は意外に簡単に解決した。犯人がわかったのだ。

 携帯電話を隠したのは、おはるの弟のよし吉だった。よし吉は金太たちがいない隙に携帯電話を見つけ、これまで見たことのない箱に興味を持ち、盗んで別の場所に隠しておいたのだった。それが発覚したのはおやつで食べた大福もちにまぶしてある片栗粉だった。

 そんなドタバタがありながら向こうから戻り、みんなで相談して、今度向こうに行くときにはおはるとよし吉にプレゼントを持って行こうということになり、思い思いのお土産を考えたのだが、携帯電話のバッテリーが消滅してしまい2度とおはるたちと会うことができなくなり、こうして江戸時代へのタイムトリップは終わったのだった。

                   (第2話「迷走の時間」に収録)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る